【第三場】
緩やかに、密やかに、運命は回り始める。
重い頭が徐々に目覚める。
部屋に真珠母が満ちる。
仄白く光が漂う。
光は緩やかに像を結び。
若者がふわりと降りる。
光に手を伸ばす。
寝台の身体を剥がす。
「もう、いいのか。」
息を止め、真っ直ぐに目を合わせる。
「ええ、本当に、有難うございました。」
生娘のようなご面相に、頬が緩む。
こいつは正真正銘のお坊ちゃんだ。
育ちの良さそうな物腰。
あどけなさの残る面差し。
その礼服は入隊の為か。
額に掛かる柔らかい髪。
考えた事もない世界の、住人。
俺が触れる術すらない。
この世界はお前らに、どう映る。
俺は知る由もない。
いつか俺は、叩き潰す。
お前の息衝くこの世界を。
神様もタチが悪すぎる。
俺達が交錯する。
そして、途は分かれゆく。
悪ふざけも、ここまでだ。
風は鳥の囀りを運ぶ。
若者は心持ち、首を傾ける。
困ったように、言葉を継ぐ。
「あの、先を急ぐので、もう行かないと。」
戸惑うように、周りを見る。
取って喰われるとでも、思っているのだろう。
「何にもないけど、これ、お礼に。」
恐る恐る、差し出す。
昨日着ていた毛皮か。
一番高価な品だろう。
俺なんかに礼を尽くそうというのか。
外套を持つ腕を、掴む。
まだ熱は、引かない。
手の中のそれが、熱い。
瞳が潤んで見える。
多分、熱のせいだ。
照り返す陽が、やけに眩しい。
振り切るように口の端を上げる。
華奢といってよい腕を引き寄せる。
頬に頬を寄せる。
柔らかな耳朶に呟く。
「今度会ったら、必ず、礼をする。」
弾かれた様に、虹彩が散る。
飛び退く様に、身体を引く。
顔を赤らめて飛び出していった。
天国の匂いが、部屋に残る。
いつしか、俺は、まどろむ。
暖かく、柔らかく、天国が包み込む。
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