. 【第一場】
吹雪は全てを飲み込んで、そして、荒れ狂う。
俺と大して変わらんな。
もう感覚の無くなった、脚を引き摺る。
束の間、苦い笑いが浮かぶ。
あんなクソ溜めに戻る位なら、貴様に食われてやろうじゃないか。
白い闇は、俺を彼方に引き戻す。
囚われの、虚無の恍惚。
虫けらになるのは、もう真っ平だ。
大博打を、打ってやる。
帝政ロシアを、転覆させる。
たとえ溺れるのは、自分であったとしても。
螺旋を描くように果てしない時間を、りかは歩き続けた。
雪原の彼方、ちっぽけな馬車が見えた。
雪の恐ろしさを知らない、都会者が。
吹雪に閉じ込められて、いい気味だ。
身包みはいで馬車を奪うか。
ゴーリーの宿屋迄はもう一息だ。
馬車の側に、軍服の若者が横たわる。
このまま捨ておけば、雪が全てを覆い隠す。
毛皮の外套だけ貰っておくか。
手を伸ばし、若者を仰向ける。
胸が、小さく上下する。
柔らかそうな唇が、少し開く。
まだ息があるようだ。
故郷に残した恋人の夢でも見ているのか。
安らいだ顔が、記憶の何処かに引っ掛かる。
蹴ろうと、足を出してみる。
躊躇う自分に、問い掛ける。
話に聞いた天使とは、こんな顔をしているのかもしれない。
「くっそう。」
そう呟いて、馬車に若者を運び込んだ。
撓る鞭が、雪を切る。
馬が大きく、一声嘶く。
この吹雪の果てに、何が待っている。
馬車は闇に飲み込まれる。
緩やかに波を打ち、そして、運命の幕が上がる。
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