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28-2 Q.これは何ですか? A.はい、御影はただの学生です

5-2 スキルの考察1 … ギルク戦前

8-3 こうやって稼げよな … ギルク戦後

14-3 巡り会う学内 … スキュラ戦後

17-7 そして紙屋優太郎は海外に赴く … 天竜と遭遇

26-3 決戦に向けて…… … 主様正体判明後


時系列は上記となっています。

5-2.5


===============

“『正体不明(?)』、姿を目視されても相手に正体を知られなくなる。


 相手が『鑑定モノクル』のスキルを所持したとしても、己のステータス情報の隠匿が可能。ただし、このスキルは正体を隠すだけの機能しか持たないため、探索系魔法やスキルには何ら干渉はしない”


“実績達成条件。

 本来は実績より得られるスキルではない。神秘性の高い最上位種族や高位魔族のみに許された固有スキルである”


“≪追記≫

 レベル差が50以上あり、かつ、強い興味を持たれている相手に対して正体を隠し続けた事により、人間族でありながら開眼したものと思われる。

 しかし、これが本来の『正体不明』スキルであるかは、スキル効果により誰にも解らない”


“深淵よ。深淵が私を覗き込む時、私もまた深淵を覗き込んでいるのだ”

===============


「なあ、優太郎。『正体不明(?)』スキルってもしかして、切り札にならないか?」

「ただ正体を隠すだけのスキルだぞ。直接的な攻撃能力を持たないスキルが、どうして切り札になる」


 紙屋優太郎の『正体不明(?)』スキルの評価は、それなりに高いものであった。が、俺としてはやや不満が残る。

 きっとこのスキルの真髄は、ステータスやパラメーターを隠す単純機能ではない。真実をコンクリートで固め、可能性の海へと投げ捨て、二度と浮き上げさせないところにある。……たぶん。


「このスキル説明文を見る限りさ、スキルやレベルをつかさどる神様みたいな存在ですら俺の正体が解らなくなっている」

「ただの大学生だけどな」

「いや、俺って存在は『正体不明(?)』スキルの効果で、等身大の素粒子と同じになっているって思えないか?」

「自らを量子的な存在と公言したいか。お前が二つあるスリットを通ると干渉縞かんしょうじまができるのか?」


 頭が良さそうな事を言っている馬鹿はこれだから困る、といった顔で優太郎は頭を左右に振る。



「……実は俺、お前の親友じゃなくて別人なんだ」



 失礼な親友のきもを、少し冷やしてやろう。


「お前……、変な事言うなよ。ホラーか?」

「皐月がライブチャット中に言っていただろ。溺死がどうのって。実は俺がその死んだ人です」

「冗談はよせって。確か、あの事件の被害者の名前、お前ではなかったはずだろうが」


 ふむ、確かに。

 偶然同じ大学の学生が、偶然同じ川に深夜出向き、偶然溺れて死んでしまったようだが、俺とはまったく異なる別人だ。


「優太郎は記憶を介して俺を観測できているから、『正体不明(?)』が効かないのか」

「何を俺で実験しやがった?」

「俺がその溺死した人をかたれば、化物だって驚かせられるんじゃないかなって」

「……化物が人間の亡霊ごときに怖がるとは思えないが」

「化物だけじゃない。世界のことわりだってだませるに違いない。そうなれば見せ掛け上、俺は亡霊と何一つ変わらない」


 優太郎はあまり俺の話を信用していないのか、ハぁ、とあきれを含んだ溜息を付いてみせた。


「誰にも中身を確認できない箱の中にゴミを詰めたからって、それが爆弾になるのが量子力学だと思っていたら、お前は真性の馬鹿だぞ」

「親友をゴミって言うなッ!」




 8-3.5


 講義をすべて受講し終えた大学生は真の自由を得る。まだ夕方五時だが、俺達大学生は若い。これから次の日の朝五時まで遊べるだけの体力がある。


「そんな大学生を、何の権利があって拘束する?」

「優太郎に聞いておいて欲しい事がもう一つだけあった。『正体不明(?)』スキルを使って化物を驚かさせないかって話だ」

「……まさか、試したのか?」


 あまり結果を期待していない優太郎だが、現実は愚かな大学生では想像できないぐらい意外性に富んでいる。


「ギルクって名前の中ボスで試してみた」


 『正体不明(?)』スキルを得て以来、俺は常時スキルを発動し続けている。

 コンビニ店員や大学の学生のような、俺に興味を持っていない人物がスキル発動中の俺をどう認識しているのか。答えは、俺を人間としては認識しているようだが、特定の誰かであるとは認識していない、であった。

 一方、俺の正体を知っている優太郎は、スキルを発動していても俺を親友だと認識できている。

 では、俺を恐ろしい人間だと心の奥底で思っていたギルクには、俺の顔はどう見えるのか。


「想像以上に怖がっていた。異世界の化物は人間を恐怖させる事はあっても、人間に恐怖する事はないからか、耐性が低い」


 俺の顔を見た瞬間のおびえが決定打となり、ギルクは死んだ。まるで、殺人犯が殺したはずの被害者とばったり出遭ったような反応を示し、巨大化したギルクは異常に体を強張こわばらせてしまった。


「……スキル効果だけにしては、妙だな」


 優太郎も実験結果をいぶかしがっている。

 まあ、俺に必殺技、フェイス・オープンが備わるのは悪い事ではないだろう。


「中ボスには、お前の顔はどう見えたと思う?」

「ギルクの奴には、俺の顔が見えていなかったみたいだ」



“嘘を言うな! 顔のない人間など、いてたまるものか!!”



「性能が分からないスキルはあまり使うな。思わぬ副作用が出る可能性がある」

「そうしたいけど、ギルクを倒して俺の存在がバレてしまったからね。注目され始めたら、すべて終らせるまではスキルは止められない。皐月にも卒業式を終えたら名前を明かすつもりだし」

「けェッ、惚気のろけか」




 14-3.5


 新スキルのお披露目ひろめを終えた。いつもならこれで優太郎と別れるのだが、今回はまだ要件が残っている。

 俺はあるスキルの副作用を優太郎に打ち明けた。


「『正体不明(?)』スキルなんだけどさ、思っていた以上にヤバイかもしれない」

「具体的には?」

「俺が俺でなくなっている時間がある……ような気がする。俺の正体はただの大学生のはずなのに、その自信がなくなる瞬間がある。もしかするとこの俺は、『正体不明(?)』スキルで正体を隠しているだけの別人なのかもしれない。下手をすると、人間ですらない可能性が――」


 俺は雷の魔法で自殺を図った落花生を、心肺蘇生で助けた。この事実は『救命救急』スキルの存在で立証される。

 だが、一方で、どこか底の黒い海から落花生を引き上げた記憶もあるのだ。そんな不可思議を実現可能なスキルを所持していないはずなのに、夢を覚えているように黒い海の光景を覚えてしまっている。


「スキュラが同じ海でたたられて消滅したのも覚えている。もしかすると、俺は本当に溺死した大学生なのかもしれない」

「馬鹿を言うな。俺はお前を馬鹿な大学生だと知っている」

「そう言ってくれる優太郎の存在が、俺をまだこの世にとどめてくれているのだろうな」


 禍々(まがまが)しい実感が、俺の主観を疑わしくしてしまっている。

 御影という謎の存在を、間違いなく俺だと信じてくれているのは、この世界にもう優太郎しかいない。


「自覚症状が出ている。もう『正体不明(?)』スキルを使うな」

「そうしたいけど、このスキルで『同化』されず、命拾いしたのは確かだから……」


 俺はもう『正体不明(?)』スキルなしでは生きられないかもしれない。


「依存性まであるスキルだ。危険だろ!」


 依存性ではなくて、怖いだけだ。

 スキルを停止した途端、俺は光に照られた影のように消えてしまう。そんな恐怖が心に生じてしまっているだけだ。




17-7.5


「精々、身を清めておけよ、マスクの人間よっ!」


 マフラー女が完全に消えた後、俺は優太郎に携帯で連絡する。その場をつくろうためとはいえ、俺は親友である優太郎を巻き込んでしまった。状況説明と今後の対策を伝える必要があった。

 マフラーの女から優太郎を確実に保護するためには、優太郎を遠くに逃がす必要がある。海外が有力であるが……単純に逃がすだけでは確実性がない。

 だから、俺は優太郎に入れ替わりを提案する。



「『正体不明(?)』スキルを使って御影を演じている大学生本人が、実は紙屋優太郎その人であった。こう敵を錯覚さっかくさせたい」



 親友の安全を図る。そのために最善をくしているような、自然な言葉を選んだつもりだった。


『案としては面白いが……お前、それは本当に俺のためか?』


 やっはり、優太郎はするどいな。

 俺の卑劣な本音を、優太郎は電話越しでも気付いてしまっている。


『お前は、俺に成り代わろうとしていないか?』


 俺はもう、俺がただの大学生だと信じ切れていない。疑っていると言った方が正しい。主様を倒して戦いに勝利したとしても、大学生の俺がそこにいないのであれば、すべてが無意味だ。

 だから、存在が確定している誰かの戸籍が欲しい。丁度同い年ぐらいの男なら条件としては最良だ。

 優太郎がマフラーの女に殺されてしまったら大変だから、代わりに俺が優太郎になってあげないと。


『……お前はもう、俺の知っているお前ではないのかもしれないな』

「ごめん……。近くに優太郎がいたら、本当に何か仕出かすかもしれない。それが怖いから優太郎は遠くに逃げてくれ」


 マフラー女が優太郎を狙ってくれたのは、時期が良かった。俺が完全に俺を見失う前に現れてくれたお陰で、俺は優太郎を殺さずに済んだ。


『……馬鹿が。お前はどう変貌へんぼうしてもお前だ。俺を殺せるか』

「そう言ってくれる優太郎は良い奴だよな。存在がうらやましいから、きっと、成り代わり工作は完璧に行えるだろうな」


 電話を終えた直後、優太郎はあずけてあった黒バイ四号に乗って街から離れてくれた。

 安全のため、潜伏先は優太郎本人しか知らない。




 26-3.5


 俺はもう、俺をただの大学生だとは信じていない。

 天竜川で溺れて死んだ事で、天竜川で死んでいった者の怨念おんねんを代表とする存在に昇格してしまった。

 超自然的で、呪いを達成するという目的のためであれば超常的な力を発揮できるが、所詮は死人。風が吹いただけで消えてしまいそうな、おぼろげな亡霊でしかない。

 優太郎だけは、俺を本来の学生に固定化できるので、物理的に一蹴いっしゅうできるだろう。

 ただ、己という主観を他人任せにして生きるのは辛い事だ。体から心臓を抜き出して他人に預けて、安心して生活できる人間はいない。

 優太郎が事故で死んでしまえば、連鎖的に、俺も完全なる亡霊と化してしまう。酷く恐ろしい。

 ……酷く恐ろしいが、四人の少女達の未来を思えばわずかに心が安定してくれた。


「桂さん」

「どうされましたか、御影様」

 セーフハウスから出て行く桂を呼び止める。玄関には俺と桂の二人しかいない。

「少し、話しておきたい事があります――」


 主様の正体を聞いてしまった後、俺は俺がただの大学生でなかったのを素直に喜ぶ事ができた。

 俺の正体が、異世界の化物に殺された死者達の怨念の一端であるのなら、呪いで怯えさせて、『暗殺』スキルでほふるのは容易であろう。

 そして、呪いを達成し、この世から消えてなくなるにしても、復讐対象をたたった高揚感にひたれるのであれば、きっとむくわれる。

 ならば、ただの大学生というツマラナイ正体にこだわる必要はないではないか。



「――俺の記憶を、幻惑魔法で操作してもらえませんか」



 最愛の少女達を残して消えてしまうのは心残りではある。

 この俺がただの大学生であるのなら、これっぽっちも皐月を恨んではいない。

 桂に記憶操作の依頼をして、亡霊として完成してしまうのはさびしい。


「御影様が、溺死した大学生だと思い込むように??」

「そうです。これでこの街には、俺の正体を知る人間は一人もいなくなります。俺が人間である事への未練を捨てた瞬間、俺は本物の亡霊にだってなれるでしょう」


 学園生に手を出すのは危険だと、皐月達の告白の返事を卒業式の後まで保留にしておいて良かった。

 主様を倒した後、勝敗に関わらず、俺は確実にいなくなる。消えてしまう男を悲しむ気持ちは、少ない方が良いはずだ。恋人ならアウトだったかもしれないが、恋人直前ならそう問題にはならないさ。


「記憶を忘れて、自分を捨ててしまって、それで御影様はよろしいのですの!」

「主様を倒せる方法を、これしか思い付けなかった。皆はこれから決戦までがんばるでしょうが、たぶん無駄な努力です」

「……わたくしは、どんなに不服でも、御影様の願いであれば従ってしまう女ですわ」

「ありがとうございます。……あ、桂さんはここでの会話を忘れるよう、自分の記憶も操作してくださいね」


 桂の記憶が残っていては完全性がそこなわれる。何事も徹底が必要だ。

 好いている男の記憶を操作する。その嫌悪感に桂は表情を失ってうつむいていたが、最後には承諾しょうだくしてくれた。


「もちろんですわ。御影様の記憶を改竄かいざんした後、この会話を忘れます」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
[一言]   禍々《まがまが》しい がルビになっていません。  なろうでのルビの振り方を知らないのでこちらで報告させていだきます。
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