26-3 決戦に向けて……
ブレイクタイムを挟んだ後、俺は皆に方針を提示した。
「たった一つだけ、主様に勝てる方法がある」
沈んでいたリビングの空気が、目に見えて軽くなる。照明の明るさも増した気がする。
「真であろうな。旦那様を疑いたくはないが、たった数分で魔王を屠る妙案が浮かぶのであれば、異世界の魔界は異世界と同じように開墾されておるわ」
天竜だけは慎重なようだ。俺がこの場を繕うだけの藁を皆に掴ませて、一緒に天竜川で溺れて心中しようとしているのでは、こう疑っている。
当然の反応だが、従僕だけしかそんな反応をしないから、騙されて魔法少女になってしまったのだと思う。
「俺を信じてもらうしかないな」
「我を信じさせたくば、具体案を申せ」
「具体案はある……。俺の職業はアサシンだ。先のオーリン戦を終えた後、『暗殺』スキルを会得した」
一度言葉を区切って、俺は主様を倒せる唯一の方法を告げる。
『暗殺』スキルであれば、回復スキルで瞬間回復しようと関係ない。また、根を分化させて地下の奥深くに隠していようと関係なく対象に死をもたらせられる。
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“『暗殺』、どんな強者でも殺傷せしめるスキル。
対象の心に大きな隙のある場合、攻撃がヒットした際に対象を一撃で仕留められる。
ただし、スキルが発動する確率は対象の心の隙の大きさ、ヒット時のダメージ量、スキル所持者の運に大きく依存する。
スキル発動は攻撃のたびに判定が行われるが、初撃以降は確率が大きく下がるので注意。
人間族が人間族をナイフで闇討ちした際の発動確率は二〇パーセント程度。人間族が一般的なボス級魔族の隙を付いた際の発動確率は一パーセントを下回る。よって、スキルに頼るぐらいなら最初から一撃死可能な攻撃を仕掛ける方が無難である。
スキルの発動条件的に、スキルの対象となるものは心を持つ者に限定される”
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「『暗殺』スキルの説明文を信じればだけどね」
「スキルの発動条件が厳しくない?」
「『一発逆転』スキル持ちの俺に、確率はあってないようなものだ」
皐月の疑問への回答も、考えていた通りすらすらと答えていく。
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“『一発逆転』、どん底状態からでも、『運』さえ正常機能すれば立ち直れるスキル。
極限状態になればなるほど『運』が倍化していく”
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「兄さんだけに危険な役目を負わせられない」
「もちろんだ。全員、命の危険が伴う役目はある」
表情を読み取りにくい浅子だが、心の内に秘められた覚悟は隠せない。
浅子には主様を討つ理由がある。天竜川に主様が現れなければ、浅子の姉はスキュラに殺される事はなかった。元凶を倒せる可能性があるのであれば、義理の兄の作戦でなくても賛同しただろう。
もちろん、浅子だけが死地に赴く決意をしている訳ではない。
「分かったです。皆で一点突破して、私達はいいから先に行くです、と御影を送り出すです」
「それだと奇襲にならない。俺が考えている作戦では、あえて戦力を分散させて同時攻撃を行い、主様の注意を散漫させておくのが最重要だ」
来夏は少し好戦的過ぎる。本番では死ぬ程戦ってもらうつもりだが、本当に死んでもらいたくはない。
「御影さん。私も一人で戦うのかい?」
「秋はレベルが70に届いていないから、魔法攻撃が通じない可能性が高い。天竜の補助をお願いしたい」
「我は生身を失っておるゆえ、『魔』を自力で生産できぬ。電池のように『魔』を献上するが良い。その分、我が敵を切り裂いてやろう」
秋と天竜はペアで戦ってもらう予定だ。
ほとんど幽霊な天竜は『魔』を生産できないようなので、外部から『魔』を供給する必要がある。耐魔アイテムを主様が装備していないはずがないので、レベルの足りない秋には補助役を担当してもらうのが適切だろう。
ちなみに、天竜は食事ができるが、食べたところで『魔』は回復しないので純粋に食事を楽しんでいるだけである。
更にちなみに、天竜は秋が作成したゴーレムをカスタムして憑依している。が、決戦時もゴーレムのまま戦ってもらおうとは考えていない。
「天竜、確認しておきたい。憑依できる物は魔法の生成物だけなのか。例えば、自動車に乗り移って運転手不在で運転できれば都合が良い」
「できるぞ。魂のない器であれば制限はない。機械は扱いが難しいゆえ、自由に動かすには慣らしが必要であるが」
「決戦までに秘密兵器を用意しておく。きっと、主様だって驚くはずさ」
その後、細かいスケジュールを皆で決めていく。当日まで英気を養うために温泉旅行に出掛けるのも悪くない。
……冗談だ。そんな気分ではないので、皆には義務を課した。
「皐月、浅子、来夏、秋は一緒に行動だ。護衛で天竜を残しておくから安心してくれ」
「あの……御影様。私はどうすれば……ひぃっ! 勝手に意見してしまい、すいません!」
「あー、リリームは俺と行動だ。俺にも護衛があった方が皆安心するだろう」
行うべき事が確定した時、人間はもっとも力を発揮できる。
俺達は、無事に卒業式を迎えられるように準備を開始した。
「桂さん」
「どうされましたか、御影様」
一人、セーフハウスから出て行く桂を呼び止める。玄関には俺と桂の二人しかいない。
「少し、話しておきたい事があります――」
残り七日――。
セーフハウスに詰めている魔法使い四人は、購入したばかりのパソコンの液晶画面を睨みつけている。
「機械音痴だから、何がどうなっているのか分からないけど、これで良いの?」
「皐月はそれで問題ない。一億円の赤字で破産した」
「秋と私はまだ一億稼げていないです。タイムリミットは一日です」
「稼いでも破産しないとならないなんて……」
四人が決戦の日までにクリアしなければならない課題は、スキルの増強だった。
オーリンの時とは異なり、今回は時間的に余裕がある。かねてより考えていたスキルの共有計画を実施しているのだ。
……バイナリという手段でだが。
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“ステータスが更新されました
ステータス更新詳細
●実績達成ボーナススキル『成金(強制)』を取得しました”
“『成金(強制)』、両手から溢れ出る金にほくそ笑むスキル。
金銭感覚が麻痺するが、持ち資産で実現可能な欲望に対する耐性が百パーセントになる。
往々にして、人は現在資産以上の金を求めてしまうため、スキルを有効活用できる場面は少ない。
強制スキルであるため、解除不能”
“実績達成条件。
マッカル金貨一万枚分の金を一日で稼ぐ”
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「あ、スキルを覚えたです。あんまり実感がないですが、私笑っているですか?」
「金の亡者のような、嫌な微笑み方をしているよ。来夏」
四人が取得しようとしているのは、御影と同じ『一発逆転』スキルである。『運』の恩恵はいまいち分かりにくいところがあるが、あるに越した事はない。
普通に考えて、素人がたった一日で億単位の金を稼ぐのは難しい。
しかし、四人の『運』は常人よりも高い。御影が現れるまでまったく上昇しなかった『運』であるが、オーリン戦での連続レベルアップ時に増えていた。二択問題程度なら簡単に攻略できる。
「これで破産したままだったら、御影が養ってくれるのかなー。私の実家は壊れたままだし」
「皐月が駄目になったら、私が兄さんの正妻になる。安心して没落して良い」
残り三日――。
『――それで、私達がスキルを取るためにがんばっている間、御影は何しているのよ』
「ちょっと、オーストラリアまで野暮用だ」
『――桂と一緒に?』
国際電話で聞こえてくる皐月の声は、酷く恨めしい。
南半球にあるオーストラリアはまだ暑い季節なのに、背筋が凍ってしまいそうだ。
「地球滅亡の危機とはいえ、他人に迷惑を掛けてしまう。迷惑を少しでも軽減するためには桂の幻惑魔法が必要だ。遊びや観光ではないから安心しろ」
『――卒業したら一緒に旅行だからね』
「ああ、楽しみにしておくよ」
残り一日――。
「……ねえ、皆」
「何です、皐月?」
見上げた夜空には、無限に瞬く星々。天井どころか壁もない場所で野宿しているのだから、星が良く見える。
地方都市特有のまだまだ綺麗な空の雄大さが、少女達の心を育む事だろう。
「スキル獲得は必要だけどさ、秋の『野宿』まで覚える必要があるとは思えないのだけど。どう?」
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“『野宿』、自然の中に回帰するスキル。
屋根のない場所でも快眠できるようになる。
また、野宿中に野生生物、野党に襲われる可能性が軽減され、寒暖の変化にも強くなる”
“実績達成条件。
文明から離れた自然の中で一晩を過ごす。ただし屋外”
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「だって、皆が『呪文一節省略』を覚えられないから」
既に『野宿』スキルを所持している秋だけは眠たそうに口を開いた。
「難しすぎるのよ!」
「秋が変態なだけ」
「秋を悪く言うなです。天才と何とかは紙一重です!」
そして当日――。
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●皐月 (サツキ)
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“●レベル:74”
“ステータス詳細
●力:28 守:35 速:35
●魔:212/212
●運:10”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●実績達成ボーナススキル『火魔法趣向』
●実績達成ボーナススキル『ファイターズ・ハイ』
●実績達成ボーナススキル『成金』
●実績達成ボーナススキル『破産』
●実績達成ボーナススキル『一発逆転』
●実績達成ボーナススキル『野宿』
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』(非表示)(無効化)”
“職業詳細
●魔法使い(Aランク)”
“装備アイテム詳細
●火妖精の袴(火魔法威力三割増)”
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●浅子 (アジサイ)
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“●レベル:75”
“ステータス詳細
●力:27 守:36 速:63
●魔:190/190
●運:8”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●実績達成ボーナススキル『耐幻術』
●実績達成ボーナススキル『氷魔法研鑽』
●実績達成ボーナススキル『インファイト・マジシャン』
●実績達成ボーナススキル『姉の愛』
●実績達成ボーナススキル『成金』
●実績達成ボーナススキル『破産』
●実績達成ボーナススキル『一発逆転』
●実績達成ボーナススキル『野宿』
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』(非表示)(無効化)”
“職業詳細
●魔法使い(Aランク)”
“装備アイテム詳細
●雪女の和服(氷魔法威力二割増)”
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●来夏 (落花生)
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“●レベル:75”
“ステータス詳細
●力:33 守:41 速:74
●魔:185/185
●運:5”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●実績達成ボーナススキル『インファイト・マジシャン』
●実績達成ボーナススキル『雷魔法手練』
●実績達成ボーナススキル『成金』
●実績達成ボーナススキル『破産』
●実績達成ボーナススキル『一発逆転』
●実績達成ボーナススキル『野宿』
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命(強)』(完全無効化)”
“職業詳細
●魔法使い(Aランク)”
“装備アイテム詳細
●雷神のリボン(雷魔法速度五割増)”
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●ラベンダー
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“●レベル:50”
“ステータス詳細
●力:16 守:28 速:25
●魔:158/158
●運:12”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●実績達成ボーナススキル『エンカウント率低下』
●実績達成ボーナススキル『土魔法皆伝』
●実績達成ボーナススキル『呪文一節省略』
●実績達成ボーナススキル『土属性モンスター生成』
●実績達成ボーナススキル『野宿』
●実績達成ボーナススキル『成金』
●実績達成ボーナススキル『破産』
●実績達成ボーナススキル『一発逆転』
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』(非表示)(中断)”
“職業詳細
●魔法使い(Aランク)”
“装備アイテム詳細
●夜天生地のタイトドレス(気配遮断付与)”
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●御影
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“●レベル:26”
“ステータス詳細
●力:21 守:6 速:44
●魔:0/0
●運:11”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●アサシン固有スキル『暗器』
●アサシン固有スキル『暗視』
●アサシン固有スキル『暗躍』
●アサシン固有スキル『暗澹』
●アサシン固有スキル『暗殺』(New)
●実績達成ボーナススキル『エンカウント率上昇(強制)』
●実績達成ボーナススキル『非殺傷攻撃』
●実績達成ボーナススキル『正体不明(?)』
●実績達成ボーナススキル『オーク・クライ』
●実績達成ボーナススキル『吊橋効果(大)(強制)』
●実績達成ボーナススキル『成金』
●実績達成ボーナススキル『破産』
●実績達成ボーナススキル『一発逆転』
●実績達成ボーナススキル『救命救急』
●スキュラ固有スキル『耐毒』
●実績達成ボーナススキル『ハーレむ』”
“職業詳細
●アサシン(Aランク)”
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ここまできたので、ぐだぐたするよりも
すばやくシナリオを展開させた方が良いと思いました。
次回より、決戦開始です。