25-3 拉致監禁
なろう運営「作者、あなたは健全ですか?」
作者「はい、健全です」
なろう運営「健全は義務です」
……なんのことか分からないと思いますが、察してください。
「――起きるです。御影」
「……起きないようだけど。だ、大丈夫かな。強く眠らせすぎでは。いや、起きてしまっても、どう弁明すれば」
……眠い。まるで魔法で眠らされているような眠さだ。
「いまさら動じても遅いです。匙は投げられたです」
「匙を投げちゃ駄目だって。……で、これからどうするの?」
今週は勇者レオナルドが現れて以降、仮眠しか取れていなかった。せっかく眠っているのだから、何が原因で眠っているかの詮索を止めて、このまま眠るのが正しい。
「秋。後発組が先発組に追いつくには、乱暴な手段が必要になるものです」
「でも、来夏さ。本人の同意なしに眠らせて拉致や監禁って不味くない。やっぱり」
それに、目を覚ますのは危険な香りがする。来夏の使っている柑橘系の香水に似ているな、これ。
「肩を揺らしたぐらいでは起きないですね。――稲妻、感電、電」
「何でも魔法に頼るのは悪い癖だよ、来夏。それに、その魔法だと起きても麻痺する」
誰かに身を挺して守られた感触が、頬に張りついた。
俺の頭部は赤子のように抱えられているのだろう。柔らかい感触が擦り付けられているが、はっきりと分からない。傍から漂う清涼感のある匂いも、覚えはない。
二人の少女が耳元であーでもない、こーでもないと議論を続けている。
このまま無駄な抵抗を続けても、深い睡眠は望めない。もっと命に関わる魔法を使われる前に起きてしまおう。
「……来夏と、秋? 俺は眠っていた、のか?」
ピンボケ眼に意識を集中させる。視界の左右から、二人の少女の顔が仰向けになっている俺のマスクを覗き込んでいた。
右にいるのは来夏だ。サイドアップをまとめる黄色いリボンが栄える、勝気な少女である。
「おはようです。御影」
左にいるのは秋だ。ウルフヘアがとても良く似合う、中性的な顔立ちのモデル体形少女である。
「あれ、桂さんは? どうして二人が??」
よく分からないが、来夏と秋が目の前にいる。二人は、通っている女学園が指定している紺のブレザーとチェック柄のスカートを身に着けていた。魔法少女の服装ばかり見慣れた二人だからこその学生らしさに、不覚にもドキっとした。
「ここはどこだ??」
状況を整理しよう。
まず、変身前の魔法少女二人が俺を見下ろしている。
次に、俺は布団にしては固い感触の下布団に寝転んでいる。天井はあまり高いとは言えない。作りは倉庫のようにシンプルだ。というか、本当に倉庫のような場所にいる。主に体育で使用する道具が周辺に立ち並んでいるな。
見覚えのない密室に男女三人でいる状況。
更に言えば、男女の内、女二人は現役の学園生である事。
これを複合的に考えれば……ふむ、何らかの事案の臭いがする。
「事件性で言うと、御影さんは縄で縛られているのですが」
ほら、大学生一人が誘拐、監禁される事案が発生してしまっている。秋は申し訳なさそうな顔で俺を覗き込んでいるが、そんな秋も共犯の一人で間違いない。
今の俺はどうやら、縄で縛られた上で運動マットに寝かされているらしい。
「……まず、ここがどこか聞いておこうか」
「私達の学園の体育倉庫です」
やはり倉庫か。女学園も共学も、体育倉庫の微妙にカビた臭いは変わらないな。
「どうやって俺を誘拐した?」
「桂に協力を頼んだです。魔法で眠らされた御影を受け取った後は、そのままここに直行です」
「学園に部外者の俺を運び入れる事ができたのも魔法の力か」
「御影は旅行カバンに入れて運びました」
万能の魔法を使える癖に、どうして俺だけ荷物なのだ。
それはともかく、主様を裏切っている月桂花が、更に俺を裏切ったというのが信じ難い。
……いや、桂が協力したのは、来夏と秋が魔法少女だからかもしれない。魔法少女に対する贖罪のつもりで共謀したのだろう。
状況は圧倒的に不利である。拘束されたアサシンが魔法少女二人に抑え込まれている。
単独での脱出は望めない。が、こうも追い込まれていると逆に二人を挑発したくなる。
「こんな事をしても無駄だぞ、すぐに助けがやってくる」
「皐月を当てにしているのであれば無駄です、御影。天竜も買収済みですから」
「離せぇえぇぇっ! この駄天竜!」
「うるさい小娘め。我の食事はまだ終わっておらぬ。食事中は静かで、報われてなければならんと教育されておらんのか」
リリームとの風呂を共にした皐月は、リビングに帰ってきて御影の不在を知った。
来夏と秋もいない事を不信に思った皐月。すぐに御影の後を追いかけようとしたのだが、足だけドラゴンに戻した天竜に踏まれ、拘束されてしまっている。
「旦那様がモテれば、第一夫人としては鼻が高いであろうに」
「卵生生物に、人間の嫉妬心が理解できてたまるかァ! 御影ぇ!」
「ええい、うるさい」
ちなみに、浅子はリリームの餌付けに従事している。第二夫人としては、下に何人かいた方が下剋上し易いと考えている。何気に黒いのが浅子の長所であった。
「俺は何で買収された」
「シュークリーム三つで天竜様はOKされました」
俺、安くないか?
「諦めて屈服するべきです。無駄に長く苦しむよりは、楽になりたいと思わないですか?」
「ふっ。優位を気取っているつもりらしいが、来夏こそ、もう止めておくべきだ。今ならお遊びで済まされる」
悪い顔の来夏。彼女とは以前、殺し合った実績がある。まさか、今回の誘拐はその続きか。
「……言ったです」
「俺が何を言った?」
「帰ったら、続きをするって言ったですからっ!」
来夏の発言で俺は瞬間的に思い出した。
天竜川上流で来夏がファースト・キスを俺にくれた時に、来夏はキスの続きをすると宣言していたのだ。来夏の好意に対して、俺はまだ返事を何もしていなかった。これは誘拐されても仕方がない。
「意地悪を言う御影にはお仕置きが必要ですっ!」
来夏の微笑に嫌な予感がした。縄で縛られている俺の服を脱がそうと指をニギニギ動かしており、なかなかにいやらしい。
「ひぃ、秋っ! 助けてくれッ」
親友の暴走を制止してもらおうと秋に助けを乞う。
秋は大きくうなづいた後、少し慌てて俺の上半身へと覆いかぶさり、暴れる俺を抑え込む。違う、そうじゃない。
「御影さん。私も来夏と同じで、御影さんに恋しています」
「いきなり何――んんっ!?」
秋は俺を黙らせるために唇で唇を塞いできた。更に抜かりなく、見かけよりも豊満な胸部でプレスし俺を動けなくしている。
「これが、一目惚れの心臓の音です。分かりますか?」
「だからって、俺達まだお互いを良く知らないしさ!」
「こうやってクイって上げた記憶もありませんか! あのクィっの責任を取ってくださいっ」
クィって何のクィって考えていると、秋が俺の顎をクィっと持ち上げてきた。美人顔の近くに寄せられて、やだ、ドキってしちゃう。
来夏と行動を共にしている時点で、秋も俺とのより深い関係を望んでいた。親友同士で行動している分、皐月や浅子よりも気持ちの高ぶりは強いかもしれない。少なくとも、性急なのは間違いない。
「いいか二人とも。俺の一番は皐月で、変えられない!」
「これから一番を奪ってやるです」
「一途みたいな事を言いながら浅子ともいい関係になっている二股野郎が俺の正体だ! 惚れる要素がどこにある!」
「これから四股にするなら、二股くらい」
二人の決意と結束は固かった。
抵抗虚しく俺は二人の毒牙にかかり、ディープな方のキスを実施させられる。
「そ、卒業までは。二人とも、これ以上は卒業してから! アー」