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25-2 アサシン職のAランクスキル

 ドアを開いて、1K部屋に入室する。

 桂は俺のベッドで横になっていた。天竜川上流で決着が付いた後、これまでの人生の精神的圧迫がたたったのか、桂は微熱で寝込んでしまっていたのだ。

 桂は死んだ魔法少女の誰かから祟られているのでは、と自虐的に微笑んでいたが。


「桂さん。体調はどうです」

「御影様のベッドをお借りして、申し訳ありませんわ」

「病人なのにたった一人でさびしい思いをさせて、俺の方こそすいません」

「殺されないのが不思議な女です。御影様ももっと物を扱うようにしていただいて構いませんわ」


 桂はれたハンドタオルをひたいに乗せていた。もう少し気をきかせて、部屋にくる途中のドラッグストアで冷却シートを購入しておくべきだったか。

 俺を出迎えようと上半身を起こしたため、桂の額からハンドタオルが落ちていく。

 ……ちなみに、桂が着ているのは胸が妙に協調されてしまっているパジャマだ。サイズが二回り以上合っていないため、ボタンを止められず谷間からヘソまで地肌がむき出しである。

 背丈で負ける俺の愛用品を使ってもらっているのだから当然だ。


「この胸が育ったのは、主様から『奇跡の葉』を連続使用された弊害ですわ。昔の日本人にしては骨格も大き過ぎると思われたでしょうが、『奇跡の葉』が潜在していた成長の可能性をすべて引き出してしまって」


 桂の恵まれた体と、その恵まれた体に下着を着けないのは別問題だと思いますが。

 真ん中に手を差し入れれば、手が埋没してしまう程に巨大な二つの丸みが、上下に揺れる。


「お触りになりますか? こんな女でよろしければですが」

「……冗談にしろ本気にしろ、後回しで。容体が安定しているなら――」


 親指をマスクの下に差し入れる。マスクを一センチほど浮かして、意識的に桂に対する口調を強めた。



「――桂、本題に入るぞ。主様と俺が戦って、俺が勝てると思うか?」



 パジャマで着物のように胸元を隠した桂を、椅子に座って向き合う。


「最初の質問に答えてもらう前に、確認だ。オーリンは調査をあえておこたった。桂は俺の正体に行きつかなかった。天竜は最後の二択で断念した。……それを踏まえて聞きたい、主様に対しても俺の神秘性は有効だと思うか?」


 桂は俺の質問に答える前に、一度脳内で考えを整理する。指と指とを組んで意識を集中させた。

 やや時間を掛けてから、桂は口を開く。


「御影様の情報収集をしていたのはわたくしです。ですが、主様が別ルートから情報を仕入れていないとは言い切れませんわ」

「主様にもう配下はいないのだろう。人手は不十分ではないのか」

「天竜川で最初の魔法使いとなる少女を集めたのは、主様です。主様は魔界の王ですが、人間社会にも精通していますわ。楽観はできないとお考えください」


 天竜は土地神職のスキルの助けがあって、短期間で一枚の写真から俺の身辺調査を行えた。

 主様も同様のスキルを所持しているとは思えないが、調査時間は二週間以上あった。桂の事前調査も活用できれば、俺にたどり着いている可能性はある。


「ですが、悲観できるだけの要素もありません。悩みはきませんので、御影様の真のお名前が主様にばれていない事を前提にさせてください」

「その前提で問題ない。マスクの裏側の穴が、主様に通じるかが知りたいだけだ」

「――率直そっちょくに申し上げて、主様を恐怖心だけで討伐するのは限界がありますわ」


 歯に衣着せぬ考察だ。桂の言っている事は、正しい。


「御影様のソレは、あの世に直通している穴のようなものだと推察しております。正直なところ、魔法的な物であるかも判別できません。間違っているのであれば訂正をお願い致します」

「効果の認識が正しければ正体については言及げんきゅうしない。俺の素顔は生者にとっては醜悪らしい。物理的な作用は一切ないというのに、恐怖心をあおられて、勝手に自滅してくれる」

「千年単位で生きている主様の心でさえ、乱す程の恐怖が御影様には存在すると思われますわ。ですが……主様をそれだけで討伐するのは至難です」


 百年間、ずっと主様に仕えていた桂の感想だ。俺も俺の秘密だけで主様に勝てるとは思っていなかったので、きっと、桂の見解は正しいのだ。

 ……だが、俺の職業、アサシン職とのコンボであれば、僅かながら可能性はあるかもしれない。


===============

“●レベル:26”


“ステータス詳細

 ●力:21 守:6 速:44

 ●魔:0/0

 ●運:11”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●アサシン固有スキル『暗器』

 ●アサシン固有スキル『暗視』

 ●アサシン固有スキル『暗躍』

 ●アサシン固有スキル『暗澹あんたん

 ●アサシン固有スキル『暗殺』(New)

 ●実績達成ボーナススキル『エンカウント率上昇(強制)』

 ●実績達成ボーナススキル『非殺傷攻撃』

 ●実績達成ボーナススキル『正体不明(?)』

 ●実績達成ボーナススキル『オーク・クライ』

 ●実績達成ボーナススキル『吊橋効果(大)(強制)』

 ●実績達成ボーナススキル『成金』

 ●実績達成ボーナススキル『破産』

 ●実績達成ボーナススキル『一発逆転』

 ●実績達成ボーナススキル『救命救急』

 ●スキュラ固有スキル『耐毒』

 ●実績達成ボーナススキル『ハーレむ』”


“職業詳細

 ●アサシン(Aランク)”

===============

“『暗殺』、どんな強者でも殺傷せしめるスキル。


 対象の心に大きな隙のある場合、攻撃がヒットした際に対象を一撃で仕留しとめられる。

 ただし、スキルが発動する確率は対象の心の隙の大きさ、ヒット時のダメージ量、スキル所持者の運に大きく依存する。

 スキル発動は攻撃のたびに判定が行われるが、初撃以降は確率が大きく下がるので注意。

 人間族が人間族をナイフで闇討ちした際の発動確率は二〇パーセント程度。人間族が一般的なボス級魔族の隙を付いた際の発動確率は一パーセントを下回る。よって、スキルに頼るぐらいなら最初から一撃死可能な攻撃を仕掛ける方が無難である。

 スキルの発動条件的に、スキルの対象となるものは心を持つ者に限定される”


“実績達成条件。

 アサシン職をAランクまで熟練する”

===============


 やはり、アサシンは『暗殺』するからアサシンなのだ。職業ランクの上昇がレベル依存ではないと分かっていたが、主様との決戦を前にスキルを得られたのは幸運だった。


「主様の能力は――」

「主様については全員が揃っている時に説明してくれ。手間が省ける」

承知しょうちいたしました。御影様。体調は明日にでも回復するでしょうから、その際に主様の詳細を説明いたします」


 百年主様に仕えた桂でさえ、俺では主様に討伐できないと予測したのだ。主様も同様に俺を見くびっているなら、俺はその隙を利用して主様を『暗殺』スキルでほうむる。

 逆に、予想外に主様が俺を恐れているのであれば、その恐怖に付け入って『暗殺』スキルを使用する。

 どう転んでも、俺の勝利は揺るがない。


「……御影様。考察と希望は異なります。何の根拠も持ってはおりませんが、わたくしは御影様ならば主様を討伐できると信じております。きっと、わたくしの背中にいたはずの二人の親友も、そうであったと信じております」


===============

“●レベル:92”


“ステータス詳細

 ●力:25 守:41 速:45

 ●魔:320/320

 ●運:1”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●魔法使い固有スキル『魔・良成長』

 ●魔法使い固有スキル『三節呪文』

 ●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』

 ●魔法使い固有スキル『四節呪文』

 ●魔法使い固有スキル『五節呪文』

 ●実績達成ボーナススキル『死者の手の乗る天秤(強制)』(無効化)

 ●実績達成ボーナススキル『不老(強制)』

 ●実績達成ボーナススキル『幻惑魔法皆伝』

 ●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』(非表示)(無効化)”


“職業詳細

 ●魔法使い(Sランク)”

===============


 ほら、不意打ちを受ければ、誰だって心が揺さぶられるものだろう。




 桂に聞いておきたかった事は聞き終えた。対主様の作戦会議に先立って、俺自身が難敵に勝利する自信が欲しかったのである。

 ただ、桂の最後の言葉が一番俺をはげましたくれたのだが。椅子に格好付けて座り、桂に考察を強要する必要はなかったような気がしなくもない。

 まだ微熱が続いている桂は、俺の部屋で安静にしてもらう。

 トンボ返りになるが、俺はこのままセーフハウスに帰らせてもらおう。



「――そうでしたわ。御影様」



 桂の方はまだ用事が残っていたようだ。足を止めて、玄関に向けていた体を反転させて桂に振り返る。


「なんです。桂さ――」

「――沈黙、睡眠、催眠月。はい、少しお疲れのようですし、眠ってもらいますわ」

「ん……ぇ」


 俺の思考は、桂の色の薄い瞳を見た直後に、停止して、い……。

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 助けたいシリーズ一覧

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 第二作 誰も俺を助けてくれない

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