23-2(?) 悪夢の7日目
―― 七日目 ――
誰かから名前を呼ばれても、もう起きたくはない。こう左の手の平で左耳を塞ぐ。
どう動いても助からないのだから、もう起きたくはない。こう右の手の平で右耳を塞ぐ。
それでも七日目が始まれば、月桂花は呼ばれてしまう。
「起きろ、ゲッケイカ」
桔梗という名の殺人鬼が、肩を揺らして悪夢を再現しようと呼びかけてくる。
これで何度目の悪夢なのか分からない。悪夢が総じて、覚えておきたくない事柄で埋め尽くされている所為で、月桂花は数えておきたくなかったのだ。
今、肩を揺らしている桔梗について行けば、人気のない場所に誘導されて最後には斬り捨てられていしまう。
一方で、桜と行動を共にすれば、何故か捕まっている級友を助けようと無謀な挑戦を行って、毎回失敗する。
どちらが好ましいかなど、月桂花にとってはどうでも良かった。
起きても悪夢が続くだけなのなら、一層の事、眠っている間に殺害して欲しい。そう思って、月桂花は耳を塞ぎ続ける。
ただし、このパターンの悪夢も経験済みだった。
時間がくると強制的に玉座に連れて行かれて、男の不評を買って簡単に死んでしまう。
今回もその通りだった。
―― 七日目 ――
「もう、起きたくない……。助けて、御影……」
―― 七日目 ――
「兄さん。もう目を覚ましたくない……」
―― 七日目 ――
「嫌です。何もかも、早く、殺してです……。御影、殺して」
―― 七日目 ――
また、月桂花は肩を叩かれてしまった。
最近では無反応を突き通す事にすっかり慣れてしまい、耳を塞がなくても狸寝入りを続けられる。
ここ数百回、月桂花は悪夢から目覚めない現状を、悪夢と思わないように努めていた。常に悪い夢を見ているのであれば、平均的にはいつも悪い夢を見ているという事にはならない。
バッドエンドしか存在しないゲームで、どのバッドエンドが最良だったかなんて考察は空しいだけである。
「……苦しいのは分かるさ。悪夢なんだし、当然だ。それでも、三人は真のバッドエンドを探すべきだと思うぞ。それが先輩に対する、現代の魔法少女の責務だろう」
肩ではなく、額を撫でられたために、月桂花達は僅かに反応してしまう。
「攻略のヒントぐらい教えておこう。まだ試していないパターンがある。三人いるんだから、地下牢も一緒に――ッ!? 痛てぇッ! あのクソ耳長族ッ!!」
「あー痛てぇ! 後ろの正面だあれ!」