22-8 月夜なのだから、夢に没しよう
代表で二人のパラメーターを掲示
●浅子 (アジサイ)
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“●レベル:73”
“ステータス詳細
●力:26 守:35 速:57
●魔:91/184
●運:1”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●実績達成ボーナススキル『耐幻術』
●実績達成ボーナススキル『氷魔法研鑽』
●実績達成ボーナススキル『インファイト・マジシャン』
●実績達成ボーナススキル『姉の愛』
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』(非表示)(無効化)”
“職業詳細
●魔法使い(Aランク)”
“装備アイテム詳細
●雪女の和服(氷魔法威力二割増)”
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●桂 (ゲッケイ)
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“●レベル:92”
“ステータス詳細
●力:25 守:41 速:45
●魔:270/320
●運:1”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●魔法使い固有スキル『五節呪文』
●実績達成ボーナススキル『幻惑魔法皆伝』
●実績達成ボーナススキル『不老(強制)』
●実績達成ボーナススキル『死者の手の乗る天秤』
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』(非表示)”
“職業詳細
●魔法使い(Sランク)”
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「かごめ、囲女――」
上下一体の薄黄色のドレスを怪しく揺らして、月の魔法使い、楠桂は夜空を歩く。
鳥のように飛んでいるのとは異なる。風船で浮かんでいるかのように、に桂はゆったりと高度八メートル付近を右へ、左へとステップを踏んでいる。
回避行動としては緩慢であったが、奇妙な事に地上から放たれる魔法はことごとく命中しない。
「――稲妻、炭化、電圧撃ッ! どうして当たらないのですッ」
「――籠の中の鳥は、いついつ出やる?」
「幻術の類なら、私には効かないッ。――貫通、発射、氷柱擲」
来夏の電撃の速度であれば、ただ浮かんでいるだけの桂に当たらない道理はない。
しかし、桂は体術で魔法を避けている訳ではないのだ。
月属性は月面の文様の如く、人の精神を惑わす。暗い海を見上げた人間は、それを兎とも蟹とも、女の横顔とも表現する。同様に、魔法の照準を幻惑するぐらい造作もない。
ただ、例外があるとすれば浅子である。『耐幻術』スキル持ちの浅子に対してだけは、桂の幻惑は通用しない。
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“『耐幻術』、魔法にさえ負けない強い精神の証明スキル。
精神に影響のある能力を魔法、スキルの区別なしに無効化できる”
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伸び上がる氷の柱は、月の魔法使いの正確な現座標に向かって発射されていったが、氷の魔法は桂に直撃しなかった。もう少しで届いたはずなのにレジストされてしまうのだ。
経験値を獲得してきた年数が違う。魔法使いとして、桂は実存したどの天竜川の魔法使いよりも勝っている。レベルが30も低い魔法使いの魔法をかき消すぐらい、できて当然だ。
「――偽造、誘導、朧月。――夜明けの晩に、鶴と亀は滑った」
「目で見て当たらないのなら、空全体を業火で包めば問題ない。――全焼、業火、疾走、火炎竜巻ッ!」
敵の幹部級がのこのこと現れたとなれば、この場で『魔』を惜しむ必要はないのだ。だから皐月は、存分に空を焼き尽くす。
オーガ一掃し、あのギルクさえも葬った信頼性ある広域全焼魔法。火力極振りの皐月の魔法は、桂とてそう容易くレジストできるものではない。幻惑の攻略方法としては最悪であるが、領域全体を燃やせば桂がどこにいても炭化できる。
……そんな力押しに対しては、桂も力で対抗すれば良いだけの話だが。
「――偽造、誘導、霧散、朧月夜、夢虫の夢は妨げないだろう。――後ろの正面」
赤く熱く染まったはずの夜空が、急速に元の冷たさを取り戻してしまう。
桂が用いているレジスト魔法は、術者を幻惑する魔法ではない。魔法そのものをジャックし、強制中断させてしまう。威力の高さで抵抗できるものではない。
桂だけが使用可能な『五節』の魔法に抗える実力を、皐月も浅子も来夏も、誰一人有していないのだ。
「――だあれ? 追憶、回想、悪夢、新月夜、月のいなくなった夜に希望は絶えてしまうだろう――ムーン・エンド」
そして、桂の魔法詠唱はすべて完了した。
知らず知らずと桂が謡う童謡を傾聴していた皐月と来夏は、瞳の色を失って地面に崩れていった。昏睡した二人は、桂が演出する悪夢の主人公を演じ始めている。
唯一、浅子だけは『耐幻術』スキルによって、瞼を擦りながらも眠らずに済んでいる。たった一人残されてしまった訳であるが、戦闘意欲は失われていない。
「スキルを解除して、お眠りなさい。眠っている間だけは、オーガから貴女方を守って差し上げますわ」
「……何が目的?」
「わたくしは月の魔法使いですわ。けれども、どこで狂ってしまったのか、己では判断できませんの。そろそろ、第三者の意見を伺っておこうと思いまして」
桂は感情のない瞳で浅子を見下ろしている。悪意が感じられないというよりは、機械のように感情そのものが見受けられない。或いは昆虫の瞳というべきか。
桂が浅子を悪夢に招待しているのは、その方が魔法で戦うよりも効率的だからに過ぎない。
「貴女方が見る夢は、過去に私が経験したノンフィクションですわ。わたくしが十八歳だった頃に、春が訪れる直前の一週間の追体験。安心なさい、わたくしはこうして生きていますから、夢の中で死ぬ事はない。デッドエンドと分かっていない夢を見るぐらい、恐れるに足らないと思いませんの?」
『耐幻術』スキルを活用すれば、桂に勝てるかもしれないと浅子は脳内で勝利の道筋を組み上げている。
しかし、遠くでは、陣形を組み直したオーガが再度行軍を開始している。桂とモンスター軍団、その二つを相手にして勝つのは不可能だ。
眠ったところで何かが好転するとは思えない。が、浅子は皐月と来夏、二人と手を繋いで横になる。
「オーガから守るという話、兄さんに誓える?」
「――御影様だけは、裏切りませんわ」
「じゃあ、寝る」
義理の兄を信じる浅子の行動は早かった。スキルを解除して、先行する二人を追いかけて深い悪夢へと沈んでいく。
「……御影様はね。私と同じように、魔法使いを恨んでいるのよ。そんな男を信じて眠ってしまうなんて」
呆れた桂は夜空から地面へと降りていく。
そして、眠った三人の魔法使いの傍に腰を下ろす。悪夢から覚めるには時間が必要だ。立ったまま待っているよりは、座って夜空を見上げている方が有意義に感じられたのだろう。
……下弦の月が浮かんでいたはずの空からは、月は消えてしまっていたが。
クリスマス前だというのに、危機ばかりが続く……。