「つかさの冬」第2部 6.氷解と再生
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第11回
「淳平くん…どうしたの…こんなことして……こんなことしたって,何にも変わらないのに…」
手を引く真中に,戸惑いの声が背中から聞こえる。
真中に連れ出されたとはいっても,自分から進んで着いて来てくれるわけではない。
真中の行動を,非難するわけでもなく。
かといって,喜ぶわけでもなく。
今の自分の立場に,ただただ迷っている顔がそこにあった。
手を離してしまえば,立ち止まってどこかへ行ってしまいそうなつかさ…
何だか,その存在感すら儚げで,このまま消えてしまいそうな気すらしてしまう。
哀しく…
痛ましく…
……西野…ごめんよ……今度こそ…絶対に離さない……
決心の言葉を胸に,真中は奥歯をぐっと噛み締めた。
「西野……ずっと,逢いたかったんだ」
抱き締めようとして,すっとかわされる。
ズキと胸に痛みが奔るのを覚えながら,真中はつかさの絶望の深さを知る思いがする。
「駄目だよ,淳平くん……もうあたしは,どこまでも汚れてしまったの。淳平くんが関わっていい
ような女のコじゃないんだよ」
「西野…」
「淳平くん……あの動画を観たのなら,淳平くんだってもう分かっているはずだよ。あたし…あの
人たちの女になったんだ。この意味…分かるよね? 今まで,ずっと抱かれてたってことなんだよ。
それも,イヤイヤなったんじゃないの。確かに,最初は無理やりだったけど,いつの間にか…凄く
気持ちよくなって……あの人たちに抱かれるのが好きになっていたの。淳平くんを傷つけた大嫌い
な人たちだったのに…あたし,自分から腰を動かして求めるようになったんだよ。『もっとして』
『気持ちいい』『イカせて』『欲しい』って,何回言ったか分からない。淳平くんが,あたしのこ
とで苦しんでいるのを知りながら,その間,あたしはずっと,狂ったみたいにセックスに夢中になっ
ていたのよ。あたしは…そんな最低な女なの。だから,淳平くん……もう,これ以上,あたしにか
まわないで……かかわっちゃ駄目だよ」
つかさの大きな瞳が,瞬きもせずに真中を見つめていた。
何かを心に決めた,強い目だった。
救い出されても,それですべてが帳消しになるわけではない。
自分のやってきたことは,誰よりも自分がよく分かっている……
そう考えているだろう,つかさの思考が伝わってくる。
……西野らしい…よな……
真中は嘆息した。
見ていて,哀しくなるほどつかさらしい潔さだと思う。
目を逸らそうともせず,ただ正面からじっと真中の目を見つめ返してくる大きな瞳。
自分の決心を,揺るがせまいとするかのように。
多分,つかさの言っていることは,ある意味本当なんだろう。
もう戻れない,それだけの罪が自分にはある,そのことを痛いほど感じているからこその告白。
けれど,つかさの言っているすべてが本当でもない。
それは,自分を責めるための,つかさの主観でしかないのだから。
……西野……そんなことまで言って…俺に嫌われようとして……
胸が苦しかった。
つかさは,本当の決別をしようとしている。
真中という自分のために…
……辛かったな…西野……俺が不甲斐なかったばっかりに……
以前の自分であれば,つかさの言葉に驚き,戸惑いを隠せなかったかもしれない。
いや,あの動画で,男たちを受け入れている姿態を観た時点で,あまりの嫉妬と無力感に心は折
れていただろう。
しかし,今そこに感じるのは,もう嫉妬でも戸惑いでもなかった。
言葉の奥にある……つかさ自身の,体の芯まで冷えていくような暗い絶望。
このままでは,つかさは決して救われない…
恐らく,今のつかさには,少し前の真中自身がそうであったように,自分自身に対する破壊願望
が巣くっている。
もしここで手を離してしまったら……今度こそ自ら望んで,堕ちるところまで堕ちて行ってしま
うだろう。
もう,これ以上はないくらいに。
それが分かるからこそ,今だけは,絶対につかさの言葉に頷くことはできない。
……西野……
こんなになってまで,毎日を生きていく辛さはどれほどのものだったか…
何とか,つかさの道を元に戻して上げたい。
自分が信じられる道を。
……そうだ…西野に似合うのは,ハッピーエンドだけなんだ……
真中は,両脚に力をこめて踏ん張った。
「じゃあね,淳平くん。今度こそ,さよならだよ。もう,こんなことしたら駄目だからね」
名残惜しいけど,もう十分。
それだけ言うと,つかさは,にっこりと笑顔を浮かべ背中を向ける。
……顔を見ることができて嬉しかったよ……淳平くん……でも,淳平くんには,前を向いてもらわ
なきゃ,ね……
つかさは,背中でふっと笑った。
……あたしが,あたし自身よりも大切な存在…それが淳平くん……
名前を呼ぶだけで,幸せな気持ちになる。
けれど,大切な真中のためには,自分のことを忘れてもらった方がいい。
とにかく,真中には,早く自分という過去を捨てて幸せになってもらいたかった。
自分は価値のない女だということを,思い知らせなければならなかった。
そのために,真中を傷つけると分かっていながら,言いたくもない真実の自分の姿を口にしたの
だから。
そうでなければ,優しい真中は,いつまで経っても歩み出せないのだから。
「淳平くん。今までありがとう!」
つかさは,背中に真中の存在を感じながら空を見上げた。
清々しいほど,きれいな青空が広がっている。
……綺麗だな。お別れするには,いい日かもね……
つかさは,口元に笑みを浮かべた。
もう一度,振り返って愛しい真中の顔を見たいという気持ちを,強引に振り払う。
……これでお別れかぁ…ホント,名残惜しいな……でも,最後まで平静でいるのは,ちょっと難し
そうだから……早くさよならしないと…ね……
いつの間にか,目と喉の奥がじんわりと熱くなっていた。
迫り上がってくるくぐもった声を,気付かれないよう小さな息に変えてそっと吐く。
やはり……もう,あまり余裕はなさそうだった。
今まで耐えていた気持ちが,少しずつ顔をのぞかせようとしている。
……やっぱり…辛いなあ……
せっかく会えたのにな…
つかさは,もう一度,少し大きな息を吐いた。
逢いたくて逢いたくて…
いったい,幾つの夜を泣いて過ごしてきただろう。
こうして真中が救いに来てくれて,本当は嬉しくて堪らないのに…
だけど,それを表に出すことすら許されないまま終わらなければならない。
……ごめんね…淳平くん……こんな薄情なことしかできないあたしで……
心は決めたのに,いざとなってこみ上げてくるのは……未練だった。
でも,もう今更振り返ることはできなかった。
後ろを向いているだけで,真中に顔を見られていないというだけで,もう顔が歪みそうになって
いるのを抑えきれなくなっている。
今はまだ抑えているけれど,次に何かを喋れば,確実に声が嗚咽に震えてしまう。
別れの切なさに,泣きたくなってしまう。
……よし!……
つかさは,一歩を踏み出した。
いろいろな思いを抱えたまま。
このまま…
このまま歩いて…
あとは,振り返らずに歩いて行けばいい。
前回と同様,これで終わりになるはずだった。
しかし…
それなのに…
二歩目にかかったところで,つかさの歩みが止まる。
真中の手が,つかさの腕をぐっと掴んでいた。
「あっ…」
強い力で引き戻され……優しく,柔らかなものが全身を包み込む。
ふわっとした温かな風が,寒気に耐えていた頬を撫でた。
「それは駄目だ。認められない。西野……決して,君のせいじゃない…君は何も悪くない……悪い
のは俺なんだ……遅れてごめん……本当にごめん……今まで,辛かったよな」
思いもしない,期待すらできなかった声が耳元で聞こえる。
背中から,真中が抱き締めていた。
……淳平くん…っ……そんな………
つかさの息が止まった。
温かな体温が,背中から伝わってくる。
優しく包み込む力を,全身が感じている。
「淳平くん…っ……駄目…だよ……」
つかさの唇が戦慄いた。
もう二度と,感じることはできない,感じてはいけないと思っていたこと…
自分には,その資格がないと諦めてきたこと…
……こんな思い,捨てたのに……決めたのに……
駄目だ。
喜びは,すぐに悲しみへと変わる。
大切なものほど,失ったときに深い悲しみを呼び起こす。
これまでの日々で,そのことを痛感したのではなかったか。
……駄目よ……駄目……これを感じてはいけない……
つかさは焦った。
決して,得てはいけないもの…
それに触れてしまえば……後に残るのは,身を切られるような辛さだった。
だから…
「お願い…離して……あたし,淳平くんの顔を……思うだけで苦しいの……だから,あたしをこれ
以上……苦しめないで…」
つかさは,真中を背中に,震える声で懸命に訴える。
これを味わったら,また自分の胸は苦しみでいっぱいになってしまう。
悲しくて,悲しくて……張り裂けそうな思いを,抱えていかなければならなくなってしまう。
この温かさを,思い出してはいけない…
触れてはいけない…
振り解かなければ…
早く。
……いけない…早く……これ以上は,駄目……
しかし,自分を抱く腕に手を添えても,乱暴に拒絶することはできなかった。
振り解かなければ,後で後悔するほど辛くなるのに…
痛いほど分かっているのに,手に力は入らず,体は行動することを全力で拒否していた。
「ごめん。でも,それはできないんだ……俺はもう,西野の側から離れない…離れたくないんだ…
絶対に……もう何があっても,ずっと一緒にいたい…」
絞り出すような声が,耳の中に温かく響く。
途切れ途切れの,苦しげな声。
今までの真中の苦渋が,容易に読み取れるようだった。
「西野……今まで,独りで耐えて…辛かったよな……本当にごめんよ…」
苦しげな色を押し隠そうとする,優しい声。
自分が,ずっと聞きたかった声…
温かな言葉…
……あぁ…淳平くんも…苦しかったんだね……淳平くんを悲しませたくなかったのに……
いろいろなものが,押し寄せてくる。
「大好きだよ,西野……何があってもかまわない。ずっと君が好きだ……」
駄目…もう抑えきれない……
ぶわっと,つかさの目の奥に熱いものがこみ上げた。
「淳平くん……迎えに来てくれて,ありがとう」
公園のベンチに座り,2人で話をする。
真中に嫌われようとするのは,もう諦めるしかなかった。
……淳平くん……まだあたしのこと,こんなに好きでいてくれてたんだね……
真中の愛情に,胸の奥が温かい。
これをまた,感じることができてよかった。
つかさは寂しげに微笑み,真中をあらためて見つめる。
張り詰めたものがとれた真中の顔は,少しの疲れと懐かしい色を漂わせていた。
「でも,分からず屋だなあ,君は。淳平くん,いつからそうなったの? でも,駄目。それだけは
聞けないんだ……あたしの側にいちゃ駄目」
つかさは,決心を揺るがす気はなかった。
真中は,とても優しい。
真中であれば,本当の自分の姿を知っても,決して見捨てないだろう。
そのことは,よく分かった。
率直に言って…嬉しい。
救われたような気持ちになる。
……でも……やっぱり,駄目なんだ……
つかさは俯き,寂しく笑った。
真中のことは大好きだし,自分よりも大切にしたいと思う気持ちに嘘はない。
それなのに…
いや,だからこそなのかもしれない。
真中と一緒では,どうしても……幸せな未来が描けないのだ。
もちろん,真中に問題があるわけではない。
問題は,自分にある。
考えれば考えるほど,『2人の終わり』というこの先が見えてしまう。
「あたしは,もう駄目な女になっちゃったの。今さら,戻れないの。前にも言ったけど,淳平くん
が許してくれても,あたしが駄目なんだ。自分で自分が大嫌い。あんなことをしておいて,絶対に
許せない。多分,これから…淳平くんの側にいるだけで苦しくなって……きっと,淳平くんをいっ
ぱい悲しくさせて……あたし,生きていけなくなってしまう」
「だからね,あたしのことを大切に思ってくれるなら,これで終わりにしよ? ね?」
もう十分だと思っていた。
どんなに謝っても許されない,嫌われて当然だと思っていた真中に,こんなに優しい顔を向けら
れている。
真中に,こんなにまで好きでいてもらえた。
幸せだった。
けれど,この先…真中に愛されながら,果たして無邪気に幸せだけを感じていられるのだろうか。
……自分で自分が嫌い…大嫌い……あたしなんて最低な女……
その思いは,今も胸の奥を焦がし,この先も薄れていく気はまったくしない。
自分たちを傷つけたあの男たちに,体を委ね,むしろ求め続けてしまった自己嫌悪は,真中に対
する申し訳なさを強くしてしまう。
真中と,これからどんなに幸せな時間を過ごしたとしても,申し訳なさしか抱けないのであれば,
いつか破綻は来るだろう。
そして,きっとその破綻は……
今ここで終わりを迎えるよりも,ずっと深い悲しみを呼ぶことになることは確実だった。
しかし…
「西野が変わったなんて……そんなこと,あるもんか。西野は西野だ」
それまで,じっと話を聞いていた真中が口を開いたとき,つかさは目を数回瞬かせた。
何を言っているのか…真中の意図が分からなかった。
自分のこの体は,あの男たちに汚され続けてきたというのに…
いや,自分から求めてみせたあの姿は…心さえも汚れ堕ちた女といってもいい。
それが分からない真中でもあるまいに。
「な…何を言っているの……淳平くんだって,あの動画,観たでしょ? あたし,あんな最低な姿
を晒して…」
しかし,真中はかたくなに,同じ言葉を繰り返す。
「観たさ。でも,西野は西野だ。変わってなんかない。最低なわけあるものか」
「本気でそう言っているの? 今のあたしは,淳平くんが知っているようなあたしじゃないの。あ
の動画の通り,あたしはもう変わってしまったのよ。以前のあたしじゃないの」
「じゃあ,いったい,何が変わったんだ?」
そう問われて,言葉に詰まる。
自分のしてきたこととはいえ,何度も自分のくだらなさ,最低ぶりと向き合うのは辛い。
「そうね…あたし……胸の中に今…黒いものがいっぱいなの……汚くて…醜くて…とても前のよう
には,明るい顔で笑ってなんていられないよ…」
涙が零れそうになる。
なぜこんなにも,真中に愛想を尽かされるようなことを言わなければならないのだろう。
どれだけ話をすれば,真中はこんな女と上手くいくわけがないことを理解してくれるのだろう。
それとも,真中は……この現実を,受け入れきれないのだろうか。
受け入れきれず,つかさという自分の中に,何かの幻想を見ているのだろうか。
しかし…
そうではなかった。
「ごめんよ,西野。西野を辛くさせるつもりじゃないんだ。でも,ほら,本当に変わってしまった
女だったら,そんな風に苦しむんだろうか。変わっていないから,苦しむんじゃないのか? 西野,
君は変わってなんかいない」
初めて聞く,真中の静かながら強い言葉だった。
思わず,つかさは黙る。
正面に向き直った真中は,これまでになく真剣な顔をしていた。
「なあ,西野……嫌なコトを聞くようで悪いけどさ……あの最初の日,西野は校舎から逃げられた
のに,わざわざ戻ってきて,アイツらの言いなりになったのは,何のためだ?」
穏やかながらも真剣な表情で,真中はつかさに問いかける。
そこには,つかさの言葉に対する戸惑いや躊躇など見えない。
いったい,真中は何を言おうとしているのだろうか。
よくは,分からないけれど…
「それは……淳平くんが保健室にいて…あたしのために傷つけられるのが嫌だったから…」
答えながら,つかさは思う。
……淳平くん……少し変わったのかな……
自分が知っている今までの真中とは,少し違う気がする。
以前ならば,ここまで会話を続けられなかったのではないかと思う。
ちょうど,別れを切り出したあの日のように。
相手の気持ちを慮りすぎる真中は,こういう話になると,相手が傷つくのを恐れて何も言えなく
なることが多かった。
それは真中の優しさという長所だ。
だから,決して嫌だと思ったことはないけれど……
今,目の前で自分のために,こうやって真剣に話をしてくれる真中の姿は意外だった。
「動画で観たけれど,俺のところに来るという選択肢を選ばなかったのは,どうしてだ?」
「あんな汚れた体を見せて,淳平くんを悲しませたくなかったから…」
「そう,俺のためだ。その後も,アイツらの言いなりになっていたのは,何のためだ?」
「それは……」
「アイツらの呼び出しを断って,俺に火の粉が飛んでこないようにするためだ」
答えながら,ああそうかとつかさは分かってきた。
今までの自分の行動は,真中のためにやってきたことだと言いたいのだろう。
……優しいなあ……淳平くん……
自分のやってきたことを,包み込もうとしてくれている真中。
そんな優しい気持ちにあてられると,自然と温かな嬉しい気持ちになってくる。
……だけどね……
つかさは,寂しく微笑した。
「それだけじゃ……ないよ……あたし…気持ちよさに負けて……自分から…望んで抱かれていたの。
もっと犯されたいと……気持ちよくされたいって思ってしまったの」
そう,どんなに取り繕ってみても,これが淫らな自分の真実なのだ。
これこそが,真中が許そうとも,とても自分自身が許せない真実。
真中の言おうとしてくれる問題とは,また別の…
……これは…目に見える自己犠牲の行為とは違う……あたしの心の中の問題だから……
だから,真中と自分は,もう決して上手くいかない…
誰にも,どうにもできない問題なのだ。
「イヤらしいことされるの…気持ちよかったの………だからね…もう…」
そう,当たり前のように結論づけて,話を切り上げようとしたとき…
「違う! それ以上に悲しかったはずだ! 西野の言葉は,自分を傷つけて苦しめようと責めている
だけで,決して本当のことじゃない!」
再び,強く否定する,真中の声が耳を打った。
真中の,力のこもった声が続く。
「俺には分かる。西野は自分から望んで抱かれたって言うけど,それは女の子の大切なものを奪わ
れて……辛いこと,悲しいことに胸が張り裂けそうで……少しの時間だけでも,忘れてしまいたかっ
たからだ! 男たちの言いなりになっている,自分のことが嫌で嫌で…自分を壊してしまいたかっ
たからだ! 西野つかさという,素敵な女の子の…とても素敵なところを,壊して,潰してしまわ
なければ,君自身が耐えられなかったからだ!」
「………っ!」
つかさが大きく目を見開いた。
蘇ってくる感情に,心臓がドクンと鳴る。
そうだ…
その通りだ…
自分でも,いつしか忘れていた。
今まで,誰にも言わなかったこと。
心の中で何度も葛藤し,一人で苦しんできた孤独。
それを……真中は,分かってくれていたというのだろうか。
心の奥に閉じ込めて,ずっとしまっていたことなのに…
黙ったまま終わろうと,真中には見捨てられようとまでしたのに…
でも……
でも……
「でも本当に……あたし……イヤらしいことされて……体が感じてて……期待もしてて…」
ギュッと握り締めた両手が,震える。
けれど,やはり真中の表情は,すべてを見通しているように静かだった。
「とても苦しかったよな。俺のことが……」
「うん…うん……そうだよ…あたし……淳平くんを……絶対に忘れたくなくて……でも,辛くて,
忘れたくて……毎日とても…気が狂いそうなくらい苦しかったの……」
「分かるよ……西野とは比べものにならないけどさ,俺も似たようなものだった」
「淳平くんも…」
「ああ,辛くて辛くて……何でもいい,忘れるために…心を誤魔化せるものが欲しかった」
「そう……あたし……何度も…何度も……自分から抱かれた……」
「俺も,こんな自分なんか,消えてしまえ,壊れてしまえ……って」
「そう……そうだよ……淳平くん…あたしも…ずっと……そう思ってた…」
「でも……西野が,自分を潰して壊して,駄目にしてしまうなんて…俺が見る限りでは,それは成功
していないみたいだよ。今も苦しんでいるのが,その証拠じゃないか。西野は,悲しい思いはいっぱ
いしたけれど,何にも変わってはいない。駄目にもなっていない。俺のために苦しくても耐え続けて
くれた,最高に素敵な女の子だ。だから,どうか……自分のことを『なんか』とか『最低』とか言う
のはやめてくれないか」
優しい真中の声が,柔らかく降ってくる。
「淳…平くん…っ……」
つっと,つかさの頬を一筋の涙が伝った。
誰にも分かってもらえるとは,思っていなかった。
そんなこと,言ってもらえるとは思わなかった。
……あたしが……自分でも信じることができなかったこと…なのに……
それを,真中が分かってくれている。
信じてくれている。
「あぁ…」
何ということだろう…
混沌とする胸の奥が,スーッと軽くなっていくような気がして,つかさは目を瞑った。
真中の言葉が続いていく。
「西野……ありがとう。大切なものを投げ捨ててまで,俺のことを守ろうとしてくれた。あの動画…
西野は,自分から求めていた最低な女みたいに言うけど,俺には西野が『助けて』って叫んでいる
ようにしか見えなかった。俺のことを,ずっと守り続けて……独りにさせて…そのことがよく分かっ
て,俺は,自分が悔しくて堪らなかった。どうか……俺のふがいなさを許してほしい。本当に悪かっ
たと思っている。これから,俺はもっと強くなるよ。今はまだ,頼りがいのある男になったなんて
とても言えないけど,いつかそうなってみせる。約束する。西野の幸せをずっと守っていけるよう
に……だから」
真中は,そこで言葉を切った。
そして,一度不安そうに俯き,おずおずと顔を上げる。
「俺と,もう一度……歩んでほしい。今度こそ,嬉しいときも……苦しいときも」
つかさは,頬をぽろぽろと伝う涙を拭いもせず,瞬きもせずに真中を見つめていた。
そして,ふぅと一つ大きな溜息をついて俯く。
「でも,今のあたしは,やっぱり汚れてしまった身だし…グチャグチャだよ? 将来はともかくと
して,今のあたし,嫌じゃないの?」
「悲しみはあるさ。大切な彼女が,そんな目に遭ったんだ。当たり前だ。でも,西野が嫌だなんて,
そんなわけ無いじゃないか」
「どうして…? どうしてそう言い切れるの? やっぱり,あたしの姿をよく分かっていないから
じゃないの?」
「そうじゃないさ」
だってと言いかけて,真中は不意に赤面する。
しかし,赤面しながらも,思い直したように真中はつかさの肩を優しく掴んだ。
真正面から,つかさの目を見つめる。
そして……一文字一文字に,ゆっくりと力をこめた。
「だって……西野と話している時間が,とても好きだから……西野と一緒にいると,嬉しくて堪ら
ない気持ちになるから……もっと顔を見ていたくて,話していたくて,抱き締めたくて……なぜか
泣きたくなる。俺は……西野という存在自体が…愛おしいから……俺にとって,西野よりも大切な
ものなんて,この世には存在しないんだ」
いったん言葉を切って,フッと笑い真中は続ける。
「アイツらさ,俺が西野を助けようとするのを感じ取ったらしくて,勝手に話し合って参加してき
たんだ。さつきなんて,ラグビー部にまで応援を頼みに行ってくれて……俺,ちっとも頼んでもい
ないのにさ……それなのに…友達だったら当たり前だって言うんだぜ。凄いよな。びっくりしたよ。
でも……おかげで,気づかされた」
真中の声が,いっそうの力強さを帯びる。
「俺も,西野とそういう関係になりたい。西野は,俺の大切な彼女だ。それは,楽しいときだけ,
幸せなときだけ彼,彼女なんていう都合のいい関係じゃない。西野が苦しんでいるときには,何が
何でも助ける。悲しんでいるときには,西野をずっと抱きしめて一緒に悲しむ。自分が傷つくこと
を恐れて離れるなんて,そんな上っ面だけの関係はイヤだ。西野は俺を守ってくれた。今度は,俺
が西野の心を守っていきたい。何があっても,どんなことが起きても! そうして,これからの時
間をずっと一緒に過ごしていきたい。俺は,西野とそんな……本当の関係になりたいんだ。西野は
……イヤか?」
つかさは,何も喋らなかった。
「…ふ……っ……」
微かに開いた唇から,震えるような吐息が漏れる。
「やれやれ……凄いな……本当に凄いよ,君は……」
真中の目を,じっと見つめたまま…
つかさの瞳からは,大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていた。
「淳平くんって……ホント…あたしがビックリしちゃうようなこと……言ってくれるんだね。それ
じゃあ,まるでプロポーズだよ。あたしが今まで悩んでいたこと,まるごとあっさり飛び越えちゃ
うんだから」
凍えていた心が溶けていく。
張り詰めていた心が……急速に緩んでいく。
もう,独りだけで頑張らなくてもいいんだ……
独りになることを覚悟しなくてもいいんだ…
真中だったら,何があってもずっと自分を分かってくれる。
何かを考え,まとめ上げるように……やがて,つかさはもう一度真中を見上げた。
「ありがとう,淳平くん……よかったら,また,あたしを彼女にしてくれる? あたしも,淳平く
んと話をしている時間がとても好き。淳平くん以上に大切なものなんて何もない。だから,ずっと
側にいてほしいの」
瞳が潤んだその顔には,先ほどまでとは違う,晴れやかな微笑が浮かんでいた。
「これから……俺と西野,いろんなこと一緒に経験して,一緒に大人になっていこう……」
「あたし……また…変われるのかな……」
つかさの唇から,ぽつりと言葉が零れる。
真中は,華奢な肩をぎゅっと抱き締めた。
「将来の自分を信じていないな? もちろん変われるさ。きっと,あのときこんなことがあったか
ら,今の自分があるんだ…っていうくらいにさ。でも,無理に変わろうと思わなくたっていい…そ
の代わり,西野の夢を思い描いていこう……5年後,10年後の自分を思い描くんだ…思いっきり
…馬鹿馬鹿しいほど,でっかい夢を思い描いて……一緒に,そのでっかい夢に向かっていこう」
「あたしの夢……5年後,10年後の自分を思い描いて……」
抱き締める腕の中で,華奢な肩が震えた。
小さな嗚咽が漏れる。
「あたしの夢……」
つかさは,自分の夢を思い出す。
忘れかけていた,温かな夢。
「俺は,西野に側にいて欲しい。独りでは潰れそうになるときも……西野が側にいてくれると,夢
が掴み取れる気がする。いや……苦しくても,一歩一歩,夢に向かっていくのが楽しくなる気がす
る。だから…だから……」
そのとき,真中は駆け出した。
その先には,鉄棒がある。
真中は,鉄棒に飛びついた。
「俺はっ!……西野が……大好きだっ!!…いーち!」
真中が始めたのは懸垂だった。
まるで,あのときのように。
張り上げた声が,辺りに響き渡る。
「初めて会ったときから,気になっていた! にーぃ!」
「話せば話すほど,西野のことがどんどん好きになった! さあぁぁぁん!」
「でも,俺は駄目すぎて…西野には相応しくないと…好きでいてもらえるわけがないと,全然自信
がもてなかった! よ,おぉぉぉんっ!」
前回,懸垂をしてみせたときとは違うとばかりに,力をこめて上体をもがき上げる。
しかし,徐々に腕が上がらなくなってくる。
「西野に別れを告げられたときも……自分に自信がもてなくて…何も言えなかった。だから…だか
ら……西野を独りで悲しませたこと……一緒に悲しんであげられなかったこと……自分で自分をこ
の世から消してしまいたいほど悔しかった! ごっ,おおぉぉぉっ!」
「淳平…くん…っ……!」
真中もまた,自分と同じ思いを抱き,苦しんでいた。
真中も苦しむなんて,そんなことは決して望んでいなかったはずなのに,嫌だったはずなのに,
なぜかとても嬉しいと思ってしまう。
「もう,絶対!…絶対!…あんな悔しい思いはしない!……させたくない!…俺は…西野を…西野
を……守りたい! ろ…おぉぉぉぉぉ」
ついに力の入らなくなった腕が,限界とばかりに垂れ下がってきた。
「くそおおぉぉっ!」
そのまま,落ちてしまうかと思われたそのとき…
「負けないでっ! あたしが…あたしも……ずっと側にいるからっ!」
つかさは,落ちそうになる真中を懸命に支えていた。
喉の奥につかえていたものが,一気に溢れ出てくる。
「いろんなことあったけど! あたしは! あたしはやっぱり淳平くんが好き! 好きで好きで,
大好きでしょうがないの! ずっと! ずっと,あたしの側にいてほしいの!」
何も考えない,心の声だった。
「俺は,西野を……あ,愛してるぅっ!……ろおぉぉぉくっ!」
言い切った後,どさっと落ちる。
はぁはぁと荒い息で起き上がったとき,互いに距離はもう存在しなかった。
「俺……この次は,10回はできるようにするよ」
「うん……あたしも,もっと力になる」
くすと笑う。
「西野が力になってくれるんなら,20回はできるようにならないといけないな」
「うぅん……少しずつ,だよ」
見つめ合う2人には,微笑が浮かんでいる。
今……ようやく,何かが乗り越えられた。
そんな実感を伴う,幸せな気持ちが2人には流れていた。
「淳平くん…」
「うん…西野…」
二人は,どちらからともなく唇を重ねた。
大寒は過ぎても,まだなお凍てつくような寒さが空気には満ちている。
それでも……二人には,全く気にならなかった。
むしろ,お互いの温もりを実感させ,際立たせてくれるその寒さそのものが幸せだった。
今,二人には,お互いの温もりが必要だった。
それは,本当の意味での,二人の再スタートだった。
二人は,暗くなり始めた街を歩く。
赤や黄色,緑,青と様々に飾られた街路や店の光が,二人を祝福しているように輝いている。
「淳平くん,見てみて,これ!」
「ああ…ここ,西野といっぺん入ってみたかった店なんだよなあ!」
手をつないで,いろいろな店を見て回り,真中は,つかさに一着のパーカーをプレゼントした。
白い生地で,背中の中央に1本の鮮やかな水色のラインが入ったパーカーだった。
それから,二人であれこれと相談しながら,結局のところ1軒のファミリーレストランに入り…
そして……
ホテルの扉を開けた。
第12回
「はあ…はぁ…ぁ…っ…淳平…くんっ……あぁ…」
心が囚われていく。
目の前の,白く美しい肢体に。
眉根を寄せ,何かを訴えるように自分を見つめる貌に。
途切れ途切れに,熱く名を呼ぶ声に。
「んん…ぅ…淳平くんっ……お願い……もっと…もっとキスして……抱きしめて…」
つかさの紅い唇から漏れる溜息は,キスの深まりとともに,次第にはっきりとした喘ぎへと変わっ
ていく。
空気混じりの吐息でさえ,胸の中で何かが強く掻き立てられるようだった。
魅惑的な音を響かせる,甘い唇。
「西野……綺麗だ…」
「ぁあっ…むぅ……っ…っぅ…は…ぁぁ……」
誘われるように,真中はその唇を何度も夢中で求めた。
唇を重ねるだけで,あまりの甘美さに頭がボゥとなる。
つかさの唇とは,こんなにも柔らかだったのか。
唇を離すと,すぐにまた欲しくなってしまうのはなぜなのだろう。
儚げなつかさの美しさは,今にも消えてしまいそうな不安感が拭えない。
……夢じゃない……本当に,俺は西野を取り戻せたんだ……夢なんかじゃない……
つかさの切なげな吐息を間近に感じながら,真中は柔らかな体温を強く掻き抱く。
ようやく取り戻すことができた実感と安堵を,確かなものとするかのように。
つかさを抱くのは,決して初めてではないし一度や二度のことでもない。
それなのに,真中はまるで初めてつかさを抱いているような感動と昂ぶりを感じる。
「ん…っ…ふ…ああ…ぁっ……」
舌を差し入れると…温かく濡れたつかさの唇の中もまた,脳が痺れるような甘さだった。
触れたつかさの舌は,ビクッとしながらも自ら進んで絡みついてくる。
逃げる素振りなど見せない。
懸命に,真中の求めに応えようとして舌を絡め…
舌を吸い上げられながら,体を這う手の愛撫を自ら求めるように体を押しつけてくる。
……西野……西野も俺を求めてくれている……
それを感じるのは喜びだった。
愛しさがこみ上げてくる。
同時に,真中の頭に去来するのは……つかさを自由にしていたあの卑劣な男たち。
……この西野を…アイツらは…踏みにじった………
真中の頭の中が,カッと熱く灼ける。
思い返せば怒りが沸き上がるが,真中はそれを打ち払おうと,頭を左右に振った。
そうして……再び見つめ直してみる目の前のつかさは,やはりとても綺麗だと思う。
形よく膨らんだ白い乳房…
細くくびれた腰から続く,ふっくらとした果実のような尻…
いつもは,制服のスカートから覗かせるだけだった細く長い脚,太腿…
そして,顔を赤らめながら,自分だけに見られることを望んだ…秘部。
ため息が出るほど,美しいと思う。
あの男たちに,下劣な欲望で汚され続けていたことなど想像もできない。
しかし,それにもまして思うのは,抱き締めて感じる,体温というものの喜びだった。
素肌に,体が触れているだけで…ただそれだけで,体が熱く蕩けていくような気がする。
鼻の奥が甘くくすぐられるような匂いに,どうしようもなく心が掻き立てられる。
誘われる。
だからこそ……真中は戸惑っていた。
際限もなく,膨れ上がってくる獣のような自分の欲望に。
……傷つけたく…ない……
つかさは,心から真中が大切にしたいと思った女の子だった。
自分の不用意さで,傷つけるようなことだけはしたくなかった。
……西野は……本当に望んでくれているのか……
たとえそうだとしても,自分のためにと我慢を強いているのではないか…
真中は,つかさの胸中を窺い知ることができない。
今,自分がつかさに対してしていることは,行為そのものとしてはあの男たちと同じだ。
このまま行為を続け,自分が我を忘れるほど夢中になってしまったら…
もしかしたら,あの辛い記憶を,思い出させてしまうかもしれない。
無理をさせてしまうかもしれない。
つかさを,辛くさせるのだけは避けたかった。
だから,つかさが望まなければ,抱きたいという気持ちを抑えることなど,何ともないはずだっ
たのだが…
実際は,遙かに予想以上だった。
もう既に,興奮と欲望の昂ぶりに呑み込まれそうになっている。
つかさが,欲しい…
その欲求は強烈で,我を忘れ一気にのめり込んでしまいそうな気になる。
自分が,あの男たちと同じ,ただのケダモノになってしまいそうな…
自分の中に……愛しいという感情だけではない,攻撃的な情欲が膨らんでくる。
……この西野の体を,思うがままにしたい……
見つめれば見つめるほどに,沸々とそんな感情が沸き立つのを真中は自覚した。
股間は熱をもち,既にガチガチと硬く強張っている。
下世話な言い方をすれば,メチャメチャにしたい。
つかさが望んでくれているとはいえ,この激しく沸き立つ気持ちのままに抱いていいのか…
それを,本当にぶつけていいのか…
決して女の扱いに慣れているわけでもなく,理解もしてこなかった真中には,『それは駄目だ』
という答えしか見つからない。
だが…
「んっん…っ……あぁ…淳平くん…」
キスだけで蕩けゆくつかさが,肌も露わな体を堪らなそうに押しつけ,微かにくねらせてくる。
つかさの体の柔らかさは,華奢でありながらも,そんな荒々しい激情まですべて受け止め,包み
込んでくれるかのような豊かさに満ちていた。
股間の疼く昂ぶりまでも,心地よく満たされていくような…
つかさの体のすべてが,自分を気持ちよくさせるためにあるかのようだった。
「く……」
この細い体を,もっと強く,壊れてしまうほどに抱き締めたくて堪らない。
真中は,頭を振った。
……駄目だ……
膨らみ上がる欲情は,振り切れそうにない。
その白い肢体を見れば見るほど,目が,心が……離れられずに囚われる。
そして,つかさの甘美さを感じれば感じるほど……自分の欲情の強さ,深さが見えてしまう。
もっと,触りたい…
つかさの体を,心ゆくまで味わいたい…
メチャメチャに抱いて,自分のモノにしてしまいたい…
……違う……駄目だ…それでは西野を…傷つけてしまう……
真中は,歯がみする。
男たちに,欲望の限りに犯され続けたつかさに対して,次は自分が欲望を抱いてしまっているの
は紛れもない事実だった。
こんな,下劣な欲望……つかさを犯したアイツらと,いったいどこが違うというのか。
……俺は……
思考は終わりなく,堂々巡りとなっていく。
「淳平くん…」
不意に,柔らかな声がした。
はっと我に返った首筋に,優しく手がするすると巻き付いてくる。
「淳平くん……あたしの知らないところで,何か勝手なこと考えてたね? 淳平くんの考えている
こと,よく分かるんだよ。あたしを見くびらないでね」
見下ろした真中の目に,愛しむような目で微笑を浮かべるつかさが映っていた。
「言ったでしょ? あたしの全部を見て。そして,淳平くんの全部を教えて。私が,ここまで自分
の恥ずかしいところを見せているのに,淳平くんは何を迷っているの?」
つかさは,くすっと笑う。
「あたしは……淳平くん,あなたに求められたい…あなたに夢中になってもらいたい……いつもそう
考えていたの。知らなかったでしょ。だから……淳平くんになら,激しくされてもいい……うぅん,
ちょっと違うね。されたいの。夢中になって,激しくなってしまうくらい…思うまま,あたしを求め
て欲しい……淳平くんに強く求められたい……それが,あたしは…嬉しいの…」
やっぱり淳平くんだ……つかさは思っていた。
きっと,真中はその優しさから,男たちに犯されていた自分のことを慮って,ブレーキをかけよう
としていたのだろう。
自分の中の,欲望と葛藤していたのかもしれない。
「でも…淳平くん……ありがとう。淳平くんの気持ち,凄く嬉しいよ…」
つかさは,真中の首に手を巻き付けたまま引き寄せ,一つキスをする。
真中の不器用さは,仲間を傷つけ,失ってしまうことへの怖れにあるのだと思う。
だから,そんな心配は,少なくとも自分には不要であることを教えて上げたかった。
……でも……
なぜだろう。
真中のその不器用さが……とても幸せだった。
真中の熱情を,自分の体で感じたい。
「今まで,あの人たちに触られた処……感触を…肌の記憶も…全部消して…淳平くんの手で…お願い…
…あたしは…淳平くんの手に,たくさん触られたい…」
遠慮がちに胸に触れてくる手を取り,自分の手を被せながら乳房を包み込ませ,自らゆっくりとその
手に揉ませる。
太腿に置かれた手にも自分の手を被せ,より感じる脚の内側へと導いていく。
きっと,自分を慮って愛撫の手を進められないと思ったから。
だから,愛しい男のためなら,娼婦のようにすることだって喜びだった。
「あぁ…ぁ……淳平くんの手……とても…気持ちいいよ……だから…たくさん…触って…」
つかさは,潤んだ瞳で真中を見上げ,抑えた溜息を切れ切れに漏らした。
真中の指が,ぎこちなく乳首に触れ,転がし,太腿の内側を奥へと撫で上がってくる。
……ああ……
それは,子宮が熱く震えるような悦びだった,
「…っ……ぁ,ん…っ…はぁ……っう,ぅ……淳平くんの手…とっても気持ち…いい…っ……全部…
あたしの体の全部…触って…淳平くんに…エッチなことされるの…嬉しいよ」
真中の唇が,首筋にキスするのが…イヤらしい。
キスされながら,体中に手を這わされているのが…イヤらしい。
そのことが,こんなにも嬉しいことだったなんて。
男たちに体の快楽を与えられるだけだったときは,あれほど嫌で嫌で堪らなかったのに。
……淳平くんが…あたしの体を…こんなにも求めて……興奮してくれている……
甘く,淫らで……幸せだった。
ようやく,ブレーキの取れていく真中の欲情が,自分に向けられてくることに……心が,うっとり
とした気持ちよさに包まれる。
「西野……凄く綺麗だ…」
真中の手が,乳房を揉みながら,指先が乳首を転がし…
太腿の敏感なラインを,付け根まで撫で上げ……熱く潤んだ秘処を浅く抉った。
「んんぅぅっ!」
なだらかな背を這い下りていくもう片方の手は,やがてお尻の丸みへと届き……柔らかな丸い形を
確かめるように,愛でるように撫で回す。
……淳平くんに……あたし…っ…体を触られてる……愛されている………
つかさは,熱い溜息を漏らしながら,その歓喜に体をくねらせた。
「んん…はぁ……あぁ…んっ…はぁ…あ」
つかさは,熱い恍惚の中にいた。
真中の舌が,全身を這い回っている。
両腕を,熱く濡れた軟らかな物体がゆらゆらと淫らに這い…
肩から首筋の敏感な処を,くまなく舐め回し…
足先から太腿までのラインに,舌を使ったキスの雨をチュッチュッと降らせてくる。
「はぁ……はぁ…あ…ぁっ……もっと…もっと舐めて……」
そのあまりの心地よさにボゥとなる。
まるで,真中の温かく濡れた舌に,全身が包み込まれているかのような…
「あぁ…っ…ん…はぁ…はぁっ……あぁ……淳平くんに舐められるの……好きだよ……」
つかさは,甘い喘ぎを切れ目なく漏らした。
舌が這い降りてきた乳房の中心で,硬くなった突起に強く絡み付いてくる。
転がされる乳首に,疼くような快感が奔った。
熱く火照った秘部は,まとわりつく真中の指が片時も離れず,さっきからずっとクチュクチュと
いう水音を響かせ続けている。
……ああ……何て素敵……っ……淳平くんに愛してもらえるなんて…っ……
幸福感が,つかさの全身を満たしていた。
抱き合っているのが嬉しくて…
真中には,もっと喜んでほしくて…
何でもできそうな万能感が,心の底からこみ上げてくる。
今までの,欲情と肉欲だけのドロドロと堕ちていく世界とはまったく違う。
破滅さえ望んだ刹那的な暗い快楽とは,まるで異質の悦び。
「西野……とても綺麗だ。俺,西野の体を,自由にしているのが頭の中がおかしくなりそうなくら
い気持ちよくて……西野は本当に我慢していないか? 俺,興奮しすぎて何も考えられないんだ…」
そう耳に囁かれながら,熱を込めて乳房を揉まれ,何度も唇を求められることに幸せを感じてし
まう。
体に押し当てられた,真中の男根の硬さと熱さに,ドキドキとした鼓動が高鳴った。
自分の体を,真中に魅力的だと思ってもらっている象徴のような……悦び。
そう思えることも,あの男たちとは違う。
……淳平くんが……あたしに…魅力を感じてくれている……夢中になってくれている……
その実感が,ぞくぞくとするほど気持ちいい。
そんな気持ちになることも,あの男たちとは違う。
……よかった………あたしは…あの人たちじゃなく,淳平くんに抱かれて…こんなに嬉しい……
同じ抱かれるという行為が,こんなにも違うのかと思う……嬉しかった。
「大丈夫…大丈夫だから……淳平くん……いいよ。好きなようにして……ずっと…ずっと…一緒に
いて……あたしを愛して…」
真中のためなら,何だってできると思う。
それを,自分の喜びとしたいと思う。
だから…
もっと,真中を感じたい。
「ん…んぅ……んううぅぅ…っ!…」
両脚を広げられ,真中の顔がその中心に埋められた。
舌先が,濡れた秘裂を掻き回し,小さな珠を突き転がしてくる。
その小さな一点に,快感の痺れが電気のように閃いた。
同時に,膣内に侵入する指が,クリトリスを根元の方から刺激してくる。
「はあ…っん…うぅ!……ああぁ…っ!」
腰が抜けるような感覚に襲われ,つかさは声を上げた。
「っああぁぁ…っ」
真中に顔を埋められた秘肉に,太くて熱い舌の感触が這う。
周囲をなぞられるのも,熱い泉が溢れる中心を舌の先端に突き込まれ,荒々しく掻き回されるの
も気持ちよくて堪らなかった。
そうかと思うと,敏感になるほど疼いていたクリトリスが,舌先に優しく弄ばれるように転がさ
れる。
「くぅ…っあ!……んんうぅぁっ!」
腰がビクンと大きく跳ね上がり,唇から抑えきれない声が漏れた。
あたしのソコが,淳平くんの舌に舐められている…
そう思うだけで,全身が熱く火照る。
「あ,あっ…淳平くん…淳平くんっ……ソコ…凄い…感じちゃうっ……もっと……もっとしてっ」
一言で言えないほど恥ずかしくて,しかし言い尽くせないほど嬉しい。
つかさは,その快感に顔を左右に振りながら,両脚の間に埋められた真中の頭を両手で掻き抱いた。
舌先が触れるクリトリスに,悦びが弾ける。
真中の指が,舌が這う処は,どこもかしこも気持ちよかった。
もっとして欲しくなる。
もっと気持ちよくなりたくなる。
「んん……っ…ああぁ…っ」
背中に,震えが奔った。
足先がピンとのびてくる。
……あぁ……あたし…イク…淳平くんに…アソコを舐められて……イッちゃうっ……
真中の手で,絶頂に導かれていくのが分かる。
そんな風に,真中の手で感じ,乱れていく自分の敏感な体が嬉しい。
真中に愛されている,自分の体が愛しい。
そんな風に思えるなど,ありはしないことだったのに。
「んんっ…あっ……っあああぁぁぁぁっ!」
背中を弓なりに反らし,腰をビクビクと痙攣させながら,つかさは幸せな絶頂というものを感じ
ていた。
「西野……入れるよ」
「じゅ…っ……淳平…くんっ……うん……入れて…」
熱く蕩けた秘肉に,真中の男根が入ってくる。
……淳平くんのが…あたしの……中に……
初めてではないのに,初めて受け入れるかのような緊張と,気恥ずかしさと,嬉しさがない交ぜ
になって胸にこみ上げる。
嬉しくて泣きそうだった。
ずっと,待っていた。
願っていた。
無理やり,快楽を与えてきたあの男たちとは違う,幸せを感じるような感触と温かさ。
「あぁ……っんうぅぅ……入れて…そのまま……ん…んっ……ぁあぁぁあぁぁっ!」
つかさの両脚の中心に,真中の怒張が根元まで埋められ,その先端が奥まで抉ってくる。
……ああぁ…っ…凄く…凄く,気持ちいい…っ……
つかさは,真中にしがみつき肩を震わせて喘いだ。
快楽の世界に,引きずり込まれていく。
自分から,こうされるコトを望んでしまうなんて…
嬉しいと思ってしまうなんて…
「西野っ……大好きだっ…愛してるっ」
「あたしもっ……淳平くんっ…大好き,愛してるっ……あぁああっ!」
突き動かされるように,つかさは叫んでいた。
……これが……愛……
ようやく,つかさは理解する。
愛というものの,温かさ。
『気持ちいい』という体の快楽だけではない,幸福感。
この人と,ずっと一緒にいたい…
どんなときでも,決して離れず…
嬉しいことを共有し,悲しいときには支え合う…
改めて思う。
真中が言ってくれたその言葉の……何て素敵なことなんだろう。
何もかもが,今まであの男たちとの行為に感じていたこととは違っていた。
……快楽だけだったら……こんな気持ちにならなかった……
つかさは,思い出す。
男たちに嬲られるだけだった先日までの,何か満たされない感覚。
確かに,何度も何度も……絶頂を極めた。
しかし,どうしても満足できないその地点を,女の本能ともいえる何かの感覚が認めていた。
それが今………
……あぁ……っ………凄い………この感じ……どうにかなってしまいそう………
快感に震える体を真中の腕に抱かれて,つかさは胸の奥で秘めた言葉を漏らす。
何かが足りず,どうしても届かなかったその地点に,つかさは今まさに到達していることを知った。
真中に抱かれている,ただこの時間だけで……あっさりと。
何度もイカなくとも,もう十分だという幸せ。
充実感さえ感じる。
「淳平くん…っ……あぁああっ…あたし…イク…イッちゃうっ…っああぁぁぁっ!」
つかさは絶頂に達した。
それは,今までになく幸せな絶頂だった。
やがて,2人は抱き合って眠りにつく。
あれほど,苦しかった夜が嘘のように。
それは,久しく忘れていた深い,深い眠りだった。
終わり
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