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万事がどうでも良かった。正義にも興味などなかった。
なんとなく口当たりの良いドーナツを食べて、昼寝で時間を潰しているのが一番だった。
それが原因で幸せな人たちを邪魔するのは嫌だったから、縋られた時だけは手伝うようにしていた。
幸せの収支が±ゼロぐらいで生きて行ければ良かった。
世界の終わりを迎え、徒党を組んで必死に抵抗する人、死にたくないと大騒ぎする人、最後まで正義を貫く同僚を見ていて、なんの感慨も湧かなかった。痛いのは嫌だな、とだけ思っていた。
死ぬ前にせめて、少しぐらいは好きだったはずのドーナツを食べようとしたけれど、店は更地になっていた。それだけが少し残念だったけれど、そんな感情だってすぐになくなるはず。
どうせなら一番死が近そうな場所に行ってみるかとヴァルキューレ本部の屋上に来てみたら、驚くことに先客がいた。
それがキリノだというのだから、尚更。
彼女が差し出したボックスにはチョコたっぷりのドーナッツ。不謹慎ですがハッピーバレンタイン、なんて言うものだから大笑いしてしまった。
来ると思っていました、ということは随分待っていたのかな。しかも私が行った時には既にお店は無くなっていたわけだから。あのキリノが、ねぇ……。
正義を放棄した相棒の変わり身にびっくりしつつ、二人でドーナッツを食べた。天気も悪いし街のあちこちから煙が上がっているのに、今までで一番美味しいドーナッツだった。
キリノはどう?そう。キリノも私と同じだったんだねぇ。
結局は空っぽだったんだね、二人とも。あーあ、そんなことならもっとサボりに付き合わせれば良かった。
本当に691文字なのかと疑わせられるような満足感…こんなに美しいフブキリを書いてくださり本当にありがとうございます…。