石丸伸二氏の新党、都議選で全敗 「甘かった」候補者がぶつかった壁
JR東京駅の丸の内駅舎前は、高揚感に包まれていた。
東京都議選の最終日となった21日夕、石丸伸二氏(42)が選挙カーの上に立つと、集まっていた1千人以上の聴衆から一斉に拍手と歓声があがった。
1年ほど前にあった都知事選でも、石丸氏が最後の演説で選んだ場所だ。
そのときは1人だったが、この日は石丸氏が立ち上げた地域政党「再生の道」の都議選の候補者42人のうち、12人が一緒だった。
「再生の道は、新しい選択肢を提示している。都政の再生、日本の再生はこの道です。これからも歩んでいきましょう」
マイクを握る石丸氏の声は次第に、熱を帯びた。
ただし、聴衆の人数は都知事選と比べて、半分以下だった。その差が、都議選での苦戦を物語っていた。
昨年まで広島県の安芸高田市長を務めていた石丸氏は、議場で市議を糾弾し、記者に激しく詰め寄る様子がSNS上で拡散。ネット上で認知度を上げていった。
とくに、既存政党に不満を持つ層から支持を集め、昨年7月の都知事選に立候補。現職の小池百合子氏と参院議員だった蓮舫氏の一騎打ちになるとの予想を覆し、約166万票を獲得して2番手につけると、一気に注目を集めた。
その勢いのまま、今年1月に新党を立ち上げた。設立の記者会見で石丸氏は、既存の政治家を「たいした能力もないのに議員のイスにしがみつく。日本が衰退している原因だと断罪する」と主張。「政治屋の一掃」を掲げ、都議選に挑む考えを示した。
そこからの取り組みも、他党と一線を画した。
党としての政策は掲げず、綱領は任期を2期8年までとする多選の制限のみ。党議拘束もかけないといい、石丸氏は新党を「個人事業主の集合体」と表現した。
そのうえで、候補者の公募には1128人が集まった。最終選考の面接はすべてYouTubeで公開しながら、公認候補を決めた。
「死ぬときに後悔する」と挑戦、次々と消えた貯金
大手企業の第一線で働く会社員や経営者など、合格者の顔ぶれは多彩だ。
そのうちのひとり、岡本悠司氏(37)は、証券会社に勤務する。安芸高田市長時代のショート動画をみてファンになり、都知事選で石丸氏に投票した。選挙で初めて、「勝ってもらいたい」と強く思った。
その願いは届かず、石丸氏は落選。無力感に包まれたが、その半年後、新党の設立を知った。
「ここでチャレンジしなかったら、死ぬときに後悔する」
迷わず選考に応募した。4月中旬に合格し、品川区での立候補が決まると、会社に2カ月近い休暇を願い出た。
選考途中でつくったSNSのフォロワー数は、石丸氏のファンたちで瞬く間に増えた。面接動画を見て興味をもってくれた区議は、選挙活動を助言するために陣営に加わった。
5月7日午前7時15分ごろ、大森駅前に初めて立った。昨夏、大勢の聴衆のひとりとして石丸氏の演説を聞いた場所だ。
通勤客が駅に向かうなか、緊張しながら、自分の考えを語った。
しかし、足を止める人はいなかった。
「甘く見ていた」
金のかからない選挙が理想だが、それも現実は厳しかった。
チラシのポスティングや選挙カーのレンタル代など、次々と貯金が消えていった。
なんの手応えも感じられないなか、それでも、活動しなければならない。
「これまで選挙に出たすべての人を尊敬した」
「再生の道って何?」知名度不足が課題に
同じように、多くの候補者が壁にぶつかっていた。「再生の道」という党の知名度不足も課題だった。
東京電力に勤め、板橋区から立候補した船本優月氏(33)は告示直前の時点で、「石丸さんのことは知っていても、『再生の道って何?』と有権者から聞かれる。全然、認知度がない」と話していた。
東京都全域が選挙区となり、注目が広く集まりやすい都知事選と違って、都議選は42の選挙区に分かれている。いっそう、各地域での浸透が求められる。
今回は公認が決まってから都議選が始まるまで、2カ月ほど。無所属の現職都議は「自分の名前を地域で覚えてもらうためには、少なくとも1年は必要。石丸さんの知名度だけで投票するほど都民は甘くない」と指摘する。
石丸氏が街頭に立つと一定の聴衆が集まったが、それでも都知事選のときの人数には遠く及ばなかった。石丸氏自身は立候補していない状況で、当時のように関心をひきつけることは難しかった。
選挙戦の前後で、各社が厳しい情勢を報じた。ショックだったのか、想定と違っていたのか。陣営幹部によると、報道を受けて活動が鈍くなった候補者もいたという。
石丸氏は選挙前、「(新党の)目的は、国民に広く政治参加を促すこと。1128人がエントリーした時点でほぼ達成できた」と語ってきた。
迎えた投開票日。
再生の道から立候補した42人は全員、落選した。
石丸氏は22日夜の記者会見で、厳しい情勢について問われると、改めて持論を語った。
「そんなところに党の代表としてこだわっていない。目標は都議選に候補者を擁立すること。かなえている」
品川区(定数4)で立候補した岡本氏にとっても、初めて挑戦した選挙戦が終わった。
結果は10人中8位。
大差での落選が決まり、「まさかこんなに差があるとは。びっくりした。力不足です」と話した。
それでも、1万1202票を獲得し、こう振り返った。
「(石丸氏には)チャレンジできる舞台をつくってくれて感謝している」
新党は7月の参院選で、東京選挙区に1人、比例区に9人を擁立する方針だ。
陣営幹部は、こう話す。
「参院選の結果も悪ければ、党としてのあり方を考えなければならない」
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