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「くすぐったい。」



掠れ気味の声音、裏腹に開いた瞳。
張りつめた糸を、徐々に引きあうようにして、
寄せあおうとする身体と心と。


固くなっている身体を、徐々にほぐしながら。
魅かれあっていることと、溶けあうことの間には、
まだ浅く溝があり。
彼は脚をとられ、戸惑いから逃れられず。
口付けてからこちら、表情は強張りつつあり。
俺は酔ったように、彼を瞳で辿ってゆく。









「服を・・・・作りたいな。」



剥き出された身体が、剥き出しのベッドの上で反転する。
粗末なラグの上、ブランケットは落としたまま。
厚いガラスの向こう、風は音を強くする。


ぴったりと密着させた皮膚に、温かな脈が流れ込んでくる。
滑らかに締まった肩口から胸へ、
移動しながら呟いてみる。
栗色の髪が揺れる音が、部屋の空気を震わせる。



「誰の・・・?」
「お前の。」


気をそらしながら、あやすようにして、
皮膚と皮膚とが重なりあい、その体温に癒される。
背中から身体ごと抱きしめる。
耳を弄るように囁いてみる。


「ど・・・・んな、ふ・・く?」
咽喉の震えで言葉を伝えあう。
「そうだな、思いっきり贅沢に。」
頬を手で挟み、琥珀の煌きを覗きこむ。
「最高の素材、最高のデザイン。」
子供をあやすように、額を額に寄せて。
「どこで着るのさ、 ・・・みんなが呆れちゃうよ。」
口の端に、やっといつもの笑窪が浮かび上がる。
あどけないとしか言いようのない笑みに、栗色の髪が揺れる。
「なわけないだろう、俺のデザインだぞ。」



「未来の天才デザイナー?」
「アーティスト、って言ってくれ。」
「そりゃ、すごいや。」
「世界で一番お前に似合うように。」
「だからこうやって、
 ・・・・・  サイズを測ってる?」


目を見開いて、瞳を転がして。
他愛無く二人、笑い転げる。
重なりあい、幸福感に身を委ね、
掠れた声で、笑い転げる




「最高の生地、最高のデザイン。」
「す ・・・ごい。」



吐息がヒーターの唸りと混ざりあう。
小さな軋んだベッドで、俺たちは船に揺られるように重なりあい、
お互いを支えるように、求めあい。
「最高のアーティストによる、最高の芸術作品だ。」
絡めた指が楽しそうに握られる。






薄い溝は、徐々に埋まってゆく。
俺達はお互いに、沈んでいく。
それは眩暈するほどの幸福感を伴いながら。












マロニエに石畳。
カルチェ・ラタン、焦がれた風の香り。
屋根裏の小さな部屋で、身体だけではなく心を暖めあう。
時は俺達の間を柔らかくたゆたって。












世界はセピアに沈み掠れ。
秋の陽射しだけが、静かに揺らぎ煌く。









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