院長を務めていた歯科医院で患者から「講演会の協力金」名目で200万円を詐取したとして元院長が逮捕された事件で、県警は20日、詐欺容疑で元院長、高橋仁一容疑者(58)=茨城県古河市東1=を千葉地検に送検した。
(大村慧)
捜査関係者によると、県警は高橋容疑者が院長を務めていた「高橋デンタルオフィス」(千葉市中央区、閉業)の財務捜査を実施。その結果、自転車操業状態になっていたことが判明したという。
県警捜査2課によると、高橋容疑者は2013年ごろから歯科医院の賃料の滞納が始まった。20年3月ごろからは、同院の患者から県警に詐欺被害や治療に関する相談が相次いだという。
同年10月には滞納額が700万円を超え、賃貸借契約が解除。同課はこれにより、経営が著しく困難になったとみている。23年7月には物件の所有者から同院の明け渡し請求訴訟が起こされ、昨年3月に強制執行が行われたという。これで同院は業務が行えない状況になった。
◆「借りた」と記載、立件難しい患者
多くの患者から県警に相談が寄せられているが、立件が難しいケースもある。ある女性患者は高橋容疑者に「講演会の協力金」名目で500万円を支払った。ただ、その際の書面には「借りた」と記載されていた。
捜査関係者は「個人の貸し借りの話になっていると立件のハードルは高い」と明かす。
◆だまされなくても抜歯や仮歯で中断
高橋容疑者の話を「怪しい」と思い、協力金の話を断った患者もいる。患者の千葉市稲毛区の自営業の50代男性は、この被害に遭うことはなかったが、高いインプラント治療費を支払ったのにもかかわらず、歯を抜かれたまま治療は中断したという。男性は高橋容疑者が逮捕される前、千葉日報の取材に対し「破産もしているし治療費を取り戻すことは諦めている。早く捕まってほしい」と訴えた。
男性は知人の紹介で治療を申し込んだ。現在、下の歯は全て抜かれていて、人工歯根を4本入れたところで治療は止まっている。上の歯は仮歯で、食事は「(食べ物を)かむというより崩す感じ」という。
この男性も高橋容疑者から「治療費と同額をさらに振り込んでもらえたら治療完了後に全額返金します」と言われた。「怪しいと思い断ったが、だまされてしまった人もたくさんいる」。
◆高い金払ったが放棄されうつに
男性はインターネット上で被害者の会を立ち上げて、情報交換を行っている。「他の人たちも(歯で自分に)自信を持てるように『見た目をよくしよう』『歯は一生のものだからしっかり治療しよう』と思い、高いお金を払った。それにもかかわらず治療を途中で放棄された。体調不良やうつになった人もいる」と怒りをあらわにした。