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1.





抉られる。
ばらばらに。



引き裂く痛みに。
酔い痴れる。
それは麻薬のように。
決して慣れることのない。
痛覚が麻痺するまで、
俺は責め苦を求め。



いつものように、薄い唇が呟く
「苦しいなら・・・・」



「続けろ。」
いつものように、言葉を忘れ、
律動に身を任せる。












鳴り響くクラクション。
迫りくるビームライト。
狂ったブレーキランプ。
軋み。



そして不協和音。




其の時、何が映ったのか。
あの、琥珀の瞳に。














「今シーズン、テーマは?」



二人でも広過ぎるベッド。
悪い夢を吸い込んだシーツは、もう明日には替えられる。
抜け殻になった身体を、そしてまた夢は侵食する。


「LOVE ・・・・&BEAUTY、ってとこか。」
「陳腐だな。」
「だからこそだ。」


皮肉に上がる口の端に、薄い唇が触れる。



「やめとけよ。」
「今夜はもう、眠れるってわけか。」



ライターの灯りに、端正な横顔が浮かびあがる。


「で、モチーフは?」
「そうだな・・・ベドウィンとか。」
「ベドウィン?
 でも、LOVE&BEAUTYだろ?」
「言わなきゃいい、わかりゃしない。」
「それがお前のイメージってことか。」


押し殺したような笑い。
乾いた、風のような。



「ああ、愛をさすらって漂流するとでも何とでも。」
「ものは言い様だな。」
「素材は?」
「リネンとシルク、腐るほど。」


引き裂けば引き裂くほどに。
リカのイメージが、奔流のように迸る。
「乾いた色調・・・・・・靄みたいな濁った薄い色を重ねる。」
俺は必死でイメージをつかもうと。
「下半身は翻るようなドレープ。
 だけど、ラインはスリムに纏めて。」
取りとめもなく次々と、重ねる言葉を追ってゆく。
「小物は革と、錆色のメタル。」
そしてラインが出来上がってゆく。


こいつのシナプスを、尽きることのない無数のモードは回り続ける。
だけどあの日から、形になることはない。
垂れ流すそれを、必死で掬いとり、
俺は形にしようと試みる。
こいつの頭にあるものとは、恐らくはかけ離れた安っぽいフェイク。
トレンドを綿密に計算し、マスコミを上手く操作して、
だからこれほどに受けている。



お互いに分かりながら、忠実に役割をこなす。
それは友情などという小奇麗なものでは、決して無い。
デザインよりも経営に長けた旧友は、偶像作りに余念無く、
由緒ある伯爵家の美貌の末裔は、マスコミの広告塔に。
ドンファンブランドは仮面を被り、
こいつは逃れられない悪夢の中に。








「コレクションが片付いたら、レジーナ・ビアンカへ。」
「急だな。」
「パトリシアが五月蝿い。」
目下のこいつの、お相手か。
「そりゃご苦労なことだ。」
「お前も来るんだ。」
「いいのか、二人きりのつもりだろう、彼女。」
「息が詰まる。」
「なるほど。」


「じゃ、あとは任せる。」
「いいのか勝手に。」
「構わない。」


そしてユウヒに背を向けて、ハルシオンを一粒。
砂のようにざらつくそれを、ゆっくりと嚥下させる。



抜け殻になるその日まで。
夢は見たくない。













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