ネット左翼(リベラル/フェミニスト)と認知の歪み
まず最初に私は「認知の歪み」という言葉が好きではない。この概念は精神科医アーロン・ベックが抑うつや不安症を抱えた人間達が非現実的な可能性に恐怖したり、悲観的な拡大解釈する事を指して作ったものだが、専らネットでは「自分と敵対的な見解を持つ人間の現実離れした言動」を指して使われている。そしてこの言葉は左派的な人間が自分と敵対的な属性…ネット右翼なり男性なり名誉男性なりを罵倒するのに好んで使用する傾向にあることは、わざわざ説明する間でもない。
その為、私は意趣返し的に左派的な人間も相応のバイアスを有していることを指摘し、そのうえで如何に左翼同様に右翼も現実に向き合っているか?を考察し「認知の歪み」という言葉を否定する記事を書こうとした。が、その構想は同じく左派的な人間が好んで使う剥奪理論…現実では惨めな人間がソレに由来する不満を(自分達へ)転嫁してる…同様に即効で裏切られる事となった。
結論から言えば、前回のネット左翼分析同様に今回も書くことは「悪口は自己紹介」の1言だ。
まずネット左翼の認知の歪みに対して、このように思う方は私のnoteの読者には少ないが多分ネットには多いだろう。曰く「人間は多かれ少なかれ自分にとって都合の悪い面は見ないで都合の良い面ばかり見ようとする。それは右翼も左翼も変わらない。結局はどっちもどっちで都合に合わせて変わるだけ」と。私のnoteの読者なら、この手のどっちもどっち論は物事の詳細な分析や比較を怠り、それっぽい事を言って理解した気になりたいだけの思考停止であることが分かるはずだ。
しかしながら政治的バイアスに関して「どっちもどっち論」を支持する研究はある。2019年にそれ以前に行われた研究51件を対象にしたメタアナリシスでは、政治的に1致する情報を不1致な情報よりも好意的に評価する傾向は全体として頑健であるものの、バイアスの大きさにはリベラル派と保守派の間で有意な差がないことが確認された。この見解はバイアスがアイデンティティ保護や動機づけられた推論といった普遍的なプロセスから生じるという考えに沿っており、これをもって「左翼も右翼もどっちもどっち」と主張することは可能である。
しかしこのメタアナリシスは研究手法…そして研究対象に大きな問題がある。研究手法の問題について簡単かつ雑に説明すると、まず測定したバイアス(1致情報と不1致情報の評価の差)は必ずしも非合理的であるとは言えず、現実世界のバイアスや不正確さを示すものではなく、そもそも正確性の定義や基準設定がされてないこと。次にメタ分析に使用した研究は比較のために設計されたものではなく、非代表的な問題や素材を使用していることだ。
後者に関して詳しく解説すると、そもそもネット左翼や騎士やフェミニストの批判的研究は長らくタブーとされてきており、2022年ジョニー・デップのDV冤罪事件においてネット左翼やフェミニズムの有害性(デップに対する推定有罪によるキャンセルやデマや誹謗中傷の流布)が誤魔化せなくなるまで研究出来ず、してもキャンセルされてきたこと。1方で所謂ネット右翼研究は昔から大っぴらにされてきた歴史があり、結果として上の研究は「1般左翼に対して好意的・フラットに検証する研究と過激な右翼(ネトウヨ)に対して否定的・批判的に検証する研究の成果を比較する」形となってしまったのだ。
そしてコレは逆に言えば「1般左翼の人間をフラット・好意的に見た場合のバイアスの大きさと過激なネット右翼の人間を否定的・批判的に見た場合のバイアスの大きさがほぼ同じ」ということである。もっと雑に言えば「1般左翼のヤバさは過激なネット右翼のヤバさとほぼ同じ」ということだ。これは明らかに「どっちもどっち」で片づけられる問題ではない。
そして「比較の為に設計された」「ネット左翼とネット右翼を比較する」研究においては、凡そネット左翼の方がネット右翼より強いバイアス…認知の歪みを持つ証拠が蓄積されつつある。例えば所謂「フェイクニュース」を題材にした研究ではネット左翼は真偽の識別能力全体ではネット右翼より優れているが、政治的に1致する情報と不1致な情報の正確性を評価する際にはネット右翼よりも大きなバイアスを示すことが見出された。雑に言えばネット左翼は自分達の政治信念に関係ない事柄に関しては優れた認知能力を発揮するが、自分達の政治信念関係の事柄に関してはネット右翼以上にデマに弱くなるということだ。これは左派的な文化人や科学者が、特定の…主に男女論分野において…突如素っ頓狂で非科学的で論理的に破綻した主張を繰り返すようになる現象を、ある程度説明出来ると思われる。
また「敵対する陣営からの言葉をちゃんと聞くか?」という研究においては非政治的なタスクにおいても、民主党支持者(左翼)が共和党支持者(右翼)からのアドバイスを聞かず頑な言動をとることが確認された。これは金銭的インセンティブを持たせても同様だった。要するに民主党支持者は「共和党支持者は無能なんだ!それっぽい事を言っていても間違いに決まってるんだ!有能なら民主党支持になるはずなんだ!」と心から信じている事を示唆している。因みに共和党支持者にはこのような信念は見られず、非政治的タスクにおいては敵対陣営の人間からの助言であれ正確なら受け入れる事が確認された。要は右翼は「誰が言ってるか?ではなく、ナニを言ってるか?で正しさが決まる」1方で、左翼は「ナニを言ってるか?ではなく、誰が言ってるか?で正しさが決まる」ということだ。
こうした研究の蓄積に伴い、とうとうドストレートに「ネット右翼はネット左翼よりもバイアスが強いという神話に挑戦する」研究がスタートした。研究者はネット左翼が特定の領域…特に「被害者」と認識される集団…女性、黒人…と「特権的」と認識される集団…男性、白人…に関わる情報に対して、特有のバイアスを示すことを実証しようと試みたのだ。昔ならキャンセル待ったなしの今のご時世だからこそ出来るようになった研究である。研究者はSNS等でネット左翼を観察し、次のような信念「平等主義(Equalitarianism)」を設定した。
1.人口統計学的集団間には社会的に価値のある特性に関して生物学的な差異は存在しない(ex男性に理系が多いのは男性が数字に強いからではない)
2.偏見は遍在しており現存する集団間の格差を説明する(ex男女賃金格差は女性に対する偏見が原因)
3.社会は全ての集団間の平等を達成することが可能であり、またそうすべきである
この信念によりネット左翼は特権的集団を被害者集団よりも好意的に描く情報(特に知性のような社会的に価値のある特性に関して)に対して否定的なバイアスを示すと考えたのだ。要するに私の下記のようなnoteも左派的な信念の方には否定的に受け取られると理論した。
理論を検証する為に研究者は8つの研究と12のミニ・メタアナリシスを実施し、合計3274人の参加者からデータを収集した。 主要な手法として参加者に架空の研究結果を提示するビネット(短い記述)を用いた。これらのビネットは特権的集団または被害者集団のいずれかが、社会的に価値のある特性(主に知性)において優れているという内容であった。参加者は7段階評価尺度に基づいてリベラル、中道、保守に分類され、提示された研究結果の信頼性や受容性を評価した。
~ここから下は如何に研究が2019年のガバ研究に比して、しっかり設計されてるか?の説明であり読み飛ばして構わない~
更に著者らは上記の平等主義の3つの信念要素への同意度を測定する為に、新たに18項目の「平等主義尺度」を開発した(内的整合性を示すクロンバックのアルファ係数は0.90)。そしてリベラリズムと観察されたバイアスとの関係を平等主義が媒介するかどうかを検証するために媒介分析を行った。
更に更に1部の研究(研究6と7)では参加者内計画が採用された。これは同1の情報であっても、どちらの集団が好意的に描かれているかによって評価が異なるかどうか(順序効果)を検証するためである。順序効果の存在は、参加者が(意識的には)同1情報を1貫して評価すべきだと考えているにも関わらず無意識的なバイアスによって評価が歪められている可能性を示唆するものだ。
そしてこの研究における「バイアス」の操作的定義は非常に具体的だ。即ち提示される研究の記述内容は同1であり、唯1異なるのはどちらの集団(特権的 vs. 被害者)が好意的に描かれているかという点のみである。要は文字通り「男性と女性の文字を入れ替えただけ」ということだ。この実験的統制により情報内容以外の要因(集団の地位やイデオロギー)が判断に影響を与えていることを示す内部妥当性は高まる。
~読み飛ばし終わり~
研究結果は何れも研究者の理論を支持するものであった。
まずネット左翼は特権的集団(男性、白人)を被害者集団(女性、黒人)よりも好意的に描く研究結果に対して、その逆の場合と比較して1貫して信頼性が低いと評価した。噛み砕いて言えばネット左翼は「女性は男性より頭がいいんだ!」と言われればデタラメ記述でも信じるということだ。そして平等主義尺度得点が高いほど、リベラリズムと「特権的集団を好意的に描く情報に対する低い信頼性評価」との関係が強まることが媒介分析によって示された。これは平等主義的信念が強い個人ほど、その信念に反する情報に対してバイアスを示す傾向があることを示唆するものだ。そしてこの発見は「ネット左翼はバイアスが強い」という単純な主張を超え、「平等主義的信念の強さが特定のバイアスと相関する」というメカニズムを示している。本当に身も蓋もない事を言ってしまえば、ある種の左派的信念は人間の知的水準を引き下げるということだ。
参加者内計画を用いた研究ではネット左翼において有意な順序効果が観察された。最初に被害者集団を好意的に描く議論を読んだ場合、その後に提示される特権的集団を好意的に描く(内容は同1の)議論に対しても、より高い信頼性評価を与える傾向があった。これはリベラル派が(意識的には)同1情報を1貫して評価すべきだと考えているかもしれないが、実際にはどちらの集団が好意的に提示されるかによって評価を歪めていることを示唆する。雑に言えばネット左翼は最初に自分の政治信念と異なる情報を与えた相手を「敵」と見做し、その後は「ナニを言ってるか?ではなく、誰が言ってるか?で正しさを決める」ルールにのっとり、情報の受け入れを拒否するということだ。逆に最初に自分の政治的信念と合う情報を提示すれば「味方」になるので、その後の情報受け入れもスムーズになる。
また主題ではないが中道派は研究全体を通じて最もバランスの取れた判断を示す傾向があった。またネット右翼にも同様のバイアスがある事が示されたが、彼等のバイアスはネット左翼ほどの1貫性や強さは示さなかった。興味深いのは男女におけるネット右翼とネット左翼のバイアスの程度差である。ネット右翼はジェンダーバイアスにおいて、ネット左翼と同様に「女性の方が男性より賢い」という言説を好んだもののネット左翼ほど好意的だったり信じたりせず、また「男性の方が女性より賢い」という言説はネット左翼は嫌悪を示し懐疑的な見方をしたのは対照的に中立的判断であった。
https://www.researchgate.net/publication/325033477_Equalitarianism_A_Source_of_Liberal_Bias
※尚当然の話ではあるが、この研究はバイアスの道徳的道徳的正当性を評価しているのではなく、その存在を実証しているに過ぎない。
この研究は2023年に行われた…というか最近まで左翼や騎士やフェミニズムの批判的…というか価値観中立的な研究さえ出来なかったので、引用数はまだ増加途上にあると考えられるが、既に後続の研究で参照されており、被引用数は2025年4月現在で116件に達した。そしてこの研究を基にした興味深い研究が続々と発表されているが、同時に闇に葬られた研究にも光が当たりつつある。その中でも興味深いものとして1つ紹介したいのが「反科学としての人文学者」だ。この研究は冒頭から飛ばしている。研究イントロは左派に不利な研究がキャンセルされる事を指してこう語る。
1.人文学者が部族的忠誠心から生じる偏見、誤り、そして歪みにつながる社会プロセスから免れていると信じる理由はない
2.こうした部族的傾向は、極端なイデオロギー的均質性と相まって科学的真実の追求において重大な問題を引き起こす
(1. there are no reasons tobelieve that social scientists are immune to the biases, errors, and social processes that can lead to distortions that stem from tribal loyalties; 2. these tribal tendencies, combined with extreme ideological homogeneity, work to create significant problems for the pursuit of scientific truth.)
研究者は2020年以前の人文学の研究やその周辺の騒動を調べて、その酷い偏りや研究不正の存在を明らかにした。
・保守派の社会人格心理学会会員の50%がキャンセルや抑圧の経験を報告しているのに対しリベラル派の会員では14.2%であったこと
・社会心理学においてリベラル派が過剰に代表されていること(社会人格心理学会の会員における保守派の割合が米国人口における割合と比べて著しく低い等)
・↑に付随するイデオロギー的に偏りのある科学論文の査読における政治的偏り
・女性に対する偏見に焦点を当てた社会科学の取り組みが多く、男性に対する偏見にはほとんど焦点が当てられていないこと
・政治的に左派に偏ったサンプルが企業の黒人比率が米国人口の約13%であるにも関わらず、少なくとも25〜32%の黒人比率がないと人種的に多様でないと見なすこと
・左翼に立場に有利な効果の影響を誇張し、右翼に有利な効果の影響を黙殺すること(この研究が奇しくも実証例となった)
他多数
ここまで見て左翼と認知の歪みに関して結局今回も「悪口は自己紹介」に尽きる結果となった。彼等は党派性で物事の正否を判断し、ある種のイデオロギーによって思考能力を奪われ、事実を歪め、科学に反対し、女性に強く執着するという認知の歪みを有している。それは「バイアスは誰でも持ってる」的などっちもどっち論で誤魔化せるモノでは断じてない。
そしてこうした研究は何故彼等が右翼や自分に言動に賛成しない人間達に対して「認知が歪んでる!」というのか答え合わせと言えるだろう。即ち「高速道路を逆走してる自動車の運転手にとっては自分以外の全ての車が逆走してるように見える」だ。
余談
私自身は反知性主義以外のイデオロギーは特に有しておらず、バランスをとる為にはネット右翼研究もやらなきゃと思うのだが、右翼は障害者や男性に優しくはないが積極的に攻撃を仕掛けたりはしないのでモチベが湧かない。あと需要も特になさそうだ。



コメント
81️⃣「『ネット右翼』呼称しなくても『右翼』という既存呼称で良いんじゃね?『ネット右翼』呼称に拘るならその定義って何?」
2️⃣「『ネット右翼』がいるなら『ネット左翼』が絶対に存在するはずなんだが、その定義はなに?」
(*右翼・左翼は相互補助的な対立概念。片方だけは絶対に有り得ない。「上下」「陰陽」と一緒)
👆️ネット言論空間でこの問いに答えられる人はまず居ない
事実上「ネット右翼」という単語に意味はないと言って過言ではないだろう
…斯様な状態がなぜ放置されてきたか?
記事にも似た記述があるが、
「左翼は一般市民の思想 VS 右翼は過激思想」という構造図式を演出、左派の思想的優位をメディアが保つ為に、『ネット左翼』という概念が可視化され検証されると困る人達が妨害してきたから
しかし、歪んだ言論構造を逆利用して
「一般的なネット左翼の偏向は、極右を持ち出してよやく釣り合うキチガイレベル」
という非対称な実態をえぐったアプローチは正に慧眼!ワザマエ!
『ネット左翼』概念を可視化・定義化して議論検証可能な状態にする、この試みは地味だけど本邦言論空間の大きな一歩だと思っております
いつも勉強になります。ありがとうございます。
「道徳的」が二重になっている箇所がありますね。
≫右翼は「誰が言ってるか?ではなく、ナニを言ってるか?で正しさが決まる」1方で、左翼は「ナニを言ってるか?ではなく、誰が言ってるか?で正しさが決まる」ということだ。
それ以上いけなさすぎて草。
…という感覚ももう終わりで、欧米の状況をみるに、左翼のあまりにもあんまりな行状が続々と相対化されるようになってきたということで、欣快の至り、ということでしょう。非常に喜ばしい。
反知性主義のイデオロギーを持っていながら、統計的推論に依拠する非常に理知的な言論を徹底している点が興味深いです。おそらく知性そのものによって反知性を「立証」しようとしているのでしょうが、reiさんがその先で、反知性的社会についてどのような展望を持っているのかが気になります。