被災時に男性は避難所に行くべきではない説について
最近ネット上には「男性…特に単身/独身男性は被災時に避難所に行ってはいけない。行ったら物資を奪われたり、差別や偏見の目に曝されたり、損な役割を押し付けられる」といった言説が囁かれている。恐らくこの言説は「3.11東日本大震災の被災者だけど、独身の男は避難所には行くな。」という5chのスレッドが元ネタであり、それがYoutube等でバズって有名になったものだろう。
そこでは東日本大震災で被災した独身男性と思われる投稿主が大まかに以下のような主張を述べている。
・防災グッズを寄付しろと迫られた
・食料を女性や子供に差し出すのが当たり前ような顔して貰いに来られる
・独身男性の物資はぶんどって当然のような空気がある
こうした事例は私のフォロワーもちょくちょく報告しており、自己申告の体験談なので信憑性は薄いと言わざるを得ないが、「ありそう」と思わせる説得力があるのは確かだ。というか、だからこそネット上で流行りだしたのだろう。
そして実際「避難所で女性は男性より優先的に物資やスペースを割り当てられる」ことは事実だ。これは陰謀論や被害妄想ではなく、行政が避難所運営マニュアルとして明記してる事実である。
というより、そもそも論として我が国は「防災基本計画」において、避難所では性差別すべしとハッキリ明言している。これも陰謀論ではなく、普通に文書化されて公開されてる事実である。
被災者の生活の維持のため必要な食料、飲料水、燃料、毛布等の生活必需品等~配慮者等のニーズや、男女のニーズの違いに配慮するものとする。
市町村は、指定避難所の運営における女性の参画を推進するとともに、男女のニーズの違い等男女双方の視点等に配慮するものとする。特に、女性専用の物干し場、更衣室、授乳室の設置や生理用品・女性用下着の女性による配布、男女ペアによる巡回警備や防犯ブザーの配布等による指定避難所における安全性の確保など、女性や子育て家庭のニーズに配慮した指定避難所の運営管理に努めるものとする。
地方公共団体は、再度災害防止とより快適な都市環境を目指し~住民の理解を求めるよう努めるものとする。併せて、障害者、高齢者、女性等の意見が反映されるよう、環境整備に努めるものとする。
これを正当化する理由について日本政府は概ね以下のように説明している。曰く「女性専用スペースや物資が必要とする最も重要な理由はハラスメントからの保護である。災害という混乱した状況下では、これらのリスクが増加する可能性がある。また女性には月経など特有の衛生上のニーズがあり、着替えやパーソナルケアのためにプライバシーが確保された空間が必要である。このような空間の欠如は不快感だけでなく、膀胱炎などの健康問題を引き起こす可能性もある」みたいな感じだ。良い悪い・正否は別にして男性は女性と違って災害下でもハラスメントに合わず、プライバシーが侵害されても問題なく、裸を見られても不快感を覚えず、粗悪な環境でも健康上の問題を起こさない…というのが我が国の公式見解のようである。
こうした差別措置の正当化は女性専用車両同様に「(男性側の)任意・善意の協力」と「性的暴力やハラスメントからの保護」の名目で行われている。その他に内閣府の資料「災害時に 女性(男性)が直面する困難と男女共同参画による対策」によれば、次のような事も女性が男性より気遣って当然の理由として挙げられている。「被災時には増大した家庭責任が女性に集中する」…抽象的過ぎて、これだけだと何の事か分からないが、同資料には「男女で異なる被災体験」として次のような事が書かれている。
・災害時には女性や子どもの安全確保は優先順位が低く平時に増して、訴えにくい
・避難所のリーダーや物資担当者は男性が多く、女性が必要な物資をもらいに行ったり、要望をだしづらい
・女性のみが炊き出しを担い疲労蓄積。家族と地域のケアの二重の負担
・避難所の責任者は、大半が男性
・仕事を持つ女性は家族と仕事の板ばさみ
・女性特有の症状(膀胱炎・外陰炎など…着替えがしにくい・下着を干す場所がないなどのため、こまめに交換できない)
・非正規雇用は女性が多く、女性のほうが解雇のリスクが高い
・母子世帯は収入が低く・貯蓄額もわずかである場合が多く、貧困に陥りやすい
・女性は、家族のケア負担が増大する中、働きに出にくい。出勤せねばならない人の託児の問題
・復興の緊急雇用は、男性向けの内容が多い。女性は活用しにくい
なんと10項目もある。因みに男性特有の問題に対する言及は()つきだけあって3件しかなく、しかも内2件が父子家庭に関するものであり、しかも内容がもろ被りしてる。
・中高年の男性は、ストレスを溜め込みがち(特に責任ある立場の人)
・父子世帯への支援は平時から少ない
・父子家庭の就業・生活支援等のメニューは貧弱
この10:3、或は10:2という数字が男女の気遣われに関する格差の数字なのだろう。更に興味深い事に「男女の違い」としながらも、女性特有の困難は実際は女性特有の困難でないものが殆どだ。
例えば「災害時には女性や子どもの安全確保は優先順位が低く平時に増して、訴えにくい」とあるが、日本において犯罪被害者の男女比は3:1であり、それでありながら「男性の安全を確保しよう!」という施策は皆無である。どちらが安全確保されてないか?安全確保を訴えづらいか?優先順位を低くされてるか?は説明する間でもない。
また「仕事を持つ女性は家庭と仕事の板ばさみ」「女性は、家族のケア負担が増大する中、働きに出にくい。出勤せねばならない人の託児の問題」が男性には降りかからないという前提が意味不明だ。というか、この2つも被っており男女差別云々以前にこの資料は単純に出来が悪い。
更に「母子世帯は収入が低く・貯蓄額もわずかである場合が多く、貧困に陥りやすい」は実際には嘘松である。厚労省の令和3年全国ひとり親世帯等調査によると、令和3年における母子世帯の「母親の年間平均収入」は236万円である。この数字を見ると「いやそれなら貧困やないか」と思ってしまいそうだが、これは統計マジックだ。というのも「母子世帯の年間収入」は373万円と1気に跳ね上がるのである。このカラクリは何の事はない。確かに母子世帯のママは低収入であるが、国や自治体や私団体から年140万円ぐらい手当がつき、貧困ラインから普通ラインまで飛ぶというだけの話だ。
そして女性特有の困難として「避難所では男性が責任あるポジションについて負担を女性に押し付けてるんだ!またそのせいで女性が抑圧・差別されているんだ!」というロジックが使われている。どうも行政や人文学者の間で「男性は男性を贔屓するので、それを正す為に女性を入れて女性を贔屓するようにしなければならない」は自明の前提となっているようだ。因みに男性は男性を贔屓しないが、女性は女性を贔屓すること自体は様々な研究で確認されており、女性の声が広がれば女性が贔屓されるようになることは確かだろう。
https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/h24_kentoukai/3/pdf/1_1.pdf
避難所における支援に気を付ける対象として「子供」「高齢者」「障害者」が「要配慮者」に指定されており、これらはマイノリティ故に様々な困難に会いやすいとされている。となれば、当然に人口の半分=マジョリティである男性に対して特別な配慮をすることは出来ない…というのは確かに1理あるように思われる。しかしながら内閣府や自治体や人文学者は同じく人口の半分を占める女性をマイノリティ=要配慮者にしている…だけでなく、なんと子供や高齢者や障害者より女性を配慮してるのだ。
これは論より証拠で、現在内閣府が避難所の障害者配慮について出した資料は「避難所等で生活する障害者への配慮事項等について」という4ページのパワポだけであるが、女性に関しては「災害対応力を強化する女性の視点」という83ページの資料を冊子にして各自治体に配布している。もう手間暇かける金が違い過ぎて勝負にもならない。土俵から違ってる。
https://www.mhlw.go.jp/content/10600000/000334342.pdf
https://www.gender.go.jp/policy/saigai/fukkou/pdf/guidelene_01.pdf
そしてこれらの目に見える格差…例えば女性専用スペースが目に見えて提供されているのに対し、男性には同等のものが存在しないという状況は、見過ごされている、価値が低い、あるいは暗黙のうちに疑われている(つまり、男性が女性専用スペースを必要とする理由であり、したがって男性は自分たちの専用スペースを「持つに値しない」または「必要としない」)という感情に寄与するものだ。要するに男性は避難所において常時「貴方は危険で大切ではない」というメタメッセージを浴びせかけられ続けるのだ。
女性専用スペースは主に男性による暴力やハラスメントからの「保護」措置として、また特定の生物学的・ケア提供上のニーズへの「提供」として正当化されている。男性専用スペースの欠如は男性が保護を必要としない…通り越して潜在的脅威・性犯罪者予備軍と見做されており、またそのように扱う事が許されてる証拠だ。
これに対し「そうは言っても女性専用スペース以外はデフォルトで男性スペースみたいになるんじゃないの?」と思う方もいるかもしれないが、当然にそのスペースには男性にとって真に支援的で快適なものにするための意図性、設計、または明確な認識が欠けている。簡単に言えば、それらは単なる「残されたもの」に過ぎないのだ。
また「性犯罪や暴力犯罪者は男性の方が多い」は差別を肯定する理由にはならないが、その前提自体も非常に疑わしい。DVも性暴力も犯罪統計の加害者は男性>女性であるが、暗数調査だと大体半々ぐらいになることが知られている。
更に「お化粧ルームは男性暴力云々では正当化出来なくね?」等ツッコミたい事は沢山あるが、こうした事に細々と突っ込んでいくとキリがないうえに「ある属性に対して属性自体を理由にした差別的扱いは許されない。集団の権利は決して個人の権利に優越するものではない」という日本国憲法の前提から逸れてしまうのでやめておく。
「被災時に男性は避難所に行くべきではない」においては物資が奪い取られる事が主眼に語られているが、それは「物資は女性優先に配られたり女性専用の物資がある」以外は現状エピソードレベルでしか確認出来ない。しかしながら男性が避難所に行くと確実に「あるモノ」は奪われると断言出来る。それは「尊厳」だ。避難所において男性は「危険で大切ではない存在」として扱われ、献身しても感謝されるどころか「責任ある立場について自分や男性を依怙贔屓してる」「私達に負担を押し付けてる」等と「安全で大切な存在」から責められ恨まれる。また社会も「安全で大切な存在」の献身を取り上げ、貴方のソレは無視される…はまだ良くて、場合によっては「男性が活躍してるせいで私達は抑圧された」とミソジニー認定されることも珍しくない。
実際に東日本大震災時に復興のために瓦礫除去に従事した男性達は、日当を貰っていることを理由に「女性に炊き出しを押し付けて大儲けしてる悪しきミソジニスト」としてマスコミや女性達から叩かれた…だけでなく、行政からも女性差別の典型例として記録され、避難所マニュアルの注意書きにも記載されてる有様だ。
こうした扱い…自分が危険で大切ではないことを受け入れて女性に気を遣い、献身し、更に恨まれたり攻撃される…に耐えられる/それを甘受しても尊厳を保てる男性もいる事はいるだろう。しかし私は最早その男性を「ヒーロー」とみる事は出来ない。彼を顕わすのに相応しい言葉は、哀れな犠牲者、奴隷の王、強きに媚びて弱きを無視する者…そしてイネイブラー(問題行動を助長させるお節介焼き)といったところだ。



コメント
12> 「男性は早い段階で職場に復帰する」
兵隊はじめとして警察・消防、地方公務員も含めて全員家族を被災地においてよそ様のために働いているんですけれど、ね
よくもこんな言いようが出来たもんですね、書いた奴に人間の心はあるんだろうか。
金沢だと炊き出しや食事当番は全部女がやらされる
男はカレーも作らないというスレが嫌儲板に立ってました
これが本当なら女差別はあるのかなと思いますが
どう思いますか?
自分もフェミは嫌いですが、ストレステストのつもりで質問してます
男ってぶらぶらと何の用もなしに外出してたと思ったら、そこでやってた瓦礫撤去や家屋の掃除ごときで仕事した気になってんの?
避難所の中にいる女しか仕事してないじゃないか!これだから男さんは・・・
飯の支度ぐらいしか任せられないからねえ
他の危険で体力が必要な仕事は少年未満の働きしかしませんから