混乱の続く山形新幹線 E8系新幹線電車の補助電源装置の不調の原因は何かを推測する

梅原淳鉄道ジャーナリスト
山形新幹線の「つばさ」として2024年に営業を開始したE8系。写真:イメージマート

いましばらくは不便が続く山形新幹線の「つばさ」

 JR東日本山形新幹線の「つばさ」に用いられるE8系新幹線電車が2025(令和7)年6月17日に車両故障を起こしたことはご存じのとおりだ。同社は故障の原因を究明するため、E8系を単独で走らせることを取りやめ、その影響は少なくとも6月26日まで続くのだという。

 「つばさ」にはE8系の投入で引退が決まっていたE3系新幹線電車がいましばらく使われることとなった。しかし、E3系ですべてを肩代わりすることは難しく、全区間または一部の区間が運休となる「つばさ」が発生する。

 詳しくはJR東日本の運行情報・運休情報などを参照していただくとして、6月23日から6月26日までの間、下り山形駅・新庄駅方面、上り福島駅・東京駅方面とも14本ずつの計28本が運転され、下り3本、上り2本の計5本は運休となる。さらに、上下14本ずつ計28本のうち、下り12本、上り13本の計25本は東北新幹線への直通を取りやめ、福島駅で折り返して福島駅~山形駅・新庄駅間の運転となる。東北新幹線に直通する「つばさ」は下り「つばさ121号」、上り「つばさ156号」の上下1本ずつ計2本しかないので注意してほしい。なお、残る下り1本は福島駅で折り返さず、東北新幹線にも直通しない「つばさ171号」で山形駅から新庄駅までの運転となる。

E8系の補助電源装置から得られる電力は

 JR東日本が2025年6月18日付で公表したニュースリリース「東北新幹線 宇都宮~那須塩原駅間 回送列車(E8系)が故障した事象について」によると、車両故障の原因は補助電源装置の故障だと推定されるという。故障の詳細を同社に問い合わせたところ、7両編成を組むE8系に7両中2両に1基ずつ計2基の補助電源装置を車両の床下に搭載しているところ、2基とも動かなくなったのだそうだ。

 補助電源装置とは、JIS(日本産業規格)のE4001の番号51503で「補助回路及び制御回路の機器に電力を供給する装置」と定義されている。では補助回路、制御回路とは何だろうか。JISによると補助回路とは「補助電源装置、電動空気圧縮機、電動送風機などの、電気車の走行に直接関係はないが、不可欠の補機の回路。通常、冷暖房装置、照明装置、戸閉め装置などの附属装置の回路も含める」(E4001の番号14003)であり、制御回路とは「主回路用機器の制御を行う回路。補助回路などの制御を行う回路を含める場合もある」(同番号14002)だという。補助回路の定義に登場する「電気車」とはE8系のような電車のほか、電気機関車も含まれる。ついでに言うと、E8系のような電車には補助回路、制御回路のほか、もう1種類の電気回路があり、パンタグラフなどからモーターへと電力を供給する役割を果たす主回路だ。

 E8系の補助電源装置からは交流100V・50Hzや直流100Vを取り出すことができ、補助回路や制御回路に接続された機器に電力を供給できる。ではそのもととなっている電力は何かというと交流400V・50Hzだ。E8系のパンタグラフで採り入れられた交流2万5000V・50Hz(東北新幹線内)または交流2万V・50Hz(山形新幹線内)の電力はやはり車両の床下に搭載されている主変圧器で交流400V・50Hzに下げられ、補助電源装置へと送られていく。

 交流400V・50Hzから交流100V・50Hzを得るには変圧器を用いて電圧を下げるのが簡単だ。しかし、架線を流れる電力の電圧は結構変動が大きく、これに伴って得られる交流100V・50Hzも電圧が安定しない。このような電力は暖房装置などに内蔵されたヒーターに使われるくらいだ。ではどうするかというと、補助電源装置内部のコンバータでいったん直流に変換し、再度インバータを用いて交流100V・50Hzに変換する。

 直流100Vを取り出す仕組みも複雑だ。コンバータで変換された段階の直流100Vも電圧は安定しない。そこでDC-DCコンバータを用いて直流から直流へと電圧を変えることによって電圧の安定した直流100Vを取り出している。

補助電源装置と主変換装置との関係

 JR東日本はE8系の補助電源装置のどのような機能が故障したのかについて、次のようにニュースリリースに記している。

「補助電源装置が故障して主変換装置に電力が供給されなくなったため、主変換装置内にある冷却装置が動作せず、回路保護機能が作動しました。これにより、車両を動かすためのモーターを駆動することができず、走行不能に至りました。補助電源装置の故障原因の詳細については調査中です。」

 再び解説が必要な用語が登場した。主変換装置だ。JISでは「動力装置に電力を供給する電力変換装置。我が国では、特に、交流電力を変換して交流主電動機を駆動または回生制動させる装置をいう」(E4001の番号62529)と定義されている。動力装置とはモーターと言い換えてよい。「我が国では、~」以下の記述のとおり、新幹線のように架線に交流の電力が供給されている区間を走る電車に搭載されている。

新幹線電車の場合、床下に搭載された補助電源装置や主変換装置は外部からのカバーで見ることができない。ではレール側からなら見えるかというと同様にカバーに格納されている。写真東北・北海道新幹線用のJR東日本E5系の床下。新幹線総合車両センター 2010年12月27日 筆者撮影
新幹線電車の場合、床下に搭載された補助電源装置や主変換装置は外部からのカバーで見ることができない。ではレール側からなら見えるかというと同様にカバーに格納されている。写真東北・北海道新幹線用のJR東日本E5系の床下。新幹線総合車両センター 2010年12月27日 筆者撮影

 E8系の場合、架線を流れる交流2万5000V・50Hzまたは交流2万V・50Hzは主変圧器で電圧を交流1500V・50Hz前後まで下げられた後に主変換装置に向かう。主変換装置に供給された交流1500V・50Hz前後の電力は一度直流に変換され、続いて三相交流に変換される。三相交流として出力される電圧や周波数を上げたり下げたりすることでモーターの回転数やトルクは変わっていく。この結果、E8系は止まった状態から動き出したり、そのまま時速300kmという最高速度までスピードを上げられるのだ。

 もう一つ、主変換装置の定義にある「回生制動させる」についても説明しておこう。E8系は高速域から停車寸前まで電力回生ブレーキを作動させる。モーターを発電機として動かした際に生じる大きな抵抗力で車軸の回転を止めようとするブレーキを指す。モーターが発電した三相交流は主変換装置に向かい、ここで直流、そして交流に変換された後、主変圧器で交流2万5000V・50Hzまで昇圧されて架線に戻される。

 JR東日本の説明では、今回E8系の主変換装置にある冷却装置が動かなくなり、その結果モーターを駆動させられなくなったのが故障の直接の要因だという。そして、冷却装置が動かなくなったのは補助電源装置から電力が供給されなかったとのことである。

 先ほど、E8系の補助電源装置から供給される電力は交流100V・50Hzまたは直流100Vと記した。JR東日本に聞いたところ、どちらの電力を用いているかはわからないが、主変換装置の冷却装置を制御するための電力を補助電源装置から供給しているのだという。

 ややこしいことに、主変換装置の冷却装置そのものを駆動させているのは補助電源装置から供給される電力ではない。主変圧器で降圧された交流400V・50Hzをそのまま供給して冷却装置の送風機を回している。

E8系の補助電源装置だけなぜ不具合が起きているのか

 ここまで補助電源装置や主変換装置の役割を説明してきたが、なぜE8系の補助電源装置だけが故障しているのかはわからない。加えて、補助電源装置の不調であれば、JR東日本の新幹線電車すべても故障の可能性はある。さらに言うと在来線用の車両であっても補助電源装置の仕組みは同じだから、E8系を用いている「つばさ」を全区間または一部区間の運休どころか、JR東日本のほぼすべての列車に影響が出ると言えるだろう。それだけではない。補助電源装置を搭載した車両は全国、いや全世界に多数存在するから、これらすべても調査しなければならない――。

 現状で世界中の鉄道業界がパニックに陥っていないのは、E8系の補助電源装置だけに見られる不具合、たとえば新たに採用された新機軸の不調などであるとJR東日本が認識しているからではないかと筆者は考える。とはいえ、この点についてJR東日本は何も発表していない。そこで、2025年6月22日現在での筆者の推測を発表しよう。

 JR東日本が保有する新幹線電車の補助電源装置は、E8系が登場するまでは2013(平成25)年に営業を開始した秋田新幹線用のE6系に搭載されたものが最新であった。E8系とE6系との間には2014(平成26)年に営業を始めた北陸新幹線用のE7系があるのだが、この車両は交流2万5000V・50Hzに加えて交流2万5000V・60Hzの区間も走行するため、補助電源装置の仕様が異なる。具体的には主変換装置の冷却装置などを動かすために三相交流440V・60Hzも供給しているのだ。

 E6系またはE7系からE8系までの間に実はもう一つJR東日本は新幹線電車を世に送り出した。E956形新幹線高速試験電車でALFA-Xと呼ばれる。時速360kmでの営業を目指して開発されたテスト用の車両だ。

時速360kmでの営業運転を目指すテスト用の車両として開発されたALFA-X
時速360kmでの営業運転を目指すテスト用の車両として開発されたALFA-X写真:イメージマート

 ALFA-Xにはさまざまな新機軸が搭載され、補助電源装置も例外ではない。長崎悠平・小篭亮太郎・中村将之・森雄生、「東日本旅客鉄道株式会社E956形式新幹線高速試験電車(新幹線専用車)用補助電源装置」、「東洋電機技報」第143号、東洋電機製造、2021年、P10-P11によると次のとおりだ。

「装置単体では、

・フルSiC(筆者注、シリコンカーバイド)パワーデバイスの適用による高周波化と低損失化(営業線を走行する車両として当社初)

・入力整流回路へのPWM(筆者注、パルス幅変調)コンバータの適用による入力力率改善

・中間リンク電圧の安定化による高周波インバータと正弦波インバータの最適化

・リーケージトランスと乾式フィルムコンデンサの適用による小型・軽量化

車両システム全体としては、

・単相交流100V出力の並列同期運転

・列車情報管理装置(S-INTEROS)による状態監視をそれぞれ実現した。」

 これまたJR東日本は何も言っていないのだが、いま引用した新機軸がそっくりE8系の補助電源装置に採用されたと仮定して説明しよう。疑い出せばどれも不具合のもととなるのだが、車両故障を起こしたE8系では補助電源装置は編成中の2基とも故障したと同社が言っていた点が筆者は気になった。となると「車両システム全体としては」の「単相交流100V出力の並列同期運転」の不調であったのではないだろうか。

「単相交流100V出力の並列同期運転」とは、編成中に複数基搭載されている補助電源装置の1基が故障してもそのまま残りの補助電源装置で交流100V・50Hzの供給が続けられるという機能である。さらに言うと、編成全体の電力の使用量が少ないときに補助電源装置の一部を停止させる制御も可能となったという。

 当たり前に思われる機能かもしれないが、E7系までは補助電源装置が故障した場合、故障していない補助電源装置への電力の負荷を減らした後、故障した補助電源装置が受け持っていた補助回路や制御回路に電力を供給していた。補助電源装置の受け持ち範囲は決められていて、通常は他の補助電源装置からの電力が供給されることはないので、電力の使用量が少なくても補助電源装置は停止しない。E7系までの方式は一見不便かもしれないが、確実ではある。

 E8系の補助電源装置にこの機能が採用されていたとしよう。補助電源装置の1基に不具合が生じても、バックアップとしてもう1基が働いてくれないどころか、一気に負荷がかかって一緒に故障してしまった可能性も考えられる。また、負荷が減ったら自動的に補助電源装置が停止してくれるのはよいとして、電力使用量が急に増えて負荷が大きくなった際に再起動が間に合わず、結局故障を引き起こしたとの可能性も捨てきれない。

 以上はあくまでも筆者の推測で、全く違う原因である可能性ももちろん濃厚だ。ともあれ、一日も早く原因が突き止められ、E8系が安定して運転されることを願いたい。

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鉄道ジャーナリスト

ベスト エキスパート受賞

2025

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

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