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1。




石畳。
灯火管制。
泥のような夜の下、圧し掛かる街。


微かな靴音が響く。
何処へ逃げるのか、もうあても無くなった者達の。
荒い息遣い、そして銃声。





時代の幕間に捻くれた闇。
漆黒の衣をはためかせ、
気紛れのように彼は現れる。


「タンゴを踊りに、行かないか?」


それは唯の噂に過ぎないのだけれども。
ほんの一欠けらの、童話のような。
絶望と狂気の夜の底のようなこの時代、
童話すら、血に塗れ。











「次はタンゴ・ノトゥールノ。」


女主人の声が響く。
地下のタンゴ・クラブ。
ざわめきの中、バンドネオンが響き、
つかの間の純血に安住する者たちが、
時代から目を背け、享楽を貪ろうと。
低い熱気の澱んだ中で、作り物の背徳を楽しみながら。
時代の歯車は、ここでは空回りするばかり。






「一人、助けた。」




目配せで奥へと促される。
連れてこられた男は、まだ学生だろう。
おどおどとした眼差しは、怯えがまだ残る。


「控え室へ。」










「侯爵、またお相手をいいかしら。」
「ああ、構わない、世話になってるからな。」
「あちらの、方。
 男爵夫人、って言ってるわ。」


女主人が皮肉に笑う。
このクラブでは、金と血がものをいう。
それさえあれば、あとはなんとでも。
だから俺も口の端を上げ、お相手を。
自称男爵夫人とうさんくさい亡命貴族。
腰を擦りあげるようにして、タンゴのお相手を。




傍らではゆうひが、どこかの夫人の腰に手を回す。
ナチスの高官の所縁に違いない傲慢な眼差しで、
女はいとおしそうに彼を見つめる。





「ゆうひ!そんなおばさんと踊らないで。
 わたしとだけ踊って!!」


金髪のわがままそうな娘が割って入る。
「シーナ。
 こちらの方が先約なんだ。」
「あたしを、捨てるの?」
「捨てるもなにも ・・・・
 君は大事なお客様の一人、それだけだよ。」

やれやれ、売れっ子はつらいな。
ターンしながら目を流すと、苦笑いが返ってくる。

「あたしの父はナチスの親衛隊の幹部よ!
 覚えていらっしゃい!!」
捨て台詞を残し、娘は出ていった。








靄のかかったような、薄明かりの濃密な空間。
ひとしきりタンゴのお相手が終わる。



明るくも陰鬱な軍歌のファンファーレが鳴り響く。
我が物顔の軍服の将校たち、軍服は汚泥に塗れた色だとも気が付きもしない。
時代を支配しているつもりの者どもの、目は眩む。



明るい少年兵に扮装したアトラクション。


瞳を煌かせた少年が踊りでる。


















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