目覚めたのは、昼近くだった。
明け方に叫ぶ声すら枯れたたにをかき抱き、泥のような眠りに落ちた。
追い詰められたようにいだきあうのは何故なのか。
いだきあい目指すものが何処なのか。
俺は何かを待ち続け。
たには何かを追い続ける。
道は確実に交差している筈なのに、なにかの拍子ですれ違ってしまうのかもしれない。
そんな焦燥が、未だに身体に根深く巣食っている。
こんなに穏やかに寝てるじゃないか。
たった今まで、俺の腕の中で。
唇が小さく開き、柔らかな吐息が洩れる。
日差しが呆れるほど似合いやがる。
そんなことに気がつくほど、見つめていたことに気がつく。
想いの箍が外れてしまっているのだろう。
自分の不甲斐無さに、緩く笑う。
まだ目を開くな。
額に軽く口付けて、ネクタイを整え部屋を出る。
「ゆうひ、いるか?」
午後の弱い日を受け、青年が訝し気に振りかえる。
薄い色の髪が日に透け、金に映る。
端整な顔立ちの、人好きのしない青年だと思った。
時折、大人と子供が奇妙に混ざり合った表情でりかを眺めていた。
醒めた瞳の奥に、自らの孤独を必至で隠しているような。
だから、側に置いた。
果てるその時だけ、薄く睫に笑みを浮かべていた。
何処かが自分と重なっていることは、確かに分かっていた。
孤独が求めて止まないものも、本当は知っていた。
けれどもお互い、目をつぶっていた。
「あの件だけどな。」
なんでもない風に言葉を切り出す。
「叩いておきました。仰った通りこっぴどくね。」
ほんの微かな鈍い痛みを分け合いながら、昔のように話し続ける。
「見せしめの写真は撮ってあるか。」
「一応は。」
ゆうひの表情は揺らぐことはなく、それを俺は疑いもしない。
「念の為だ、あっちの組宛てに送りつけとけ。」
形の良い眉が、顰められる。
「送りつける、んですか。」
我ながら嫌な笑みを浮かべ、俺は言う。
「二度とちょっかい出す気にならないような奴を、な。」
りかの車が通りに消えて行く。
蹴り上げられた砂の匂いが、微かに鼻腔を刺す。
どんなに近づいても、その孤独に入りこむことは出来ない。
抱かれれば抱かれるほど、自分もまた孤独になった。
だから、こみ上げる孤独の中微笑むしかなかった。
その闇を照らせる光などあるわけが無いと、信じていた。
信じていたかった。
日差しが、今日は何故か眩しすぎる。
青年は薄く微笑んだ。
スポンジを絞って、皿を必死に磨く。
とにかく出来ることを出来るだけやらなきゃ。
どんなに背伸びしても、今の俺たちの距離は開いたまま。
焦りすぎて転ばないようにするのが、俺にはやっと。
今朝は、俺が起きる前出て行ってしまった。
帰るのはきっと、俺が眠ってしまう頃。
いやと言うほど近くにいるのに、呆れるほどに触れ合っているのに、
それなのにまだ足りない気がする。
世界はなにも変わってないはずなのに、
今までどうやって生きてきたのかすら、分からない。
それほどに魅かれていて。
何を求めているのかさえ、分からない。
だけど側にいたい。
本当は、最初から。
あの、高速で問いかけた日から。
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