茨城のネコでSFTS陽性、関東で初か マダニ媒介感染症リスク拡大
マダニを通じてウイルスに感染する人獣共通感染症の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について今年5月、茨城県内の飼いネコで感染が確認されたことがわかった。ネコは発症後数日で死んだ。関東ではこれまでSFTSがほぼ発生しておらず、ペット感染の確認例は初とみられる。マダニやペットを通じた感染リスクが高まっている可能性がある。
SFTSは発熱や頭痛、嘔吐(おうと)や下痢などが症状で、ヒトの致死率は3割。主に西日本で感染が報告されている。
茨城県や関係者によると、SFTSが確認されたのは1歳のメスネコ。室内で飼われ、ダニの予防薬も投与されていたが、4月下旬、屋外へ一時的に脱走したあと、耳に小さなダニが多数付着していたことから動物病院に連れてこられたという。
ダニを除去した後の5月9日、ネコは40.9度の高熱と食欲低下、嘔吐で再び受診。翌日には黄疸(おうだん)も出た。症状からSFTSを疑った獣医師が同12日に県に連絡し、県がネコの血液成分などを検査したところ、同15日にSFTSウイルスの陽性が判明した。
ネコは隔離用のケージで飼い主宅で看病を受けたが、同12日には死んだという。
県は5月下旬に県獣医師会を通じて、獣医師らに感染対策への注意を呼びかける通知を発出。県内では今回を含めてネコ6例、イヌ2例の検査があったが、ウイルス陽性は初めてだとしている。
飼い主や獣医師の感染は確認されていない。
SFTSのネコを診療した獣医師が朝日新聞の取材に応じました。SFTSが判明したとき何を思ったのか、自身への感染リスクとどう向き合ったのか、経緯を振り返ります。
めったにない40度、もしかして…
今回のケースで診療にあたった獣医師が6月中旬、朝日新聞の取材に応じた。「飼い主や家族、看護師に感染していないか本当に不安だった。SFTSを想定して対策をとることで、同じような不安な思いを誰にもしてほしくない」と訴える。
獣医師によると、茨城県では昨年から、SFTSに注意するよう呼びかけが強まっていた。
そんな中で5月9日、自身が開業する動物病院で2週間前にダニの駆除をしたメスネコが、体調不良で再び連れてこられた。
発熱は、ネコではまず超えることがない40度以上となり、食欲もない。
翌日も来院したネコには、はぐきや目の粘膜に、前の日にはなかった黄疸の症状も出ていた。
SFTSの潜伏期間は最長で2週間ほど。「もしかして」とSFTSを疑った。
この日、飼い主には隔離のためのケージを貸し出し「おしっこなど体液からの感染もあるため、絶対に触れないように」と注意して看病してもらった。
ネコは室内飼いで、避妊手術やダニ防除なども受けた、大切に飼われてきたネコだったという。それでもたまたま脱走した後、耳にダニがたくさんはりついていた。ダニは専用のピンセットでつまみとった。
県の動物指導センターに相談し検体を送ったところ、3日ほどでSFTSウイルスの陽性が判明。「県内ではまだ報告されていないと聞いていたので、まさか、と思った」と振り返る。
ネコは死んでしまったが、今度は飼い主や、診療にあたった自身とスタッフにも感染の可能性がある。
自身も高齢で、発症すれば重篤になるかもしれない。ヒトでも潜伏期間は最大2週間ほどで、近くに暮らす孫との接触や、スポーツクラブに通うこともしばらく控えた。
心残りは、ネコが高熱を出して受診した最初のタイミングでは、SFTSを十分想定できず、感染防御に必要とされる手袋やフェースガードをしなかったことだ。
「ヒトもネコも感染すれば重篤になりうる病気。関東でもいつSFTSになってもおかしくないと考え、ネコやイヌの診療でも、最初から想定した対策が必要だと伝えたい」と話す。
国立健康危機管理研究機構のまとめでは、2013年に国内で初めてSFTSが確認されて以降、ヒトのほかネコやイヌも、感染は西日本が多い。ただ、21年には愛知県や静岡県で、22年は富山県で初めての感染者が出るなど中部地方にも広がる。静岡県内でも23年以降は伊豆地域で感染者が確認されるなど、感染地域は東に広がりつつある。
関東や北日本では、17年に千葉県の70代男性が感染していたことが4年後に判明したケース以外、ヒト、イヌ、ネコとも公的には確認されていない。ただ、シカなど野生動物ではSFTSに感染した痕跡が関東や東北地方でも見つかっている。
SFTSを国内で最初に確認した同機構獣医科学部の前田健部長は、個別の感染ケースについては答えられないとした上で、SFTSについて「リスクの高い出血熱の一種で、これまでになかった新しい感染症が今まさに国内でじわりと広がりつつある」と話す。
広がる原因については、「イノシシなど野生動物の行動で広がってしまうため防ぐことが難しく、一度広がれば定着してしまう厄介な病気だ」と指摘。「関東でもリスクが上がってきている。危機感を持って備える必要がある」と話す。
その上で、「特にネコでは他の病気で類を見ないほど高い致死率となり、有効な治療法も確立されていないつらい病気だ。一気に体調が悪くなるのが特徴だが、SFTS特有というわけでもなく、見分けることも難しい」と話す。
吐血などの体液、排泄(はいせつ)物には大量のウイルスが含まれている可能性がある。
「ネコなら室内飼いにし、体調の悪いときには体液には絶対に直接触らず、ケージも消毒をしてほしい。動物からの感染は決して多くはなく、手袋やマスクなどの対策を取ればリスクをかなり下げられる。それでも高齢者は感染した場合は重篤になる恐れがある。体調の悪いネコの看病を高齢者はしないなど、リスクを踏まえた対応をしてほしい」と呼びかける。
東京都獣医師会は21年、獣医師ら向けの「SFTS疑いネコ診療簡易マニュアル」(https://www.tvma.or.jp/public/2021/03/sfts-2.html)をウェブサイトで公開した。
22年には、病院に感染疑いのネコが来る前に個人防護具(PPE)を着用しておく、といったポイントをまとめた動画(https://www.tvma.or.jp/public/2022/03/post-87.html)もつくって備えてきた。
中川清志副会長は「野生動物でのSFTSの広がりもあり、人の行き来もある中で『東京や関東でいつ確認されてもおかしくない』と考えてきた。SFTSに限らず人獣共通感染症に対しては常に注意深く診療にあたることを再確認していただきたい」と話す。
SFTSをめぐっては5月、三重県内で動物病院を開業している獣医師がSFTSのネコの入院治療にあたった後に亡くなっていたことも判明している。
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- 【視点】
この記事を読んで、過剰反応を起こし、いま飼っている猫の飼育放棄をする人が出てくることを危惧します。猫は、人間が作り出した家畜です。自然動物と異なり、人間の力を借りずに猫が生きていくことは出来ません。公園や河川敷に捨てられた猫のほとんどが、飢え、病気、事故で死んでしまいます。 一旦、猫を飼うと決めた以上、その命に対しては最後まで責任を持つのが人間としての責務です。重症熱性血小板減少症候群(SFTS)もただしい対応をすれば、人間に感染しません。SFTSを正しく恐れることが重要です。 いま猫を飼っている人が飼育を放棄し、不幸な猫が増えないようにしてほしいです。
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