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吉屋かめ乃
あかねの前に、白い手がつと伸ばされる。
「・・・かしげ、おねえさま・・・・」
「あかねさん、ね。
今日はわたくし、淋しそうになさっている方の処へ足が向いてしまうの。
宜しかったら踊りませんこと?」
「ま ・・・あの、でも・・・わたくしなんて・・・」
あかねは隣の薫子を気遣うように、踏み出しかねて佇む。
「あかねさん、ぜひ踊ってらして。
あ 千佳子さんお帰りなさい! よかったわねぇ。」
「薫子さんっ、わたくし、わたくし、なんてお礼を言ったらいいか・・・」
高揚して頬を染めたまま、両の手で顔を覆っている千佳子。
いつのまに、そんなに陽子おねえさまが好きだったのね・・・。
「さぁ、いきましょう。」
「え あ お願い致しますっ・・・」
細い身体をこの腕のなかで
ひとときしなわせたひかるの姿が目前をかすめる。
落ち着いたあかねに似げなく慌てた様子に
かしげは微笑みつ、輪のなかへと進んで行った。
千佳子の戻っていった先を追うと、薫子が居た。
頑なな内心を笑顔につつむだけの余裕は、まだ見られるようね。
それにしても、淳子様、だ。
このまま遣り過ごすお心算?
それとも…決心に時間を要していらっしゃる、というわけ・・・
と、陽子の思考を遮る声がたかくひびく。
「陽子お姉さま、わ、たくしっ・・・・・・」
「・・・はい。」
綺麗な目がすこし身長のある陽子を見返している。
たしか、いつだかの朝礼で転校のご挨拶をしていた子、かしら。
「小川、さららと申します。
あの・・・・・・・此れ、を・・」
硬く目をとじ、俯いてふるえながら花を差し出す。
まったく、奇矯なことね。
薫子を見やると、微笑みは失せているかわりに
なにか冴え渡るような、端然とした面持ちから視線をうけた。
あなたの淳子様は、思いのほか意気地なしだわ。
わたくしがあなたを奪ってしまったら・・・・・・
今は、わたくしの前にある綺麗な瞳を開かせてやらねばならないのだわ…。
さららからマァガレットを受け取ると、
陽子は薫子への視線を引きずりながら輪へと戻る。
あの子の甘美な魂の薫りは、否がおうにもわたくしたちを引き寄せる。
・・・捕える。
「ね、薫子さん、今陽子お姉さまがこちらをご覧になっていたわねぇ。」
千佳子はまだ充分うるんだ瞳で、ぼうっと呟く。
「え ええ、そうねぇ。千佳子さんをご覧だったのね。」
「夢みたいよ、本当、うれしい・・・」
二曲目に向け、オーボエが音を合わせるよう長く響いた。
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