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                        會津ニ十





華やかな旋律が、遥かな南欧の光を紡ぐ。
光をうけてそよぐばらのように、踊りの輪はかろやかに揺れる。
南国の強烈な陽光は、花々のうえをきらめき弾ける。


千佳子の巴旦杏の瞳は、ほんのりと薔薇の色に縁取られ、
とっておきの笑顔を、私などに捧げようとする。


溢れかえるばらの過剰にあまい幻影が、鼻腔をくすぐる。
曲調が色を変え、渦巻くように胸の奥に影がさす。
蒸せかえるばらの香り、眩む光の乱舞。




切ない記憶が、甦る。





あの異国の空の下でさえ、わたくしはこのように微笑むことは出来なかった。
輪舞の中、近づいては擦れちがう麻子の姿を密かに唯、盗み見ることしか。
あれ程までに求めたからこそ、ひたすらに逃げつづけた。
わたくしを縛り続けたあの逡巡を、あの方に見出すことは叶わない。
あの方が飼い続けるあの渇望は、どのような行方を辿るのだろうか



「陽子・・お姉さま、何か・・。」




上の空のわたくしに、不安げに千佳子が囁く。
取り繕うように口の端を上げながら、思いはあの二人に傾いでゆく。
準備が整わないなどということは、あの方に限りあろうはずもない。
あるとするならば、それはあの方の揺さぶられ翻弄された理性を、
堅固な鎧で取り繕うのに思いの外、手間取っているということだわ。
あの子への思いが奔流となり溢れた、あの一時、
跪き口づけながら、人は何処まで飢え渇えることができるのか。


ターンするごとに、それとは気取られぬよう、あの子の姿を目の端に止める。
あどけなさすら残した、あの眼差しの奥に広がる魂は、
何もかもを貪欲なまでに吸収せんと、もがいているのかもしれない。
それは未だ、掴めぬままに混沌としたちいさな塊にすぎないのだろう。
しかし、いつかそれが満たされる時がくるのなら、
あの瞳は、どのような色を帯びるのだろうか。




わたくしはなにを、見極めたいのだろうか。



たちこめるばらの香は、いつしか彼方の記憶に、吸いこまれるよう薄れてゆく。
瞼をつらぬく陽光は、微かな光のかけらとなり、拡散し少女達の眼差しとなる。








「まひるさん、お相手をかわって下さるかしら?」
「あら、最後の葉山ですもの、お独り占めはなしよ。ねえ、蜜子さん」
「まあ、雪乃さま、ああやって踊っていらっしゃるお姿を拝見できただけで、
 わたし、幸せでございますわ。」
「そうですわね、あのようなお姿を拝見できただけで、
 蜜柑子も、しあわせ。・・・・・恵さん、どうなすったの?」
「だって、もう今年が最後かと思うと、切なくなってしまって。」
「だめだめ、お泣きになる暇がおありなら、しっかりご覧にならなくては。」





明るい華やぎの余韻を残し、円舞曲は終わりを告げた。
生徒たちの吹きかえす息が、さざ波のように広がりはじめる。
皆が淡い期待をいだきながら、麗人たちのゆくえを一心に追う。






「ああん、だめだわ。
 熱子さま白薔薇の君と、お話で夢中で・・・」
「すこしでも、こちらをご覧頂けないものかしら。」






「もっと、あなたと踊っていたいのだけれど・・」

「わかっておりますわ。みなさま、お姉さまをお待ちですもの。
 早くどなたかに、お次の夢を見せて差し上げて下さいませ。」
「・・・・まひるちゃん。」
「さあ、わたし、素晴らしいパーティーになりますように、頑張りますわ。」

やはり私が思ったとおりね、気持ちのいいまひる。
悠子先生とはまったく違った思いなのだけれども、
あなたはとても、愛しくて大切な想い出となるのかもしれない。
溌剌と安蘭のもとへ戻るまひるの後姿を、好もしく送り出す。





夏希はなにやら彩乃に足の捌きを教えはじめ、離れる気配すらない。
眺める少女たちの何人かが、ちいさく肩を落とす。






「まあ、あなた方も楽しんでいらして?」
マントを翻しながら、にぎやかな一群にぶんが微笑みかけた。
「ええと、生徒会誌の編集をお手伝いして下さっていらっしゃるみなさまね。」
「と・・とんでも御座いません。」
「いつも楽しく、拝見させて頂いておりますのよ。」
「そんな・・・・・光栄で御座います。」

思いもかけないぶんの言葉に、少女達の言葉が詰まる。
マァガレットの陰で、囁きあうように眼差しをかわしあう。
そのうちの一人が、意を決したように口を開いた。
「・・・・・あの、とても、あつかましいお願いなのですけれど。
 こちらの苺子さんのお花を、受けとっていただけませんかっ!」 
「い、いいのよ、翠さん。」
「わたしたち、ずっとぶんお姉さまをお慕い申し上げておりましたの。
 それで、最後ですので・・・どなたか代表で、と。」
「まあ、それは光栄だわ。」
「だから、みなさん公平に籤で決めましたの。
 それで、こちらの苺子さんに・・・。」

薄桃色のマァガレットが、切なそうに胸でふるえている。
かわいらしいこと・・・・
あでやかな微笑で花を受けとり、芝居がかったふうにひざまづく。
少女の頬がマントをうつしたように、あかく染まる。


「では、苺子さん、お相手をお願いできまして?」



夢見心地の少女をマントで包むようにして、再び中央へと歩をすすめる。









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