18-6 夕飯は三品
勇者レオナルドのステータスです。
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“●レベル:102”
“ステータス詳細
●力:502 守:485 速:98
●魔:202/202
●運:104”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●勇者固有スキル『全・良成長』
●勇者固有スキル『強い者いじめ』
●勇者固有スキル『強靭なる肉体』
●勇者固有スキル『蛮勇』
●勇者固有スキル『第六感』
●実績達成ボーナススキル『自然治癒力上昇(強)』
●実績達成ボーナススキル『色を好む』”
“職業詳細
●勇者(Sランク)”
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結局、何事もなく、だが土産も手に持たず、俺は賃貸マンションに帰宅を果たした。
昨日よりもやや早めの時間帯であったが、ドアを開けると、当たり前のように楠桂が夕飯を作っていた。違和感なく調理をしている長身女性の割烹着姿に違和感を覚える。
「お帰りなさいませ、御影様」
「ただいまです、桂さん」
調理を中断し、羽織っていた黒いコートを預かってくれる桂の甲斐甲斐しさには涙が滲む。そういえば、合鍵渡した覚えないけど、どうやって毎回入室しているのだろうか。
「今日のお勤めはどうでしたか?」
「大学には行かなかったが、その代わりにロバを一匹、山で確保した」
「ロバ、ですか??」
「メスのな。確かリリームとかいう名前で、今頃は井戸を探している頃だと思うな」
詳しくは夕飯を食べながらにしようと提案し、靴を脱いだ。
本日の献立は焼き鮭ときんぴらごぼう、わかめの味噌汁だ。
油分ばかりが多い近年の食事内容に真っ向勝負する、温かな三品である。桂お手製なので美味しいのは確かであるが、どちらかと言えば家庭的で安心する品目である。
そして何より、早炊きモードで炊かれていない白米がとても美味い。どうやったら定価五千円で適当に買った炊飯器で艶のある白い米を炊けるのだろう。
「桂さんは勇者レオナルドのスキルをご存知ですか?」
「はい、存じておりますわ。異世界では、勇者本人が公言して回っているらしく、簡単に手に入る情報です。かなり確度の高い情報が一般レベルで噂されております」
まず、お碗に盛っている白米をそのまま食べる。
次に、鮭を一口大に切り分けてから、米と一緒に食べてみる。握り飯の定番コンビは常勝無敗。グリルで余分な油を落としているためベタ付かず、しかしながら噛めば溢れる魚の香ばしい油が米をコーティングして、喉の通りを良くしてくれる。
「勇者職のスキルは『全・良成長』『強い者いじめ』『強靭なる肉体』『蛮勇』、それと『第六感』ですわ」
「Dランクから数えて五つすべて触れ回っているなんて、あの勇者は何を考えているのか」
「自尊心と低脳が成せる愚行ですわね。ですが、スキルの内容を知っていても対処の難しいものがあります」
鮭ばかり食べていては勿体ない。そろそろ、きんぴらごぼうに箸を向けてみよう。
「『全・良成長』『強い者いじめ』『強靭なる肉体』『蛮勇』については、効果や条件は違えどすべてパラメーターを底上げするスキルです。それ単体で強敵を圧倒できる程の異常性はありませんわ」
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“『全・良成長』、勇者となる者に約束された成長の証たるスキル。
レベルアップ時に各パラメーター値の上昇数値がアップし、最低でも1は必ずアップする”
“実績達成条件。
勇者職をDランクとする”
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“『強い者いじめ』、強者に対する強みを発揮するスキル。
スキル所持者よりもレベルが高い敵と対峙した際、『力』『守』『速』が一割上昇する”
“実績達成条件。
勇者職をCランクまで高める”
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“『強靭なる肉体』、打たれ強さが異常になるスキル。
痛覚の許容値が上がり、ステータス異常に対する耐久性能、復帰能力も上昇する。
スキル所持者が認識している攻撃を被弾した瞬間、『守』が五割増の補正を受ける”
“実績達成条件。
勇者職をBランクに到達させる”
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“『蛮勇』、野蛮な程に強くなれるスキル。
本能と理性がシンクロしている場合、シンクロしている割合分、『力』が上昇補正される。
周囲を省みなくなる事で、肉体に眠る力を呼び覚ます。”
“実績達成条件。
勇者職をAランクまで修める”
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このきんぴらは良いきんぴらだ。ピリリと唐辛子の辛味が効いているが、舌を刺激し過ぎて食事を中断させる程ではない。むしろ、適度な辛味がより一層の食欲を胃にもたらせてくれる。
ただし、唐辛子は所詮、味。
主役は噛んで食べているぞ、という実感が確実に沸くごぼうである。木の根っこにしか見えない食材であるが、噛む程に倍化していく独特の旨味は深い。
噛む回数が増えるため、少ない量であっても満腹感が得られるという利点なんて忘れて、ただ噛んで味を確かめてしまえば良い。
「普通に強い、というのが勇者の強みですか」
「特異な性質は対策を立てられると脆いですから。スキルの豊富さよりもパラメーターの高さが生存率に直結している、と異世界では言われております」
「毎回スキル頼りの命綱戦法よりも、銃弾が貫通しない程の『守』の方が重宝されていると」
「もちろん、例外はございます。たった一つのスキルの異常性が、パラメーターを霞ませる。魔族はその傾向が強いのですが、勇者の場合はパラメーターとスキル、両方が揃っているので強者として振舞っていられます」
そろそろ顎を休ませてやろうと、きんぴらごぼうを下げる。
寒い時期こそありがたい、鼻腔をくすぐる湯気が立ち上る味噌汁をいただく事にしよう。
「勇者は『第六感』スキルに守られた存在です。スキル効果によって、奇襲や狙撃といった隙を突く戦法は意味をなさなくなりますわ」
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“『第六感』、勝利へのあくなき探求スキル。
理論的にではなく、感覚的に身に訪れる危険を察知可能なスキル。
スキル所持者の意識に関係なく、体が自動的に最善の行動を取る事が可能。
直接的な回避に繋がる行動もスキルの効果内であるが、危機に陥らないように未来予測的な行動を取るのもスキルの効果に含まれる。
敵の戦術、戦略的な行動も、なんとなくという認識で挫く事が可能である”
“実績達成条件。
勇者職をSランクまで極める”
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「『第六感』は詳細が分かっていても対策が困難です。過去に一度、魔法の飽和攻撃による勇者暗殺が計画された事があったのですが、どうなったと思いますか?」
「……計画の実行直前に、誰が漏らした訳でもないのに勇者に気付かれて先手を打たれた」
「その通りですわ。『第六感』は戦闘の直接補助だけなく、命の危機に対する予測行動を勇者に促します」
味噌汁。これ程多様性に富んだスープを俺は知らない。
具材はわかめ、油揚げ、豆腐といったものが代表的だが、アサリ、卵、大根、人参、玉ねぎ、なめこ、えのき、麩、と家庭ごとに様々なレパートリーが存在する。個人的には油揚げとえのきのコンビを押したいところであるが、今晩のように基本とも呼べるわかめも実に良い。
おわんの上層と下層の温度差によって生み出される味噌の海流が、地球に満ち溢れる生命の本流にさえ見えてくる。
一口啜ってみよ。味噌の風味とわかめの柔らかい歯ごたえが、次の一口を早く早くと味覚をくすぐってくる。
「こうして桂さんから話を聞いて計画を立てても、計画外の行動を取られてしまう。難しいですね」
「御影様は勇者を倒すおつもりでして?」
「そのつもりですが。……『第六感』スキルで危険だと察知されていも、なお動きを制限してやる事は可能だと思います? たとえば、人質を使って――」