16-7 三つ巴の戦場
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“『一発逆転』、どん底状態からでも、『運』さえ正常機能すれば立ち直れるスキル。
極限状態になればなるほど『運』が倍化していく”
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“●レベル:22 + 20”
“ステータス詳細
●力:34 守:11 速:66
●魔:0/0
●運:10 + 100”
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だが、このタイミングでの駄目押しの矢は、俺にとって恵みの矢となる。
なにせ、残り一発となったSIGの弾を消費せずに済むからだ。
矢の直線上に手の平をかざして、矢じりが皮膚に突き刺さる瞬間にスキルを発動させる。
「『暗器』格納ッ!」
飛んできた矢を隠し持って、今度は手の平を勇者に向け直す。
「『暗器』解放ッ!」
手の平から加速度を保ったまま放たれる矢。
『暗器』スキルの能力を知らなければ対処できないし、知っていたとしても向かい合う距離では近過ぎて対処できない。
勇者レオナルドは、今度こそ本人の意思に反してダメージを負った。
矢は鎧の一部を砕いて、胸と肩の中間あたりに突き刺さる。鎧を貫通した矢の先は肉体に届いているらしく、勇者レオナルドは一歩後ろによろけて己の被害に困惑していた。
見た目のダメージ量から推察するに、どうやら、矢の破壊力はハンドガンの弾を上回っているようだ。顎を直接射抜いた鉛弾よりも、遠距離から放たれた矢の方が勝っているなど信じたくはないが、事実は否定しない。
……あれ、そうなると俺の背中の傷は思っているより、も、甚大――。
「矢が一瞬消えた後、突然出てきたな。アサシンのスキルか?」
己の肉体に刺さっている矢に触れながら、勇者レオナルドは俺を足蹴にして地面を転がせる。思い出したように背中からドバドバと血液を噴出していた俺には、蹴りを避けている余裕はなかった。
「遊びが過ぎた分、それなりに面白い事が起きたな。勇者の俺を傷付けた人間は久しぶりだったぜ!」
勇者レオナルドは、とりあえず倒れた俺の頭を踏みつけて、大剣の先を脚に突き刺して抉る。鎧が壊された腹いせで、上下に動かして痛覚を刺激してくる。
「アが、カぁ?! や、めろ、この、勇者」
背中だけでも奥歯が震える程に痛いのだから止めて欲しい。
「――勇者、トドメは私にやらせろっ」
出血が進んで死に掛けているからだろうか。死体に群がるハエの如く、新手の敵が跳んできて、倒れる俺を覗き込んでくる。
首を動かすのも億劫で、眼球だけを動かしてそいつの姿を確認する。
「森の民の弓が人間族にいなされる屈辱、耐え難い」
耳の長さが特徴の異国の女だった。緑系統のワンピースが良く似合う。
顔は呪いのように美しいため、痛みに震えている状況でなければ見惚れていたかもしれないな。
「死ね、アサシン風情」
森の奥地に生息していそうな美人種族的なコスプレと言い、手に持つ弓と言い、女が勇者の仲間であるのは間違いない。この綺麗なロバ耳女が。
「待て、リリーム。余計な手出しをしてくれたな。この矢を見ろよ」
「お前が遊んでいるから、手を出したまでだ。殺せる相手を踏みつけているぐらいなら、私に譲れ」
引き絞った矢を、俺の脳天に向けてくるロバ耳女。
勇者レオナルドはロバ耳女の手を握って、俺の殺害を邪魔する。
「人間族が、触れてくるな!」
「死に掛け一人とはいえ、くれてやる義理はないな。リリームこそ邪魔だからどけよ」
見てくれだけはイケている二人に取り合われる俺。背中と足の出血が酷くなくとも死にたくなる。取り合われるなら魔法少女二人の方が楽しい。
全力を出せたかは分からないが、スキルを多用したのに敗北した。傷は深く、自力で立ち上がるのは不可能だ。
頼りは愛する魔法少女達である。
だが、未だに敵の僧侶を突破できてはいないようだ。助けに来ているのなら、今頃は勇者とロバ耳女は燃やし尽くされているだろう。
他に当ては……無くなはないのだが、いくら姉のように頼れそうな人だからと言って、敵な人を頼るのはどうなのだろうか。
「――――面白そうじゃのう。この老体も混ぜてはくれんか?」
聞いた事のない、枯れた老人の声がレオナルドの背後に届けられる。
瀕死の俺が老人の登場を察知できないのは当然だが、勇者とロバ耳女も気付いていなかったらしい。
俺に刺していた大剣を引き抜いて、レオナルドは焦りながら振り返る。
「ッ! オーリン、何しに現れやがった」
「それはこっちの台詞じゃな。猛々しい勇者殿が、異世界くんだりまでご足労とはのう」
土手の上に倒れたまま、薄雲の多い冬の空を見上げている俺には老人の姿が見えていない。様子から察するに、勇者にとって面白くない人物らしい。
「そこのアサシンは主様の敵じゃ。勝手に奪うではない」
老人は俺にとっても面白い人物ではなさそうだが。主様という単語を口にするからには、また新しい幹部級の登場か。
「まったく、異世界は禁忌じゃろうて。数代前の勇者はここで行方不明になったのだろう?」
「俺には関係ないな。討伐不能王がこそこそとレベリングしているのが気にいらねぇから、邪魔をする。禁忌の土地でというなら、なおさらだ」
「勇者殿は無駄な事をしておる。此度の遠征は、そこの死に掛けの活躍で半ば失敗しておるぞ」
どういう事だ、と老人に対して勇者レオナルドは問いかける。
「そこのアサシンの手で、若造と畜生が葬られたというのも知らんのか?」
ギョッと目を見開きながらレオナルドとロバ耳女は俺を見下ろしてきた。
話を聞く限り、勇者と主様は対立関係にあるようだった。
つまり、この場には魔法少女プラス俺、勇者パーティー、天竜川黒幕の三勢力が出揃った事になる。平日の午前中から酷いオールスターが揃ったものだ。
「そうは……見えねぇな、こいつ」
マスクで顔を隠しているからな。見えなくて当然だが、節穴め。
「さてのう。この老体としてはどう動くべきか……。勇者が主様の敵であるのは疑いようがなく、そのアサシンも敵である。敵同士が潰しあうのを傍観しておくのが、もっともらしい手じゃ――」
老人の声は好々爺のそれのように柔らかく、違和感なく耳の奥まで入り込んでくる。若人に優しく道を示してくれそうな萎れた声には、奇妙な安堵感が存在する。
だが、この声を信じてはならない。
当然とも思える策を最初に明かしてしまったのは、既に別の策を実行しているからだと予想できてしまうからである。
「――じゃが、レベリング相手を魔法使いに固執する必要はなかろうて。もっと、美味なる贄が手負いでいるのじゃ。遠慮なく狩らせてもらおうか――――のう、ゲッケイ」
「――失楽、不覚、泥酔、寒月夜、酒に酔う猫は水瓶で溺死するだろう――ムーン・エンド」
老人の声に呼応して、女性の声が呪文を唱える。
詠唱完了と共に、勇者の頭上を飛び越えて、ドレスの裾をなびかせながら見知った顔の女性が降りて来てくれた。
どうしてこの人は、敵なのに毎回俺の窮地を救ってくれるのだろう。
「御影さんッ、こんなにも傷付いて! 来るのが遅れて申し訳ありませんわ」
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“●レベル:92”
“ステータス詳細
●力:25 守:41 速:45
●魔:270/320
●運:1”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●魔法使い固有スキル『五節呪文』
●実績達成ボーナススキル『幻惑魔法皆伝』
●実績達成ボーナススキル『不老(強制)』
●実績達成ボーナススキル『死者の手の乗る天秤』
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』(非表示)”
“職業詳細
●魔法使い(Sランク)”
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ようやく、桂のステータスを書けました。
桂もとうとう天竜川の戦いに正式参戦です。