16-6 新スキルと一撃
「御影ッ!」
「――殴殺、断罪、天誅光。余所見をするぐらいなら、私の聖なる魔法に潰されて潰えなさい」
俺の不利を目撃した皐月が援護に回ろうとするが、長髪の僧侶タークスの魔法が天空より落下してきて皐月の行動を封じた。自由落下してきた電柱大の光の柱が衝突し、土手に直径五メートルのクレーターが生じている。
やはり僧侶タークスは魔法を使えるようだ。不安はあるが、向こうは三人魔法少女がいるので健闘を祈るしかない。
俺は俺で、勇者レオナルドの相手で余裕がない。
「仮面を付けたアサシンが、どう勇者と戦ってくれるんだッ」
勇者レオナルドは構え直した大剣を片手一本で振り上げると、見た目以上に長い間合いで斬り付けてくる。
ボス戦を何度か経験しているとは言え、武芸者とまともに対戦するなんてナンセンスだ。気持ち多めに後退しつつ、嫌がらせついでの駆け引きをしかけ、銃口を勇者レオナルドに向けてやる。
本当は撃ってやりたいが残弾はたったの二発。無駄撃ちはできない。
「ハッ、はったりかよ!」
何故か、勇者レオナルドは銃を恐れずに突進してきた。
全身鎧と『守』に自信があるだけにしては台詞が奇妙だ。俺がSIGで攻撃しないと看破した、と言っているような。
完全に隙を突いたはずの初弾を防いだ事といい、勇者の直感が優れているだけだろうか。
勇者レオナルドの大振りを嫌い、土手の斜面へと逃れる。
「アサシンは『速』重視か。それなりだが、勇者の俺よりは遅――」
「良く動く口だ。閉じてやろう」
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“●レベル:22 + 20”
“ステータス詳細
●力:34 守:11 速:66
●魔:0/0
●運:10 + 10”
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“『ハーレむ』、野望(色)を達成した者を称えるスキル。
相思相愛の関係にいる者が視認可能範囲にいる場合、一時的に「対象の人数 × 10」分レベルが上乗せ補正される”
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レベルを倍化させた俺は、時速三百キロの疾風となって勇者の懐に飛び込んだ。
俺の最高速度を見誤っていたレオナルドは口を閉ざしてしまう。銃口で下あごを無理やり押し上げたのが主要因だろうが。
相手が人間だろうと、俺は迷わず引き金を引く。機会を逡巡で失うつもりはなかった。
反動と火薬の炸裂音がSIGを握る手を襲う。
硝煙の向こう側では、動脈から咲き乱れる紅いザクロの花が……ない。
「……お前、生意気だな?」
ゼロ距離で銃撃したはずなのに、勇者レオナルドはアッパーカットをくらった程度の衝撃に顔を歪ませているだけだった。銃弾で死なないぐらいの非常識を許してやるから、せめて失神して欲しい。
「リリームよりは早いかもしれねえが、俺の半分強が限界だろう。目は慣れていなかったが、避けられない程じゃなかったぜ」
レオナルドにSIGのバレル握り締められる。
そのまま折られそうになったため、慌てて『暗器』でSIGを回収してから構え直す。勇者の皮膚すら貫通できない――しかも残弾もたった一発――、実に頼りにできない武器であるが、壊されるのもシャクだった。
「お前の武器の威力を確かめるため、ワザとくらってやった。が、どうやら俺の『守』の方がかなり勝っているらしい。内出血すら起さない威力で暗殺者を語るのは、酷い名前負けじゃねえか」
不味い。
酷く不味い。
ポッと出の『ハーレむ』スキルなんかを頼りにしたのが間違いだった。パラメーター不明の勇者を倒すのなら、スキルを過信する前に、もう少し情報を得てから動くべきだったのだ。
大剣を上段に構えて、俺を真っ二つにする気満々の勇者レオナルド。冗談ではないが、状況を打破できるだけの策がない。
そんな無力な俺は無防備過ぎたのだろう。前方の勇者レオナルドが強大だからと、後ろが疎かになっていたのは確かである。
だから、俺の背中に鋭い風切りが突き刺さる。
「……エルフの矢、リリームか。全部俺に任せておいても良かっただろうに」
背骨のやや左側。俺の意思に反して筋肉が緊張し、硬直する。
振り返ったところで己の背中が見えるはずもない。が、振り返った先に矢の第二射が迫っていたので、遠くに潜んでいた何者かに弓矢で狙撃されたのだと理解できた。
背中に生える矢は、俺以外の人間全員に見えているだろう。遠くで皐月が叫ぼうとしていて、僧侶タークスに邪魔されているらしき気配がある。
事実を把握した事で、矢の刺さる速度に遅れていた痛覚も激しい警報を発し始める。
アサシンが不意打ちをくらうなど、本当に情けない。