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16-3 あの子の名前は

 週の次鋒にして、実は三男な火曜日。

 セーフハウスの住民は食事の際、全員が一つのテーブルに並ぶのが通例だ。

 俺の右隣は皐月、という以外に明確なルールは存在しない。なので、俺の左隣を浅子が固有の領土と主張しても問題ではなかったし、俺の真正面を落花生が陣取ってもイザコザは発生しない。


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“ステータスが更新されました(未確認)”

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 浅子はこれまで皐月の隣に座る事が多かった。それが今朝から俺の隣に来ている理由は語るまでもないだろう。

 落花生の方については、情報が不足しているので分からない。ただ、落花生は自ら席を選んだというのに、俺のマスクを直視できずに横目でチラチラ盗み見しているのが奇妙だ。暖房の効きが悪い所為か、頬がピンクに着色されているのもやや気になる。


「御影―。はい、醤油」

「塩コショウこそ至高」


 俺が焼いた目玉焼きの調味料をめぐって、右からは醤油、左からは塩コショウが手渡されてくる。

 どちらの味もいける口ではあるが、両手の調味料を同時に使う訳にはいかないだろう。塩分が濃過ぎる。

 とりあえず醤油を皿に数滴落として、一口分に切り分けた白身をつけて食う。続いて塩コショウを二、三度振ってからまた白身を食う。優柔不断な食し方だが、左右の少女達の評価は悪くはなさそうだ。


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“ステータスが更新されました(未確認)”

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 ただ、正面の少女だけは妙に不満げだ。


「……どうした、落花生?」


 ケチャップ派閥の女、落花生の露骨な視線を無視できなくなったので声を掛けてやる。


「落花生違うです。氷の人だって本名で言っているのに、私だけ除け者にするなです」

「ピーナッ子。私は氷の人じゃない」


 魔法少女達は花の名前をコードネームにして活動している。

 皐月は偶然、本名が花だったため偽名を使っていないようであるが、浅子はアジサイと名乗っている。落花生も浅子と同様に、本名ではないだろうとは思っていた。

 だが、名前について今更聞いてしまうのも躊躇ためらわれていたのだ。本人から提案してくれるのはありがたい。


「落花生……いや、これからは本名、ピーナッ子と呼ぼう」

「誰がピーナッ子ですか! 違うですッ」

「なら名前を教えてくれ。今度からは名前で呼ぶ」


 出会ってから数日、そう言えば、俺と落花生は自己紹介が済んでいなかった。


「……来夏らいか。鈴山来夏です」

「君の印象にぴったりの名前だ、来夏」

「へぇー、私は名前について何か言われた事がないのだけど?」

「私は浅子っていつの間にか呼ばれていた」


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“ステータスが更新されました(未確認)”

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 ステレオサウンドな食卓だ。落花……違う。ピーナッ……違う。来夏は三対一で並んでいる。面接の如き圧迫を感じていないのだろうか。


「来夏、俺の事は御影で良いからな」

「私だけ名乗っておいて、本名を教えろですっ! マスク!」


 俺に食いつく前に、まず目の前の目玉焼きを食せとうながして、名前についての話題をどうにか有耶無耶うやむやにした。


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“ステータスが更新されました(未確認)”

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 それにしても、さっきから網膜の上あたりの文字がわずらわしい。

 面白くない内容と想像できるため無視し続けていたのに、タイムアウト機能がないようだ。更新メッセージが消えてくれない。

 俺は食卓を囲む少女達にばれない様にステータスを確認する。


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“ステータスが更新されました

 ステータス更新詳細

 ●実績達成ボーナススキル『ハーレむ』を取得しました”

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 まぶたを直ぐに閉じて、食事を優先する。

 ハーレムって、やっぱりかよ。

 む?




 本日も勤勉に大学へと向かう。

 火曜日に行われる期末テストは三つだけで、午後に集中している。朝から出向く必要はないのだが、セーフハウスに一人でいる事に奇妙な寂しさを覚えたので仕方がない。

 朝食を片付けて、戸締りを確認し、ドアの鍵を閉める。鍵を閉めた事を数度繰り返してしまうのは、一人暮らしが始まってからの癖だ。

 エレベーターを使わずに階段で下りて一階へ。

 俺の携帯電話が鳴り響いたのは、マンションから出た途中だった。



『――御影! 助けてですッ』



 着信は来夏からだった。

 つい十分前に学校へと送り出したはずの来夏からのSOSに、弛緩しかんしていた脳のシワが縮こまる。

 とうとう天竜川の黒幕は、太陽の有無に関係なく魔法少女を襲い始めたのだろうか。


「またモンスターが現れたのか!?」

『違うです! 変な男――、大きな剣、斬り――って!』


 電話越しの向こう側では燃えるような爆発が連続しており、来夏の声を聞き取り辛い。が、それはつまり、魔法攻撃を行わなければならないぐらいのピンチであると理解できる。


「通学路で襲われたのか? すぐに行く!」


 通話は継続させていたかったが、来夏が切ってしまった。

 魔法少女達の学園までのルートを思い浮かべて、電話してきた時間から当たりを付ける。おそらく、天竜川の傍で彼女達は襲撃されている。バイクで向かえば五分以内に到着できるか。

 マンションの裏に走って、カバーを掛けていた黒バイを引っ張り出す。


「スキュラを倒して三日と経過していないのにさ。油断していたとは思いたくないな」


 武器の算段が付いていなかったため、現在の俺の兵装はSIGのみ。弾数も心許ないが、足をすくませている余裕はない。

 マスクを付けてからヘルメットを装着する。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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