16-1 属性持ちの少女
なろう運営「作者、あなたは健全ですか?」
作者「はい、健全です」
なろう運営「健全は義務です」
……なんのことか分からないと思いますが、察してください。
時計を見る限り、現時刻は午前三時半前。
太陽もまだ沈んでいる朝――というよりも二十七時と表現が似合う夜――に、俺はセーフハウスに帰ってきた。この時間は朝帰りと呼べるのだろうか。
大学に行ってから、そのまま外で遊び続けていた訳ではない。夕方に一度帰宅して魔法少女達と夕食を楽しんだ後、深夜になってから街の巡回に出掛けたのだ。
今夜の巡回は遠出だった。レベルアップを繰り返してスタミナは増しているはずなのに、流石に疲れている。
特に天竜川の黒幕の情報を一切入手できない空振りでは、疲労ばかりが際立つ。徒労感に溺れてしまいそうだ。
このままリビングで寝てしまいたかったが、朝になって同居人に臭いと罵られたくはない。摂氏十度未満の外気温でも、歩けば汗をかいてしまうものである。
重い足取りでノロノロと風呂場に赴く。
そう言えば、魔法少女達は各々違うメーカーのシャンプーを使っている。リンスとコンディショナーの違いが分からない男には定かではないが、頭痛薬だと考えれば理解できなくはない。同じ頭痛薬というカテゴリーだとしても、ブランドごとに効く効かないという差は現れる。髪の薬だって同じだろう。
ちなみに、浅子は俺と同じシャンプーだ。ドラッグストアで千円未満。
浅子いわく、レベルアップしているから洗剤に気を使う必要はないとか。金は趣味に使うべきとか。
何で同じものを使っているのに、異性が使うと良い匂いがするのだろうか。
「御影は匂いフェチ?」
浴室では、その浅子が俺を待ち構えていた。
魔法少女の中では一番背が低く、髪も首筋あたりまで。皐月と見間違えるはずはない。
……はて、どうして風呂場なんて局所で俺を待っているのだ。
「当たりをつけた」
「俺の帰宅を察知したのなら、せめて玄関で待っていてくれ」
風呂場でシャワーを浴びるつもりだった俺は裸――マスクを除く――である。
一方の浅子も、当然のように裸体を晒している。前を一切隠していないので、そこそこ狭い浴室で直面している俺に全部見えてしまっている。ほとんど無い胸だから恥ずかしくない、なんて理論は地球上にあっただろうか。
見ている俺の方が恥ずかしさに耐え切れなくなった。とりあえず、床に置いてあった定価百円の桶で身なりを整える。
「浅子、冗談ならこれぐらいにしてくれっ」
「御影は冗談で女の前で裸になる変態?」
つまり、浅子は本気と言いたいらしい。
「御影の所為で私は姉さんと離れ離れになった時、代わりに頼って良いと言った。だから、御影は姉さんと同じぐらいに慕うと心に誓った」
浅子よ。実の姉と同じくらいに俺を思ってくれるのは素直に喜ばしいが、場所を考えてくれないだろうか。
「――兄さん。皐月ばかりズルい」
思わず、理性の最終防壁たる桶を手放してしまいそうだった。
てっきり、俺は浅子の事を氷属性の魔法少女とばかり思っていたのだが、認識が不足していたらしい。この娘、妹属性も実装済みだったのか。
不意打ちに柔和な顔をされてしまうと、妹属性の抵抗値がない俺には致命的だ。湯気で解像度が下がっていなければ一発KOだったに違いない。
俺は皐月という彼女がありながら、別の年下の少女に迫られている。桶を捨てて逃げるのが最善なのだろうが、今は桶を手放せない。
「兄さん。私と同人誌みたいな事をするべきだと思う」
「兄さんと呼ぶな。背徳的な気分になってしまうだろうが!」
「私をどうとも思っていないのなら桶を手放せるはず。それができないなんて、逆説的に妹の私に興奮している証拠」
違う。俺の股間は今、シュレディンガーの桶に守られており、興奮しているかどうかなんて分からない。
命の危機という意味では興奮しているかもしれないが。この状況を皐月に知られたならば、浴室は灼熱地獄と化す。早々に逃れるべきだと判断した俺は、後ろ歩きに後退。扉に手を掛けて逃走を試みる。
対する浅子は必死に俺の腰に細い腕を回して、しっかりとホールドしてくる。
や、止めるんだ。桶に頬擦りする格好になるんじゃない。
「浅子っ。それ以上はいけない! 本当に不味いんだってっ! 皐月がぁッ」
「皐月が一番でも気にしないから、問題ない」
このマンションの事をセーフハウスと呼称しているが、まったくセーフなんかじゃない。俺にとってはエイリアンが潜む宇宙船と同じくらいにクローズドな危険地帯だ。襲われるのはいつも俺。良い目にあっているから、意識的に規制できないのが辛いところである。
「浅子が良くても、皐月が許さないだろっ! 頼むから放してくれ!」
「……皐月が許さないだけ? つまり、兄さんとしては、妹と妹の友達と関係を持っても問題ない。こう判断した」
抗議したくて仕方がないのに、根本的には浅子の言葉に間違いはないので何も言い返せない。
俺がただの獣だったら、今頃はもう浅子と子孫繁栄している。
飼い主にだけ懐いてくる猫のような少女を、可愛いと思わないはずがない。
「了解した。皐月に許可を取ってくる」
浅子はあっさりと俺の拘束を解いてしまう。
そのまま風呂場から脱衣所に移動していき、廊下の向こう側にいなくなる。裸のまま。
「――いやいやっ! 皐月に聞くのは自首と同じだろ!」
浅子を追いかけたいが、裸の俺が追いかけても逆効果にしかならない。
このまま放置しても事態は好転しない。どうやら俺の人生は、認知していない義妹の先走りによって詰んでしまったらしい。
今更ジタバタするのは見苦しい。
どうせ死ぬので、死ぬ前に身を清めておこうと思い直して俺は浴室の扉を閉めた。