Ikegamiが語らなかったこと
折り図化という難題
Ikegamiはこれまで、基本的には展開図全体と、その構成部品及び組み立て方のみを公開して無限折り可能である(再帰性がある)ことの証明としている。これらの情報は証明として必要最低限の事柄を満足しており不足は無い。ただし、第三者が作品を再現しようとするときの労力は大変大きい。
Morisueは以前の筆者の投稿にコメントを寄せ「折り手順で解(再帰性)を示すことが最終目標」であると述べた。つまり折り図化である。確かにこれは作品の再現を容易にするため、ひいてはこの分野の研究活動を活発にするためには必須だろう。
ただし、現実的には折り図化がどこまで可能なのだろうか。初めて創作された(ゆえにもっとも単純な)フラクタル折り紙であるフラクタルピラミッドは、折り図化に20年弱の時を要した。
(折り図)
これ以外の作品は当然それ以上に複雑であるため、並大抵のことでは折り図化できないはずだ。
例えば、フラクタルピラミッドの折り図は繰り返し3回までで基本的に必要な折り工程を網羅しているが、コッホの雪は展開図の組み立て方を見るに少なくとも繰り返し5回までの図示が必要ではないだろうか。
コッホの雪の折り図化に果たしてどれだけの年月がかかるのか。筆者には全く予想がつかない。
以下に折り図化に値すると思われるIkegami、およびKinboteのフラクタル関連作品を上げておく。
1.二分木ピラミッド(任意の枝分かれが可能な修正版が望ましい)
2.コッホ曲線を折り線として含む平坦折り可能な展開図
3.木曲線(コッホの雪と比べて折り工程が多彩で面白いものとなるはず)
4.コッホの雪
上記作品の展開図は以下2つのページからPDFで入手できる。
2と3の構成部品及び組み立て方はそれぞれ4OSME、6OSMEの論文集に掲載されている。
学術研究への接続
Ikegamiの発表した研究成果は、(OSME論文も含めて)どれも創作結果報告としか言えないものである。他の一般的数学者・工学者がそれらを参照して発展的な研究ができるような、学術的に明確に記述されたものではない。読者自身が非常に能力の高い折り手でなければ読み解けない報告となっている。これもフラクタル折り紙の研究・発展を妨げている要因の一つと考えていいだろう。
フラクタル折りに限らず無限折り一般を数学的に記述して学術研究の俎上に載せることが必要なのだ。これは、Ikegami以外の誰がやってもおかしくないはずなのだが、手を付けている研究者を筆者は寡聞にして知らない。Kinboteは今後論文を公開すると発言していたが、その後の動きは無い。
(無限折り作品の再帰性を判定するシミュレーターなど既にどこかに存在しているのだろうか。)
本稿の執筆に当たって少し調べてみたところ、一人の若い研究者を見つけた。
Malcolm Smith:
彼はテセレーションの分野でフラクタルを研究しているらしい。作品のハウスドルフ次元まで示しているのは珍しいことだ。テセレーション折り紙は学術的に研究されている分野でもあるから、ここを起点にフラクタル折り紙が数学的に記述され始める可能性も十分あるだろう。
少し気になるのは、彼が8OSMEで発表した内容がフラクタル関連ではないことである。フラクタル折り紙を学術的に追及するつもりなのか、単なるテセレーション作家に留まるつもりなのか。現時点では不明なのだ。
作家に留まるのなら、創作範囲をテセレーションに限る意味は小さくなる。Ikegamiの掲げた主題は「フラクタルという題材に対して折り紙は何をできるか」であり、彼の創作活動は分野横断的な幅広いものであった。「テセレーションの範囲でどのようなフラクタルが可能か」という問いでは折り紙の一部しか視野に入っておらず、実り多いものとはなるまい。
さいごに
本稿は、前投稿に含めるつもりで書いたものの狙いが散漫になると判断して省略した部分を記したものである。おそらくこれで、語られるべきことはすべて語られた。
語られるべきことが語られるというのは、当たり前のことではない。コッホの雪の完成報告がなされてから数が月を経た現在、国内外の著名な学術研究者・情報媒体がこの話題に触れた様子はない。彼らはこれからも語らないだろう。
語られるべきことが語られていく未来を切に願う。


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