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フラクタル折り紙の課題とその現状

はじめに

本稿は、フラクタル折り紙における英語圏と日本語圏の情報格差を是正することを目的とし、「Fractal Origami for Beginners」(Ikegami 2023)で提示された研究課題を和訳・解説するものである。

Ikegamiが提示した課題

(原文及び図は章末に示すリンク先のPDFを参照されたい。)
※訳注1:ブラウン運動に関する表記は、都合上一部修正した。
※訳注2:5.1で例とされているコッホ曲線は正確には5.2の例とした方が適切かと思われる。

練習1.1 再創作: 図8の部分的折り手順を基にして二分木のピラミッドを折れ。この結果である展開図は図9に示されているが、それに注目せずあくまで折り手順の方に集中せよ。なぜならこれは練習だからである。
練習2.2 平坦化: 図9の展開図は、ピラミッドの底面から垂直に立ち上がる不要な襞を枝の間に生成する。これらの襞を底面の裏側に配置しなおし、全て平坦に潰せ。その後、新しい展開図と有限種類の展開図構成部品を示せ。
課題1.3 任意繰り返し: このピラミッドはおそらく任意の繰り返し機構を構築できるだろう。フラクタルピラミッドの場合、すべての枝は同じn回目の繰り返し段階のものでなければならない。例えば、2段階目の枝と4段階目の枝を同時に存在させることはできない。この二分木ピラミッドはそれができる可能性がある。図10を見よ。有限種類の展開図構成部品を見つけてこれを示せ。

課題2.1 最適化: フラクタルピラミッドに変換できない平坦なテセレーション版のフラクタルピラミッドを折れ。注意としては、フラクタルピラミッドは平坦に折り潰せることと本質的なフラクタルの特性はその底面にあることである。上部の3次元立体部は装飾である。この課題の目的は、不要な立体部分を取り除くことである。それともフラクタルピラミッドはその底面にフラクタルの性質を実現させるためのもっとも単純な設計であろうか?図11を見よ。

課題3.1 五分木: 五分木のピラミッドを折れ。底面は正6角形となる。

練習4.1 木曲線: 木曲線の再帰的平坦折り畳み可能性を確認せよ。完成形と展開図は図12から18を見よ。
課題4.2 凹木曲線: 凹木曲線を創作せよ。これはコッホ作品のもう一つの単純化である。図12で完成形を見よ。
課題4.3 コッホの雪片曲線:木曲線と凹木曲線を統合してコッホの雪片曲線を作れ。図12で完成形を見よ。
課題4.4 再び任意繰り返し: 課題1.3と同様の挑戦をせよ。

発想5.1 ブラウン運動Ws (s∈[0, t]): 1次元ブラウン橋(W0=a、 Wt=b)を再帰的平坦折り可能な展開図の一部として使用せよ。図19でコッホ曲線を使用した場合の例を見よ。ただし、ブラウン運動においてこの挑戦はコッホの例と比べ非常に難しくなる。この挑戦では、無限個の無限折り作品を用意して自分がそのどれを折っているか不明でありながらも確率1で再帰的平坦折り畳み可能であると言えなければならない。
発想5.2 2次元のWs: W0=(0, 0)、Wt=(a, b)とせよ。発想5.1と同様のことができるか?
発想5.3 tの延長: Wsを発想5.2の解としよう。軌道の端点WtをWt’(t‘>t)に延長できるだろうか?Wt’の座標は未知とする。

(原論文)

各課題の解説と現状

1.1、1.2及び3.1: よく知られたフラクタルピラミッドは三分木であり、それの変種を作れというもの。二分木版は既に完成しているので入門者用の練習にちょうど良いということであろう。1.3については後述する。

3.1はたなかまさしによって実質解決されたとも考えられる。

2.1: 三分木のフラクタルピラミッドをいかに単純化できるか、つまり完成時における用紙の圧縮をいかに緩くできるかという問いである。この作品の持つフラクタル性は作品底面にあるため、平織りとして再設計すれば単純化は可能であろうという見通しがあったと思われる。

これについてはKei Morisueとたなかまさしが独立に解を発表している。

おそらく両方ともに圧縮率1/3であろう。元のフラクタルピラミッドは圧縮率(√2)/6=0.23…である。1/3より緩くできるかどうかが今後の研究課題だろう。

4.1~4.3: これはCharles Kinboteによって解決された。

ただし、Kinboteの設計は6回の回転対称構造(6角形構造)を使用しており原論文の意図している3回の回転対称構造(3角形構造)とは違うものである。3角形構造での完成可能性についての研究も今後期待されるべきであろう。

1.3及び4.4: フラクタル折り紙において、折りの繰り返しを任意の部分で任意の段階に設定できるかという問いである。ある点において繰り返しを無限に行う一方、その近傍の点では繰り返しを有限回に留めておくといったようなことが可能なのだろうか。そしてそういった極限へ飛ばすかどうかの選択をどこまで自由に行えるのだろうか。3.1の五分木ピラミッドについても同様の問いが立てられそうだ。(これを3.2とする。)

Ikegamiはおそらくコッホの雪完成後に取り組むべき課題はこれだと認識していたのではないか。なぜならそれは最後に示されたブラウン運動の課題に取り組むための準備となるはずだからである。

5.1~5.3: 1.3や4.4(もしくは3.2)で完成形が確率的に変わる状況を実現できたとすれば、次に想起されるのがブラウン運動の実現ということになるのは自然なことであろう。ただし、課題ではなく発想と題されていることから、おそらくIkegamiも曖昧な形でしかイメージできていないのではないだろうか。現実的にはまずランダムウォークから着手することになろう。

ひとつ気になるのは、1次元ブラウン橋を輪郭線として折り出せという課題が抜けていることである。4.3で雪片曲線の輪郭を作らせているのだから、1次元ブラウン橋を形作れという課題が発想されてしかるべきである。(これは5.1'としよう。)
※追記2025/02/10 確率的に外形が決まるのであれば、前投稿で言及した「最重要技術」が使えないはずなので、これは無謀な挑戦かもしれない。

ちなみに、ブラウン運動は無限個の軌道の集合であって、その元である軌道が統計的に一定の性質を満たすものとして定義される。「無限個の無限折り作品を用意」することになるのはそのためである。

まとめ

以上がIkegamiの提示したフラクタル折り紙の課題とその現状である。これで英語圏の情報と日本語圏の情報はほぼ等価となったはずだ。今後ともフラクタル折り紙の行く末を長い目で見ていきたいと思う。

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フラクタル折り紙の課題とその現状|汐綱
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