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                       會津ニ十




マリア様、わたくしたちをお救いください。
どのくらい扉の前にいたのでしょう。
マリア様、わたくしたちをお許し下さい。
暗い廊下をひたすらに歩きつづけます。

マリア様、わたくしたちの聞いたものは、
まぼろしでは、なかったのですか。

千佳子さんの愛らしい瞳から、ひとつぶ涙がこぼれました。
わたくしの胸も気がちがったように動悸がとまりません。
崩れおちそうになりながら、もつれるように長い廊下を歩きました。
千佳子さんは、しゃくりあげるように泣きだしてしまいました。
わたくしも、いつか一緒に泣きながら歩きます。
お互いに支えるように、しっかり手を握りあって。


「 どう  して・・っ 」
千佳子さんの声は、震えていました。
「あ、  んなっ ・・あのか たたち、  ・・」
恐怖と怒りに、かわいらしいくちびるが膨らみます。
恐ろしさに震えながらも、わたくしはマリア様の前でのお祈りを思いだします。

薫子さんはわたくしたちの大事なお友達、
淳子さまはわたくしたちの憧れのお姉様。

嗚呼、混乱する頭をかかえたくなりながらわたくしは考えます。
「 でも・・・・・ もしかしたら。」
「も、しか したら ?」
「薫子さん お加減が、 すぐれなかったのか ・・・も  」
「ちがうわっ !」
静まりかえった踊り場に、千佳子さんの声が響きます。
どんなに否定しても違うことはわかっているのです。

とろけるような甘い声でささやくお姉様、
悦びにうちふるえ笑い声をもらす薫子さん。

吉屋先生のおはなしの、清らかな少女たちとは違うなにかがひそんでいる声。
わたくしたちが、足をふみいれてはならないはずの世界からの声だったのです。


わたくしたちはか弱い2羽のうさぎのように、
ただ十字架を握り締め、涙を流しつづけました。



マリア様、わたくしたちをお救いください。




微かな響きが、遠く去っていった。
夢の香りは、するりと逃げていった。
苦く疼く足跡だけが、私のどこかに残る。

柔らかな羽根が、耳朶を掠めたような、
とても甘やかな夢を見た、気がする。


沈むような雨音に包み込まれ、寝台で重い身体をおこす。
梅雨のおとずれのせいだろうか、ゆれる様に頭がおもい。
お姉さまはいつもと変わらず、窓辺でご本を読んでいらっしゃる。
ぼんやりとした私に気がつき、ゆるやかに微笑まれる。
どんよりとした頭痛を振りはらい、いそいで身支度をととのえる。



運ばれる朝食を、お姉さまとご一緒する。




あなたがまたあなたとして、目覚める。
恐らくは覚えていないのでしょう、わたくしたちの偽りの夢を。
柔らかい髪が揺れるのを見ながら、昨夜の残り香をじんわりと噛みしめる。
痺れるような甘さの底の微かな苦みが舌にささる。



雨音はわたくしをさいなむように響きつづける。
偽りの夢の成就は偽りの喜びの悔恨、始めからわかっていたこと。
欲深いわたくしは、そして飢え渇える。
この子といだきあい飛びこみたくなってしまう、
溶岩の燃えさかる火口に、更なる地獄の果てに。

さめてしまった紅茶に口をつける。


「お先に、行ってまいります。」



雨音の中、薫子の足音が細く消えていった。











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