10
吉屋かめ乃
混濁して熱い頭をかかえ、
放課後のざわめきも耳をすり抜けるままに、部屋に戻る。
読み止しの本をうっかり持ち出してしまった。
寝台に沈み込む。
貴城さんと、淳子お姉様・・・
お姉さまは貴城さんに、何をなさったの?
今までも、そういう・・・・・・嗚呼。
「 あら、薫子さん・・お食事はもう摂られたの?」
お姉様のお顔が見られない。
「 はい、 もう・・・」
「嘘。・・・すこし痩せたのではなくって」
お姉様に見られていると思うだけで、なぜか熱い。
ひとつずつ体内に落ちてゆく甘苦い滴りを振り切るように、寝台を立つ。
「大丈夫 です。」
薫子は背中を向け、うまく動かない指先で仏語辞典をひっぱりだし、
格好だけの明日の予習をはじめる。
すこし、過剰だったかしら。
とは云えわたくしは、美麗なお人形に口唇でふれただけ。
しばらくして、淳子には視線を向けぬまま入浴の仕度をはじめる。
「お風呂、戴いてきます。」
「どうぞ。 」
つま先で温度をたしかめ、湯船に身体をうめる。
どうかしてるわ、わたし。
ゆるい水圧の中で膝をかかえ、小さくなる。
湯面ぎりぎりに顔を近づけて瞼を閉じる。
・・・どうか、してる
ふっと水面に接吻けると、幾重にもゆらりと波紋が広がって視界を揺さぶる。
心音が盛大に耳へ響き、三半規管を狂わせる。
いけない、のぼせたみたい
白いバスタブの縁に手をかけ、立ち上がろうとする。
が、湯が絡んで捕まってしまったかのように、まるでままならない。
胸が、焼けつくよう・・
浴室の扉を指先ではじく。
「薫子さん、どうかなすって? 薫子さん 」
どう少なめに見ても、九拾分は経っている。
すこし強く、叩く。
「 かおる、こ・・・・・・・・っ! ! ! 」
扉の隙から飛び出した熱い身体を、咄嗟に受けとめる。
すべてを預けきった身体からは蒸気が立ちのぼり、
この幸福な錯覚は、いちどに淳子を感動させた。
魂を手にした、錯覚。
「気分、わるいのね? 」
返答はなく、熱い吐息だけが吐き出され続ける。
淳子はなかば薫子の肢体を引き摺るようにして、寝台へと運んだ。
薫子の仏語のノオトで風を送ってやる。
軽い風邪かもしれない。発熱している処に入浴してのぼせた、かしら。
どうにかして自力で纏っていた浴衣が、汗ではりつく。
薄く開いた口元へ手を伸ばし、吐き出される息の熱さをたしかめる。
「 ん ・・・・ぅ。」
苦しげに熱にうなされるのを、悦楽の眼差しで見据える。
大きく上下する胸、
すこし眉間を寄せて、いつもの倍ほども赫い口唇をして。
誘われるまま、淳子自身にも思いがけず、そうっと額に手をやる。
しっとりと汗ばんだ肌が吸いつく。
細かく、睫毛が顫えた。
あなたに触れることは、わたくしの唯一神聖で、果てない想いに触れること。
あなたがあなたで在り続けるかぎり、
わたくしはあなたの望みを、叶えて差し上げられない・・・
弱い顫えが、歯を鳴らす。
大きく息を吸い込んで天を仰ぐ。もう、いいでしょう、神様。
お姉様の手が触れたところから、
ゆっくりと自分の身体が溶け出すのがわかる。
わたしは、何を望んでいるの。
お母様がくだすった銀の細い十字架を、もう宝石のように仕舞いこむことも構わな
い。
けがらわしいと云われようと、
わたくしは・・淳子お姉様に、もっと触れていただきたいのです。
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