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                          吉屋かめ乃




「どうぞっ!!」
感情が切れないのか、
月湖のよそゆきとは言えない声が、大きく響く。


「いいわ、いいの、薫子さん わたくし・・」
「 だってひかるさん」


扉の向こうのかすかな声が、淳子を軽やかにする。
薫子、さん


「 あ ・・・ 」
「薫子さん、帰るわ、わたし・・・!」


内側から扉を開いた、すらりと長い腕。
淳子お姉様・・・!


「 お入りなさい、どうぞ。 」

「あの、御免なさい 突然お邪魔してしまって・・・」
「いいのよ。 さ、あなたも。」
「あ・・・ あの、失礼致します・・。」


嗚呼なんてこと。あの生徒会室に足を踏み入れてしまった。
壁に凭れ書類を捲る、生徒会長の月湖お姉様。
窓際で机に向かっている、会計のぶんお姉様。
それに、淳子お姉さま。


ソファに招く。
お友達のお付き合い、って処かしら。
なんにしても、この子が訪ねてくることこそに意味があるのだわ。
麗かな陽がセーラーの胸元を柔らかくつつみ、
滑らかな肌を一層淡く融かす。
誰に言っても解らないでしょう。
わたくしは、この子の果てない魂に焦がれているのです。



「なかなか来て下さらないからわたくし、
 幾らか余計に仕事をしてしまったのよ。」
「淳子!」
「なぁに。あぁ、お茶を淹れてくださるの? そこにフォションが…」
「あのねぇ、その前に。 此処へ通すお客は必ず紹介する、でしょう?」
「だって、薫子さんのことは月湖、存じ上げてるのでしょう?」


名前、覚えて下さっていた。

「でも・・・隣の彼女、あぁ ごめんね。あの、別に怖くないから・・・」
「あ、あの、月湖お姉様・・・これ、あの・・・」
「なん、なんでしょう。」

如何にも月湖の好みそうな娘。

飽くまで微笑みをたやさない淳子とは対称的に、
ぶんの顔色にはあからさまに呆れた色が浮かんでいる。
そんなに汲み取られやすくては、どうしても裏を固めてやらなければならない。
捨て置いてしまうには、縁が深すぎる。




お茶淹れたほうが、いいのよね?
深緑のスプリングに猫脚の細工がうつくしいソファを、立つ。


「 薫子さん。 」


追うように席を立った淳子が、ジノリを伏せる。

「 、あの・・・」
「やらなくていいの。」
「 え でも」

「淳子さんは、お気に入りのカップにはわたくし達以外、ふれさせないのよ。」


ぶんの物言いに、さすがに月湖も訝しげに眉を顰める。


「ちょっと、なんなの、ぶん。」
「なんでもないわ」
「淳子。」

「薫子さん、座ってらして。」
「 はい・・・あの、済みません・・」


ソファには月湖お姉様と、ひかる。
すんなり戻れといったって・・・
やはり、ご迷惑だった。
舞い上がって、こうして押し掛けるなんて。
重い手足が所在無くゆらりと振れる。


「フォション・・・聞いたことが・・」
「あぁ、淳子のお父様は舶来品を扱う仕事をされていてね。
 マドレヱヌ、とっても美味しい。ひかるちゃん、いいお嫁さんになるよ。」
「そんな・・・。」

「月湖さんは調理が苦手ですものね。」
「淳子! ええ、ええ。どうせ出来ないわよ。
 あら 薫子ちゃん?」
「お邪魔しました。ええと、・・先生に呼ばれておりますので。」

熱いポットを置く。けれど、追うことはしない。




「 あら、大和さん 丁度良かったわ。」
「学長先生」

学長の悠子先生。綺麗だけれど、すこしこわい。

「生徒会室に御用事? 」
「あの、はい、ちょっと・・・」
「そう。あのね、急で悪いのだけれど
 転校生の都合で、あなたに部屋を替えて貰う事になりそうなの。」

「寮の部屋を、ですか?」
「今週末には入れ替えて戴ける?」
「 あ、はい。 わたくしはどちらのお部屋に」
「上の階の、二人部屋ですよ。」









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