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                        會津ニ十







放課を告げる鐘が響く。


一日から解放された少女達が、花のようにざわめく。

あの日からいつも心の何処かに、あの方が息を潜める。
レミニスサンス、何処かで読んだ。
お誘いを頂いておきながら、伺えない。
失礼な下級生と思われてしまったら、どうしよう。
いいえ、きっと戯れに仰ったに違いない。

 

 でも、もし、覚えていてくだすったら。



そんな思いに囚われながら、ぼんやりと鞄を詰める。
隣でやはりぼんやりと、肘をついているのに気がついた。
「ひかるさん、鞄はよろしいの。」
たまたま、席が隣になったひかるはいつもとても大人しい。
真っ白な肌に華奢な物腰。
物憂いような瞳で、微笑みかけてくる。
挿絵の少女はこんなふうだった。
あの方のお側にも、きっとお似合いだわ。
体操着で駆け回るような自分など、覚えていらっしゃる訳がない。


「ええ。」
ひかるが小さな溜息をつく。
「どうか、なさったの。」


しばらく考えたような顔をして、ひかるは机から小さな包みを取り出した。
そういえば今日の実習はマドレヱヌの調理だった。
彼女の白い手が、一生懸命作っていた事を思い出した。
不器用な自分と違い、どこかの仏蘭西料理店のそれのようだった。
水色の薄紙に包み、細いリボンが丁寧にかけられている。
「 これをね 差し上げたかったの。」
白い頬が薄く薔薇に染まる。


「どなたに。」
「・・・・・・・・・月湖お姉様。」
そういえば、ひかるはよく体育館に来ていた。
いつも入り口から、そっと覗くだけだったけれど。


「でも、私、身体も弱いでしょう。倶楽部に伺ってもお邪魔になるだけだし。」
いつも駆け回っている自分からは、縁遠い言葉だ。
あかねから借りた本を思い出す。
そういう可愛らしいことを、私は考えもつかない。
「 今日は、生徒会のお仕事のはずなのだけれど、 いきなり伺うのも。 」
ひかるは泣きそうな顔をした。
つい、口をついてしまった。

「わたしと、ご一緒しない?」

「え。」
「大丈夫、いらっしゃいって、仰ってくだすった方がいるの。」
そう言って、片目をつぶってみせる。
躊躇する心を無理やり振りきった。










「もうすこし、真面目に出席なさいよ、淳子。」


どうしてそう、声が大きいのかしら。
悪い人ではないのだけれど、いささか乱暴な口をきく。
初等部からの付き合いの、月湖。
篭球部の部長で、下級生の人気は絶大だ。
畢竟、生徒会長にも選ばれた。
こういう事も嫌いではないらしく、いつも一生懸命で。
わたくしとは、大違い。


「最低限はしていてよ、あなたに文句を言われることではないわ。」
「じゃあ、今度の総会でたまには司会でもして下さる?」

「お、こ、と、わ、り。」

好きでなったわけではないわ。
貴女の選挙活動とやらに、いつのまにか引きずり込まれただけでしょう。

「あああ、もうっ、いっちばんの話題になるはずなのに。」
「総会はサアカスではなくてよ。」
呆れた月湖にくすりと笑う。
「兎も角、あなたを見たいって下級生は山といてよ、ねえ、ぶん。」

窓際で帳簿を整理するぶんに声をかける。
こちらを振り向きもせず、返事が返る。
「そうね、憧れの上級生ですもの。」
軽口に、棘が混ざる。




気付かぬ振りで、飲み物を取りに行く。
棚でジノリのカップを選び、フォションの缶を開ける。
薔薇の匂いが立ちのぼる。
生徒会は特別だ。
仕方なくわたくしは付き合ってあげている。






扉に小さなノックが響く。










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