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吉屋かめ乃
「そんな処に立ち佇まって。 いらっしゃいな」
悠子先生の学長室は南東を向いている。
差し込む春の日差しが
振り向いた横顔の、希臘の彫像のような面立ちを和らげる。
ゆったりと口角を上げ、招かれた応接セットへ掛ける。
「さぁ、どうされたのかしら。」
「 せんせ?」
「なぁに」
「わたくし、実は欲しい物が御座いますの。」
「 あら、それはあなた、お父上に仰ったらいいわ。」
微笑みが行き交う。
それを、わたくしが出て行くまで続けられたなら
少しはこころよく接して差し上げる。
天鶩絨のピアノカヴァーが、風に揺れる。
「…彼女、今晩も食堂に付き合って下さらないみたいで。
最近よく、先生のお話だけは伺いますけれど」
「 ・・・・・・わたくしにしか、あげられないものかしら?
云ってご覧なさい。 」
沈丁花の香りが入り込む。
だから、言ったでしょう。
「 一年生の、大和薫子さん。」
貼り付いた笑みが深まる。
悠子の薄い口元にも微笑が戻る。
「あなたのたくさんのフアンが 泣いてよ。」
食前のお祈りを唱えながら
組んだ手の向こう、あの子を見渡す。
清らなうなじを見せ、瞳を閉じて祈っている。
声に、指に、笑顔。
いま欲しいとおもうのは あなたのことばかり。
ふいに視界を過ぎった影と目が合う。
真直ぐに怒りの感情をぶつけて来る。
下級生たちの視線が注がれる。
ふと、あの子を見遣る。 視線が交叉する。
ぶんが去ると下級生たちがおずおずと声をかけてくる。
「淳子お姉様、なにか・・・」
「皆さん、お気になさらないで ごめんなさいね。 」
手続きなど、大層なこと。
ただ、悠子先生、あなたが薫子の荷物を運んだら早いわ。
待ち遠しくて気がちがってしまいそう。
林檎を一片戴いて、席を立つ。
誘われるまま、薫子の清冽な後姿を追っていた。
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