大川原冤罪、遺族は警察・検察の謝罪拒否 「尊厳踏みにじり続けた」
化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の冤罪(えんざい)事件で、警視庁と東京地検の幹部が20日、大川原正明社長(76)らに直接謝罪した。
違法捜査の過程では、元顧問の相嶋静夫さん(享年72)が亡くなった。遺族は「何が真実だったのか明らかになっていない」として、この日の謝罪を拒否した。
そして、楠芳伸警察庁長官、迫田裕治警視総監、畝本直美検事総長宛てに、要望書を送った。要望書の全文は以下の通り。
大川原化工機冤罪事件にかかる検証・謝罪に関する要望書
国賠訴訟の上告期限である6月11日に、警視庁の菅参事官および新河東京地検次席検事は、「原告をはじめとする当事者の皆様に多大なご心労、ご負担をおかけしたことについて深くおわびを申し上げたい」とお話しされました。しかし、そもそも謝罪すべきタイミングは2021年7月に起訴を取り消した時であったはずです。なぜこれまでの4年間、謝罪がなかったのでしょうか。
警視庁では、起訴取り消し後、速やかに公安部外事1課で検証アンケートが実施されたのに、これが破棄されました。
国賠訴訟では、起訴をした塚部貴子検事が「間違ったと思っていないので謝罪はない」と発言しました。2審では、亡相嶋静夫の取り調べを担当した松本吉博警部までもが、「相嶋静夫や遺族に対しての謝罪はないのか」との問いかけに対して、「謝罪はない」と答えました。そして警視庁は、2審の最終準備書面で、私たち原告の主張を「一部の捜査員らの臆測や思い込みによる筋書きをそのまま借用したにすぎない」と表現しました。こうしてあなた方は、この4年間繰り返し、亡き父の尊厳を踏みにじってきたのです。
あなた方は国賠判決が確定するや、謝罪の意向を表明されました。
しかし、20年3月11日に警視庁公安部5名の捜査員が自宅に踏み込み、家中を荒らしたあげく亡相嶋静夫を連行していきました。妻はこの光景がトラウマとして残っており、5年たった現在も全く癒えずにいます。このような状況において、何が真実だったのかの説明すらなされないまま、私たち遺族はあなた方の謝罪を受けることはできません。
私たち遺族は、下記4点を要望します。
そしてもし、今後改めて謝罪いただけることがあれば、検証により明らかになる事実を包み隠さず説明いただいた上で、「心労、負担」に対してではなく、「291回の任意取り調べに協力し、噴霧乾燥器の性能、機能を何度も丁寧に説明、捜査に協力したにもかかわらず、さらには犯罪の構成要件を満たしていないことを知りながら亡相嶋静夫や社長、島田さんの身柄を拘束したこと」について謝罪してください。
【要望内容】
①警察、検察関係者との利害関係を持たない第三者を検証チームに入れること。
②下記4点について検証チームによる検証を行い、結果を報告いただくこと。
(1)亡相嶋静夫が噴霧乾燥器の最低温度箇所を指摘していたにもかかわらず、なぜ再実験しなかったのか。そして、松本警部がなぜ「父はそのような指摘をしていなかった」と虚偽と思われる証言を行ったのか。
(2)亡相嶋静夫が最低温度箇所を指摘したことについて、報告を受けた宮園勇人第5係長が「被疑者の言い訳だ」と言って再実験を指示しなかったのは事実であるのか。
(3)亡相嶋静夫が20年9月25日に重度の貧血となったにもかかわらず、加藤和宏検事が保釈に反対したのはなぜか。そして、罪証隠滅を行う相当な理由とは何であったのか。具体的な説明をいただきたい。
(4)迫田警視総監は20年8月から22年8月まで、警視庁公安部長、警察庁外事情報部長に在任したが、その間に実施された検証アンケートを廃棄した経緯、理由は何だったのか。
③検証の経過において違法行為が確認された場合は、犯行を行った者について、厳正な刑事処分を行うこと。
④検証チームによる検証報告後、亡相嶋静夫に対する取り調べを行った松本警部、巡査部長および20年3月11日に富士宮市の自宅で家宅捜索を行った5名の警察官は亡相嶋静夫および遺族に対して謝罪を行うこと。
相嶋静夫遺族一同
東京高裁判決を受け、父の相嶋静夫さんの遺影を置いて記者会見に臨む長男(右)。遺族らは警視庁に謝罪と検証を求めている=東京・霞が関の司法記者クラブで2025年5月28日午後3時55分、宮武祐希撮影
警視庁と東京地検が上告断念を表明したことを受け、記者会見する相嶋静夫さんの長男=東京・霞が関の司法記者クラブで2025年6月11日午後5時45分、渡部直樹撮影