吉本ばなな大先生から「今日夜２０時から渋谷で若い美女とうちの超かわいいアシスタントともつ鍋屋に２時間ほどいるけどどう？行くとこなかったらぜひ！」とご連絡をいただいた。私の正しい使い方である。大先生からお誘いをいただいた際は、ノーチョイスである。こちらに人権はない。権力の犬（私）は「うわ〜い！大先生からお誘いをいただいちゃった〜！美人に囲まれてもつ鍋だなんてワクワクしちゃうな〜！」と、浮かれた。

シャイで輝くシャイニングボーイの私は、初対面の美女二人を前に「はじめまして」とクールを気取った。声は低めに。ダンディーに。聞き役に徹して「坂爪さんの前ではなんでも話せちゃうな」的なポジションを狙ったが、失敗した。組織に属していない私は、社交の場が苦手だった。雛壇芸人には絶対なれないような感じで、口角をあげながら、遠い目をしたり、目の前の料理を貪った。気を利かせてくれたアシスタントの方が「坂爪さんの荷物はそれだけですか？」と、話を振ってくれた。はっ！と思った私は「カバンはこれしかないのです。カバンの中を見ますか？」と言った。アシスタントの方は「見たいです！」と言った。

着替えワンセット、歯ブラシ、髭剃り、充電器、犬（財布代わりの貯金箱）、ベティちゃんのピルケース（エビオス錠を直入れ）、本、サングラス（これを海外でかけると一発で友達ができる）、タバコ、着用済みの服を入れる袋が入っていた。自分にとっては普通だが、皆様にとっては新鮮だったご様子で「やっぱり旅のプロは違いますね！現実に強い！」とおだてていただいた。写真を撮ってもいいですかと言われたので、もちろんですとは言ったもののどんな顔をしていいのかわからず、顔面を覆った。もっと自然な笑顔ができるようになりたい。生きていると、ぎこちなくなる。

途中までは浮かないように気を付けていたが、浮かないように気を付けている人生ってなんなのだろうと逆ギレして、途中からブーストをかけた。言っちゃいけないことを言おうと思い「◯◯さんが◯◯なのは◯◯だからですか？」と、地雷を踏みに行った。そこから楽しくなった。受け身はアカン。能動的に死にに行ってこその人生である。自分の傾向がわかった。相手の地雷を見つけて、それを避けるのではなく踏みに行き、一緒に死んで、一緒に生まれ変わる。無難なことができないから、生きるか死ぬかの勝負に出る。たいがいは死ぬのだが、死んだ人から生きはじめる人生の不思議。ばなな先生から「あたしも斬って〜！」と言われた。ばなな先生は何も隠していなかったから、何も言うことはなかった。ただただ「ばなな先生に小説があって本当によかった」と言った。

私は、今の生き方をしていなかったら犯罪者になっていたと思う。かろうじて言葉を扱うことができたから、ナイフの代わりに言葉で刺した。ナイフで刺すと犯罪だが、言葉で刺すと感動になる。出会う方から「自分のことを好きになりたい」とか「坂爪さんは自分のことを好きですか」とか言われることがあるが、自分を好きとか嫌いとか、ない。これが自分なのだから、これで生きる。言いたいことを言わない自分には腹が立つので、言いたいことは言う。言葉がはまった時は「やるじゃん」と自分を褒める。やるじゃんが蓄積すれば気分がいいし、やるじゃんと思えない日々が続いたら改革を迫る。やりたいことがあるけれど部署が変わったからできないとか、お金がないとか、勇気がないとか、そういうことを言う人を見ると「やめられるならやめちまえ」と思う。その程度で諦められるくらいの夢ならば、最初から要らない。別に、やるべきことなんてこの世の中に一つもない。やりたいならやればいい。やりたくないならやらなければいい。お金がないとか、勇気がないとか、家族がいないとか、理解者がいないとか、だからどうした。そんなことは、たいしたことじゃないだろう。嫌なことを嫌々やって生きるより、好きなことを思い切りやって死のうよ。一期はドリーム。ただ狂え。男一匹、今日も行く。