アメリカやイギリスの軍人と比べて“安い”自衛官の「“もしも”の値段」 殉職者への賞恤金の支給要件は曖昧で「高額な賞恤金が支払われた事例はほとんどない」
「あなたの命はいくらですか?」──そう尋ねられたら、なんと答えるだろうか。とっさに頭に浮かぶのは「命はお金にかえられない」という答えかもしれない。ところが現実世界では、命はお金に換算されてしまう。交通事故、医療ミスや労災などで人が亡くなると、「賠償金」が算定され、その額は性別や職業、年齢によって“差”があるのだ。
では、国や国民のために、自らの命を危険にさらす可能性がある自衛隊はリスクが伴う分、もしもの場合は“命の値段”も重くなるのか。 元陸上自衛官で、自衛官専門のファイナンシャルプランナーの佐々木拓也さんが解説する。 「自衛官は公務員なので、訓練や任務で負傷したり亡くなった場合、基本的にほかの公務員と同様の補償がされます」 佐々木さんによると、公務員が公務に関連して死亡した場合、「賞恤金(しょうじゅつきん)」という見舞金が遺族に支払われる。ただ、自衛官はほかの公務員に比べて、賞恤金が高額に設定されている。 「通常、国家公務員が殉職した場合の賞恤金は490万円から2520万円までを限度としています。しかし、自衛官の場合は、海外派遣など任務の危険度によって最高額9000万円まで支給されることになっています。 賞恤金がほかの公務員よりも高額に設定されているのは、“任務中に万が一のことがあっても国が補償するので後顧の憂いなく任務についてほしい”という意味合いがあるのではないかと考えています」(佐々木さん)
賞恤金の支給要件は曖昧
階級ではなく任務の違いによって差が生まれるようだが、実際には殉職者に多額の賞恤金が支払われるケースはほとんどないという。自衛官の待遇問題を専門とするジャーナリストの小笠原理恵さんが言う。 「私が知る限り、殉職した自衛官の遺族に高額な賞恤金が支払われた事例はほとんどありません。自衛隊の賞恤金は支給要件が曖昧になっています。 2004年に自衛官がイラク派遣中に襲撃され、亡くなったケースでは、賞恤金は一般の公務員と同様の2200万円ほどとされています。遺族年金は10年間までで、高額な賞恤金はなかったと聞いています」 自衛官のための生命保険もあるが、仮に紛争地や災害地域で殉職したとしても保険金が支払われることはないという。 「自衛官のために防衛省が用意している生命保険があり、ほとんどの自衛官は“防衛省で準備している保険なのだから有事の際でも支払われるだろう”と考えています。しかし、約款を読むと、支払いできない場合(免責事項)に『戦争その他の変乱』『地震・噴火・津波』等の記載があるため、状況によっては保険金が支払われなかったり減額される可能性があります」(佐々木さん)