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あたしは電話をかける。
「ごめんなさいね、昨日はKAORUが迷惑かけたみたいで。」
それは、あたしなりのテリトリーを画しようとする試み。
フローレンスへの、あたしなりの誠実。
KAORUという存在への、あたしなりの結論。
「もう、あんなことはさせないわ。」
「別に、迷惑とかじゃないから。気にしないで。」
「色々とね・・・・・急激に昇ると風当たりも強いから。」
こんな時まで、一番無難な言い訳が思いつくのね、あたし。
フローレンスに対して、見せたい自分を演出する。
素直に溜息をつくことが出来る、
あたしたちのバランスからは考えもつかない、あなた。
だから魅かれる。
「でも、これからはうちに住まわせることにしたから。」
電話を切って、やはりあたしは溜息をついた。
あたしたちは対峙して、握り合った手を離さないように、注意深く走り出した。
よりシビアに、より理性的に、そしてより計算高く、世間に成功を知らしめる。
閉ざされた扉の中でだけで、溜息をつくという暗黙の了解の中、
KAORUは複雑にカッティングされた石となり、縦横に光を撒き散らし始める。
大衆の目を眩ませ、マスメディアの波に乗り、
それを鼻で笑いながら。
「 KAORU、面白い?」
「 下らない。」
呪文のように、繰り返す。
前だけに目を向けるあたしたちが、脚をとられないように。
見えないものを見ないように、立ち止まろうとはしないKAORU。
日々が加速し続けた。
閉ざされた扉の中で、あたしたちはこま切れになっていた神経を繋ぐ。
それは語らいであったり、諍いであったり。
そして、お互いの身体を抱きしめあい、
磨耗しかけた感情のメンテナンスに勤しんだ。
彼女が切ないまでに見過ごそうとするのは、ただ一つのものだけで。
それがよいことなのか悪いのことなのか、あたしにはわからない、
けれど、あたしはそんな彼女を見過ごした。
「できたよ、Lee。」
湯気の立つパスタ皿を両手に、パジャマ姿のKAORUが笑う。
「なんか・・凄い量ね。」
「だって、消費カロリーについてかないよ、この頃。」
あたしの横に座り込んで、もうフォークに絡めだす。
「あたしのカロリーはどうなるの?」
「Leeは平気、太ったりしないって。」
「なんか、逆ね。」
「ほんとだ。」
ブラウン管ではコレクションのレポート。
次々に色を変えるKAORUが映し出される。
「もっと、いい服あるのになあ。」
肘を突いて、口を尖らせる。
「一般受けするやつを選ぶのよ。」
「つまんないの、ばっかり。」
「大衆に迎合する。ある面では必要でしょう。」
「わかってる・・・つもりだけどね。」
リモコンで音量を下げる。
「でも、理解はしきれない、かな。」
「したくない、でしょう。」
「じゃあ、Leeは?」
「できないわね、きっと。」
「大人げ、ないね。」
そして、笑いあう。
彼女はよく笑う、この扉の中でならば。
とりとめの無い会話を続けながら、食事を終えて、
ソファに凭れるあたしの膝にKAORUが頬を摺り寄せる。
柔らかくかかる髪と小さな耳朶を弄びながら、軽く口付ける。
「オリーブオイルの味がする。」
「厭?」
「ん・・・・・。美味しい。」
「まだ、足りないの?」
口角が誘うように上がり、指があたしの首筋を弄る。
「 ある意味。 」
そして、くすぐり合うようにソファに沈み込む。
シルクをなめらかに滑らせて、細い肩から鎖骨へと、
触れるか触れないかほどに舌を這わせる。
小さな笑い声をあげながら、KAORUの指はあたしのローブに忍びこむ。
幼子が母にするように、おずおずと胸を探りだす。
KAORUに又一つ色が増えてゆく。
彼女に唯一足りなかった色彩を知ることで、
KAORUの、輝きは加速度的に増してゆく。
なにもかも吸い込んで、繊細で大胆で、用心深くて奔放で
清浄で淫猥な、研ぎ澄まされた石になる。
全てを魅力に昇華してしまう。
首筋が震え、仰け反った口元から湿った吐息が漏れ始める。
はだけた胸が、上下する。
「気持ち、いいの?」
睫を顰め頷こうとする姿が可愛くて、頷けないほどの快感を送り込む。
「 ・・で んわ。」
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