5
能率悪く仕事をすることほど、精神衛生上まずいことはない。
偏頭痛を抱えたまま、あたしはリビングの片隅に腰を下ろす。
ワインの瓶が無様に転がる、それでも一向に酔う気配はやってこない。
あの子の位置で、目を凝らす。
見えなかった空間が、ぽっかり口を開く。
あたしは、常にあの子を見下ろしていたのだろうか。
あの子は、常にここからあたしを見上げていた。
寄り添い座っているつもりでも、
あの子に対して、どれほどにおこがましい保護者面をしていたことだろう。
自己嫌悪の歯止めがきかなくなる。
イーブンな関係に、なることが怖かった。
その時から、あたしはあの子に捕らえられる。
あの子の内面に渦巻いている、未だ形を成していない様々な闇と煌きと。
時折無意識に放出されるそういったものを、あたしはまともに受けたくはなかった。
だからお互い少しだけ角度を逸らしながら、眺めようと思っていた。
あたしの視界からその存在が消えるなどとは、既に考えるはずもなく。
それほどに、あたしは浅はかだった。
浅はかな身体を抱え、ベッドで浅く寝返りを打つ。
それはまどろみなどという心地よいものであるはずはなく、
こみ上げそうななにかを、苦く飲み下すことの繰り返しにすぎなかった。
フロ-レンスに対し、そしてKAORUに対し、あえてとり続けた距離の苦さを、
初めて噛み締めながら、この街の夜にあたしは沈み込む。
世界が微かに軋みだす。
夜が明けてゆく音がする。
差し込む乾いた薄明かりに、部屋がモノクロームの翳を帯びる。
「・・・あなたのお陰で眠りが浅いわ。」
乾ききったモノクロームの朝に、KAORUが蹲る。
崩折れたような身体を丸め、あたしに初めて気が付いたように口元が緩む。
見上げる瞳を縁取る睫が、揺れてその動揺を顕わにする。
自らを抱き続けたその腕で、あたしはKAORUを精一杯抱きしめる。
「もう行く所がなくて・・それで・・・」
「ここでいいじゃない。」
「よくない、けど、 」
引きずるように、あたしは彼女をソファに連れてゆく。
引きずられるように、彼女は強張ったまま沈み込む。
言葉にしなければ伝わるはずも無い思いを、伝えようとするかのように、
あたしは彼女を抱きしめた。
「私に庇護されていると思われるのが厭?」
「ううん。そうでもない。」
「私に愛されている自信がある?」
「あるわけないよ。」
肩に凭れる身体は、小さく震えあたしに擦りつけられる。
それはまるで、群れからはぐれた動物が仲間を確かめようとするように。
原始の本能で、その仲間を必死に見つけようとするように。
あたしを、求めようとするように。
「ねえ、・・私もっとLeeの服と対等になるわ。」
「ええ。」
抜けてゆく、強張り。
柔らかい、頬。
「フローレンスのところへ、行ってた。」
「そう。」
確かめていたのは、あたし。
求めていたのも、あたし。
「KAORUと私がそれだけの仕事で成功することを前提にするなら、
私は、あなたをきちんと愛してもいいのかしら?」
彷徨う、けだものたち。
お互いの舌を味わいながら、確かめあって。
「ここに、一緒に住むわ。」
「 そうね。そうしましょう・・・・・」
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