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それからというもの、Leeとの食事は大抵KAORUも同席するようになった。
話すのは私とLeeばかり。
話しかければ答えるけれど、あとは静かに食べている。
見ているだけでも幸せになりそうな彼女を、側におくLeeの気持ちもわからないでもないけれど。







KAORUはLeeの紹介で、私と同じジムに入ったようだ。
Leeの姿なぞついぞ見かけたことは無かったけれど、
ステイタスとしての会員権は持っていたらしい。
KAORUは私の様にノーチラスで汗を流すような真似はせずに、
朝のプールで滑らかに泳いでさっさと帰ってしまう。
その肢体に目をみはるものや、更には声をかけるような身のほど知らずどもに、
冷たい一瞥も与えずに。








今日は裁判所に行くのはお昼過ぎの予定、サウナでゆっくり汗を流そう。
午前中のこんな時間には滅多に人のいないはずなのに、
蒸気を上げる石の向うに人影が見える。
タオルから覗くすんなりとしたシルエットに見覚えがあった。

「あ、フローレンス。」
KAORUが決まり悪そうに、声をかける。
なんかこの子は私といるのが、居心地悪そうなのよね。
私そんなに、かみつきそうな顔なのかしら。

「あら、珍しいわね。」
いけない、いけない、なんかぶっきらぼうだわ。
二人並んで腰をおろし、温度計をぼんやりと眺める。
こういう時は、まずわたしから何かいうべきよね。
「ほんとうに、きれいね。」
「え。」
「スタイル。」
ああ、どうして私もっと気が効いたこといえないのかしら。
「すっきりしてて、出るべきところは出てて。」
「でも、もっと胸とか痩せたいし。」
「ふうん、もったいないなあ。
 私なんか痩せてばっかりでもうちょっと凹凸が欲しいのに。」
そう、残念ながら、私は決してデブではないけれどいささか女らしさが乏しい体つきではある。
「ううん、フローレンスの方が体型モデルっぽいよ。」
あら、少しは喋れるじゃない。
「そうお、仕事間違えたかしら?」
「うん、細いし、肩もあるし、脚も綺麗だもん。」
「ありがと、嘘でも嬉しいわ。」

「別に、嘘でもないけど。」
「じゃあ、失業したらLeeに泣きついてみようかしら。」
「でも、失業しないでしょ。」
「今の処はね。」
「Leeが言ってた。すっごく優秀だって。」
「だから、Leeの会社の顧問弁護士なのよ。」
「遠慮とか謙遜とか、しないのね。」
「だって本当のことですもの。」
「ふうん、そうなんだ。」

ジョークで笑い飛ばされるかと思っていたけれど、
そうまじまじと人の顔を見るのはやめてちょうだい。
呆れているのか面白がっているのか、東洋系の顔は読めないのよ。

「ねえ、優秀な弁護士さん。」
あら、言葉にちょっと棘がない?
「Leeとは長い付き合いなの?」
「どうして?」
「別に。」
「どういう関係?」
「仕事兼遊び友達。」
「そうなんだ。」




もしかして、そういうことなのかしら。
Leeは確かに性別を越えて、人を魅きつけるものがある。
一緒にいて心地よいのは事実だし、へとへとに私が参っている時抱き締めてキスくらいはしてくれる。
もしかしたら私達がそういう関係だと思っている人達も、いるかもしれない。
でも私達は恋愛未満のボーダーで、ふらふらしているままの関係なの。
ちょうどぬるいサウナでまどろんでいるような。





言葉が途切れた私の顔を見つめていたKAORUは、ふいに目を逸らして。
そして、何も言わずに出ていった。
細いうなじが少し傾げて、寂しそうに見えるのは、
私の頭が、多分熱に当たった所為だわね。







それからは、もうジムで二人きりになることもなく。
食事で三人で会うときにも、そのことを彼女は忘れているかのように、話題にものぼらなかった。


相も変わらずLeeはジョークを眠たげに飛ばし、私はかわしきれず。
静かにKAORUは、聞いている。
コレクションでめきめきと頭角を現わす彼女は、
会う度ごとに垢抜けて洗練されたように綺麗になってゆく。
綺麗なものが大好きな私はついつい会話に引きこもうとしてしまうのだけれども、
いつも二言三言でおしまいになる。
そのわりに、どうして必ずこの子はついてくるのだろう。





時折わく疑問は、書類作りに忙殺されて消える。








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