【 14 】
細い燭台が、頼りなげに浮き上がる。
地下へと続く石畳の階段。
じんわりとした湿気が、染み付いてくるような。
わたしは湿気を払うようにして、光を牢に向ける。
恭しく貴族の白い手が浮き上がる。
「りかさま、この者たちにございます。」
牢の中には年老いたけれど海の男としてならした風格の名残のある老人。
傍らに寄り添う娘が、火のような瞳でこちらをねめつける。
「ゆうひ、開けて頂戴。」
重い鍵の束から、貴族は一際仰々しいそれを取り出す。
耳に障る軋みと共に、扉がゆっくりと開く。
「お久しぶりね、ラッカム。」
「りか!」
ラッカムと呼ばれた老人は弾かれたように立ち上がった。
貴族が遮るように、りか様の前に立つ。
「失礼な。
こちらはサンタカタリーナのイギリス提督様ですわよ。」
「父さん、どうしたの?」
「こちらが娘さんね。」
褐色の肌に燃えるような怒りを込めて、娘の瞳がこちらを向いた。
「海賊まがいの真似をしていた貴様が、提督さまか。」
吐き出すように言い捨てる。
「・・て言うと、あんたたちがあの島を襲ったのね!」
後ろ手に縛られたまま、娘が叫ぶ。
「そう。そしてあなた方を、この島にご招待したのもわたくし。」
牢獄の粘ついたような闇よりも尚黒い髪を玩びながら、
りかさまは嫣然と微笑まれる。
「どうして、あたしたちだけこんなとこなの!
ねえ、みんなは?!」
貴族が汚れ物でも見るように、目を眇める。
「あなた方にはりかさまが少し御用があるのよ。
この屋敷に、でなければあなた方なんかを。」
「ロクな用じゃなさそうだな。」
用心深げに老人が呟く。
「そうでもないわ、あなた方次第よ。」
「貴様の言うことなど信じられるか。」
「あら、そうかしら。とても簡単な事だわ。」
「あんた、何がいいたいの?」
その失礼な物言いに、思わずわたしは手が伸びる。
「りか様に向かって、無礼な。」
娘の褐色の頬に、赤く跡がつく。
「やめておけ、アン。
こいつらは海賊まがいの真似をしていたが、仁義もなにもなかった。」
りか様が面白そうに言葉を返す。
「それがどうかして?」
老人が横を向く。
「馬鹿馬鹿しい、あなた方海の男達のつまらぬ作法に従わなかった事が、
余程にお気に召さなかったみたいね。」
「お前ほど血も涙も無い略奪者など、見たことも無い。」
「わたくしほど強い海の男とやらも、いなかったわ。」
目を細めて、くすくすと笑われる。
「それがあなた方のお気に召さなかったとしても。」
「狙いはなんだ?」
「あの子はどこ?」
「誰だ?」
「わかっているくせに・・・・
あなた方の年若い船長よ。」
「タニをどうしようっていうの?!
あんたたち!!」
娘が金切り声を上げる。
「我がイギリス領で、あまりやんちゃをされるのは困るのよ。」
りかさまの白い頬に、薄っすらと血が上り始める。
あの天使のことを考えているのだろう。
こんなじめついた暗い地下牢で、わたしに又嫉妬の火がともる。
「今はどのあたりの海なのかしら?」
「知らん。わしは陸へ上がった身だ。」
「あらそう、ならこちらのお嬢さんに聞くしかないかしら。」
「やめろ!娘に手を出すな!」
「では、思い出すことね、彼の航路を。
それまでは・・・・・・
ゆうひ、かおる、おもてなしして差し上げて。」
りか様の細い指が鳴り、わたしたちは壁にかけた鞭を手にした。
「結局、口を割りませんでしたね。」
「もう少し、責めていれば。」
血と、据えたような黴の匂いを纏いながらわたしたちは階段を登る。
蝋燭は随分と短くなってしまった。
「いいのよ、これで。」
りかさまは満足そうに振り向かれた。
「奴らは単なる餌ですもの。
彼をおびき寄せる為の。」
唇の裏を味わうように、舌が這う。
「だから、殺すわけにはいかないわ。」
貴族が心酔した瞳を上げる。
わたしはどうしても嫉妬の翳りを消す事ができぬまま、
りかさまを見上げる。
「さあ、あとは待つだけね。」
← Back Next →
| SEO |