TOP   






【 13 】

















あの方の唇が、血の滴るような肉を食む。




テーブルには溢れんばかりの薔薇の花。
触れたら破れそうな、絹地のような花弁が淫らに開く。



向かい合わせの貴族、ぴんと背筋を伸ばし、
いかにも品の良さそうな口元で食べてゆく。
わたしはあの方のお顔に見惚れそうになりながら、
ゆらゆらとフォークを口に運ぶ。



蝋燭の炎が揺らめく中で、
わたしたちの影は、長くなったり、交錯したり。
それは心の奥底を映し出すような、不安定な翳りを壁に描いてゆく。



りかさまはいつも、わたしとこの貴族を対峙させる。
わたしたちの剥き出しの敵意。
憧憬と嫉妬とのせめぎあい。
危ういようなバランスの只中で、
艶然と微笑まれるのがお好みらしい。









滴る血のような赤ワイン。
ビジョン・ブラッドの石に良く似合う。
様様な赤があるけれど、
あの方に一番お似合いなのは、いままさに固まらんとする前の、
澱んだような深い赤。
透き通るような肌と、漆黒の髪とのコントラストは、
この世の物とも思えない。
わたしは肉を口に運ぶのも忘れ、この方に見惚れてしまう。
そんな時は決して目は合わせて下さらない。
そんな残酷さに、わたしの芯は痺れるほどに憧れる。




ワインで艶めく唇が開く。
「ゆうひ、トルツカ島で何名か捕らえたのですって?」
「はい、りか様。
 陸に上がった元船長とやらを。」
「・・・・ラッカムね・・・」
「残念ながら、今の船長とやらは海に出ておりますようで。」


本当に残念なこと。
りかさまの求めていらっしゃるのは、あの金髪の天使。
あなたは二度も取り逃がしたというわけね。
わたはつい、茶々を入れたくなる。


「つまりは・・・・捕まえられなかったと言うわけね。」
貴族がこちらを凍るような瞳でねめつける。
わたしはそ知らぬ顔で、ナイフを肉塊に滑り込ませる。
そんなわたしたちを、りかさまは楽し気にご覧になる。
「帰ってくるまで待っているよりは、
 少しでも早くりか様の元へお連れするべきかと存じまして。
 勿論、島には未だ一小隊を残してはおりますが。」
グラスを置き、頬杖をついた目が光を持つ。
「捕らえた者どもは?」
「大部分は、官舎の牢獄へと繋いで御座います。」
甘やかな息が歌うように掠れ、ほっそりとした薬指が唇を拭う。
「・・・・というと?」
「ラッカムは、こちらの地下室へ、連れて参りました。」
そして、貴族は薔薇すらも凍りそうな微笑を零す。
「りかさま直々にお聞きになりたい事も、あろうと存じまして。」
真紅の花弁のような口の端が上がる。
「まあ、気が利くこと。」
「念のため、と申し上げましてはなんですが。
 娘も一緒に。」
「血を分けた娘・・・・
 ラッカムは情に深い男だから、いい餌にはなるわね。」、
心なしか頬が上気なさっている。
きらきらと虹彩が妖しく揺れる。


「では、ディナーの後の一幕は、決まりね。」
その艶やかなお顔は、閨房で見せるそれとどこか似て淫らに。
「ゆうひ、あなたとかおるで、口を割らせて頂戴。」
そしてグラスを目の高さに上げられる。


「素晴らしい今宵に乾杯。」














わたくしの可愛らしい天使たち。
ブルネットのかおる、プラチナのゆうひ。
憎みあい、嫉みあい、競いあって。
輝く金の髪をなびかせ駆ける、天使の足跡を追いかける。
彼をわたくしに、捧げる為に。



ああ、なんという美しい光景だろう。



















 ← Back   Next →
















SEO