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【1】






「サンタ・カタリーナ島のお祝をしましょう。」




燃え盛る炎に魅入られたように、リカ様が呟いた。
「今夜は、うんと綺麗にしてね。」
焼け落ちる街を背に、黒髪を金で縁取り、微笑んだ。

だから、今夜は白いドレスにしよう。
二人だけの時しか、着てはいけない少女のような薄いレース。
戯れにあの人がくれた黒曜石の首飾りを付けて、髪を巻く。
靴下は白の絹にしよう、手触りがいいから。
そして、唇に紅を一差し。





暗い廊下で盆がかすかに揺れる。
炎よりも濃い赤いワインがさざめく。
「リカ様」
重い樫の扉を開く。
黒衣の麗人が振り向いた。


注ぐワインが蝋燭の光りに映る。
「一緒に乾杯、ね。」
触れ合うグラスで光りが揺らぐ。
「まだ、持ってたの、その首飾り。」
驚いたようにリカの手が伸びる。
光る指輪の絡まる長い指に見とれる。
「宝石が欲しいのなら、幾らでもいいなさい。」


欲しいのは、あなたのくれるもの。
たとえそれが、どんな残酷なものであっても。
目を伏せて、又ワインを注ぐ。



「座って。」
長椅子にそっと腰掛ける。
慣れないドレスが、ふわりと広がる。
ワインで蕩けそうな瞳が、身体をくすぐる。
「綺麗なものは、好き。」
黒いレースに包まれた喉が笑う。
少し掠れた響きが、身体を熱くする。



屋敷に貰われてきた、その日からだった。
側にいるためならば、どんなことでも出来た。
切った人々の返り血に洗われながら、あなたしか見えなかった。
血を浴びた私を、綺麗だと言ってくれる。



柔らかく巻いたブルネットに指が絡む。
グラスにつけた唇が重ねられ、ワインが流れ込む。
暖かい液体に、喉が犯される。
緩やかに伸ばされる舌に、自分でも絡めてみる。
睫が震え、笑っているのが分かり、血が上る。

「欲しいの。」

残酷な問いかけに、目を伏せる。
喉元のリボンを自らの指で解き、霞む瞳を上げる。
唇から、鎖骨まで細い指が辿る。
「おっしゃい。」

あなたがくれるものなら。

寝台に身体が沈み込む。
慈しむような瞳に吸い込まれていく。
黒曜石が胸の谷間で揺れる。
「ビスク・ドール、みたい。」
黒髪が揺れて胸を覆う。
絹を通したリカの手に声が洩れる。
唇が笑い、そして遊ぶ。
切れ切れに喘ぐ声が、天蓋のカーテンを揺らす。
黒曜石が胸から滑り落ちる。
快感の波が揺らぐ光りに、寄せては返す。
飲まれそうになる度に引き戻されて、気が狂いそうになる。





街を焼き尽くした炎は、鎮まっていない。
小さな紅い唇が、かつえて又開く。
いつも側においておいた。
もう、離れることなど、許してあげない。
辛そうな瞳から溢れる涙を舌で掬い取る。
人形みたいなかおるより、今のほうがもっと好き。
だけど、言ってあげない、永遠に。
そして又、指を弾く。
声に嗚咽が絡まり、喉が限界まで反り返る。

「そんなに、嬉しいの。」
乱れた髪に潤む瞳が、縋るように見開かれる。
震える喉が、言葉を搾り出す。
「・・・は、い。」
胸の残酷な炎が、まだ燻る。
指を絡め、舐めるように手をいざなう。



絡まった指が身体を這いまわる。
あの人の指と自分の指とが溶け合い、弄り、そして波が押し寄せる。
あなたの人形になれるなら、なんでもする。
溺れるまで血を浴びる。





重い夜の帳の底、レースの海に濡れた声が沈んでゆく。







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