TOP   









 『 クラップ・ゲイム 4 』







傾く日差しの中、タクシーを降りる。
慌しい排気ガスの臭いが、胸に心地良い。
色を失った街角で、競馬新聞を買う。





「いつ、帰ってきたんだ。」
背中であの声がする。
そして、又ゲームが始まる。



街のざわめきに紛れ、言葉は滑らかに滑り合う。
「女なんか、必要無い。」
「俺は、女を愛してる。」



言葉に出来る程に愛される、女。




「天使みたいだな。」



紛れる言葉が、血を流す。
匂いに惹かれて、奴が言う。
「1000ドル賭けないか?」
裏返した心で、俺はゲームに乗る。



「あの、女だ。」










「お前は、ギャンブラーじゃない。」
「相変わらず、殺風景な部屋だな.」
噛み合わない会話の綱渡り、辛うじての均衡を保ちつつ部屋に滑り込む。


「ヴェガスで5万の儲けだろ。
ホテル替えないのか?」
「何故あんな、賭けを。」


帽子の縁から、上目が覗く。
口の端が、笑ったように歪んだ。


「1000ドル欲しい、それだけさ。」



帽子を投げて、タイを緩める。
窓辺に座り、勝手に酒を注ぐ。
「外せないヤマなんだ、今度のは。」
飲みかけのグラスを、俺に差し出す。
「今更おりるなんて、言うなよ。」
おりられるものなら、とっくにおりているこのゲーム。
そして、俺も酒を飲む。
「折角、帰ってきたんだ。」



奴が顔を寄せてくる。
縛り付けられたように俺は微動だにせず、奴の祝福の口付けを受ける。
座る俺のタイを外し、シャツを開く。
「同情してんのか?女に。」
「まさか。」





お前は何を、確かめたい。



ひざまづく奴の首に、両手を回す。
「そのまま、締めてみる?」
面白そうに奴が言う。
吸いこまれそうな瞳に、言葉が消えて行く。
「やる気無いんなら、離せよ。」
心臓の鼓動を聞くように、胸にしがみつく。


塩柱になってしまった堕落と退廃の街の住人の、二人、時が止まる。
そして、崩れ落ちてしまえばいい。










暖かい舌が、左耳を浸す。
ピアスをゆっくり、舐めまわす。


「りかさん、気持ちいい?」
俺に乗る奴の、笑う声が響く。
「こんなとこに開けるなんて、どうかしてる。」
嬉しそうな舌が、囁く。
「言ったのは、お前だろ。」


「いくら、俺が言ったからって。」
お前に、磔にされる。
柔らかい吐息に、声が出る。
「一番感じるとこに、開けて欲しかったんだ。」
俺の心臓まで貫く針で。





「いっちゃって、いいよ。」
俺に貫かれ、奴は夢見るように口ずさむ。







俺達は磔のまま、
ただ、澱んだ血を流し続ける。














← Back   Next →












SEO