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『 クラップ・ゲイム 3 』
背骨の軋む音で、目が覚める。
通りのクラクション、猥雑な罵声が渦を巻く。
淫猥なこの街に抱かれる俺は、苦しくて心地いい。
薄汚れたシーツにに突っ伏して、奴と同じに。
.
コーヒーを淹れ、煙草に火をつける。
テーブルの指輪は、鈍く錆びたような色を帯びて。
華奢過ぎる指先は、弄ぶように指輪を外し放り投げた。
その指で弄ばれるならばと、眩暈がするほどに魅惑的で残酷なライン。
婚約指輪さえやれば、女はいつまでも待ち続けるのさ。
口の端を上げて、事も無げに言い切った。
午後の陽に沈む指輪を、摘みあげる。
華奢な指先が、俺の首筋に這いあがる。
「欲しかったら、やるよ。」
「罰当たりめ。」
疾うに紐の無くなったたガウン。
申し訳程度に引っ掛けたまま、俺を抱え込む。
「聖書の読みすぎ。」
耳元で、笑う。
赤い舌が、伸びる。
葉巻の染み込んだ苦い囁き、それでも十分甘すぎる。
「一人で天国、行くつもり?」
地獄でも、構わない。
お前と離れられるなら。
俺の祈りに共鳴するように、不意に奴は剥がれる。
冷めてしまったコーヒーを掴み、窓に寄りかかる。
乱れた髪が小さな顔に掛かる。
日差しを受けて、奴が振り向く。
瞳が俺を無防備に見つめる。
唇が薄く開き、そして閉じ。
この街に捕まった俺達は、イカサマでしか笑えない。
この街に囚われた俺達は、イカサマでしか喋れない。
奴の瞳に溺れる前に、俺は目を逸らす。
お前の吐息が纏わる前に、俺は椅子を立つ。
クロゼットを開き、スーツを選ぶ。
「お前も、用意したらどうだ?」
「やなこった。」
「俺は、行くぞ。」
「一人でね。」
滑らかな会話を、遠い国の言葉のように交わす。
自分の言葉など、疾うに忘れてしまった流浪の民のように。
締めるネクタイを、捻り取られる。
瞳に浮かぶ色は、俺と同じ偽り。
言葉を失ったまま、俺のシャツを引き毟るように。
「高かったんだぜ、これ。」
笑って言葉を投げる。
「儲けたんだろ、ダービー。」
笑って言葉を返す。
「1000ドルでいいんだ。」
そして舌が絡む。
誓いの言葉など紡ぐことはない、二つの舌。
ニューヨークの息衝きに合わせ、俺達の息は止まる。
手首を絡めとり、競り上がる胸に口付ける。
囚われの殉教者のように、かおるの溜息が洩れる。
妄想に囚われた王のように、俺は荒く歯を立てる。
溜息に喘ぎ声が混ざる。
意味を持たない音だけが、俺達の言葉となる。
殉教者と王は入れ替わる。
殉教者の瞳は、救いを求めるように王を仰ぎ。
王の唇は、許しを乞うように殉教者に開く。
求め合う身体が、隅々まで重なり合う。
髪を掴む手に、力が入る。
繋がる身体が、荒く揺ぶられる。
千切れるような痛みが突き上がる快感に、取って替る。
その一時、この街から俺達は解き放たれる。
「お前も、ハヴァナに来るか?」
剥き出しの言葉が、吐き出される。
しなやかな身体は、戸惑うように強張る。
そして、差すような痛みが突き上がり。
「一人で行けよ。」
炎天下のコロシアムで俺は奴に噛み千切られる。
喘ぎ声と嗚咽がクラクションと雑踏に混ざり溶ける。
ダイスの様に、運命の女神は酷薄な笑みを浮かべる。
「それで、帰るんだ、俺の処に。」
女神の掌、ダイスは転がり続ける。
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