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『 クラップ・ゲイム 1 』
悪魔が首筋を掴む。
座れ、船が揺れる。
乱暴なノックで目が覚めた。
しこたま汗をかき、ベッドから身体を剥がす。
誰だとも思わない、奴に決まってる。
ガウンをひっかけ、ドアを開く。
出来たてのアザで、奴が立つ。
珍しくも無い、こんな夜更け。
シャツのボタンが飛び、スーツも破れてる。
「さっさと、入れ。」
ニューヨークの闇が凍りつく。
軋むほどに冷える、夜更けの48番街。
安ホテルのヒーターが空気を揺らす。
「ったくよお、俺がイカサマしやがっただと。」
「違うのか。」
「騙される方が、悪いのさ。」
珍しくも無い、この街のルール。
「起こしちまった。ごめん。」
「お気遣い、どうも。」
こちらの思惑など関係ナシに、かおるが椅子に跨いで座る。
背凭れに乗せた顔が、上目を遣いこちらを伺う。
「アルコールくれよ。消毒したい。」
バーボンのスキットルを投げる。
「グラスっ位ねえのかよ。」
凍った窓を引っ掻いて、俺は額をガラスに寄せる。
イカサマの闇の中、ネオンもアスファルトも凍りつく。
マンホールの蒸気だけ、細く蠢き街路を覆う。
煙草で息をつき、椅子に目を向ける。
人の酒は、美味そうに飲みやがる。
「へえ、聖書なんか読むの。」
すばしこい瞳が、ベッドサイドを舐める。
「求めよ、されば与えられん、だ。」
「信じてんの。」
「お前よりはな。」
痣にかっぱらいのガキの笑窪が浮かぶ。
立てた指にダイスが挟まる。
「クラップやろうぜ。」
「何を賭ける。」
「聖書の教え。」
凍りつく夜に、ダイスは転がる。
夜明け前、ヒーターの音も消え。
蒸気のように吐息が洩れる。
「イカサマか。」
「騙される方が、悪いのさ。」
「天使みたいだな、お前。」
奴が乗って、俺は仰け反って。
人の唇を、美味そうに貪りやがる。
肌と肌とが、暖かい。
天国行きの船から堕ちるのも、かおるとなら悪くない。
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