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   『クラップ・ゲイム ×1』




  わたしは火をもってお前を練る

         銀としてではない。
           
             わたしは苦しみの炉でお前を試みる。

         ―――――― イザヤ書 48:10





薄っぺらい希望は潰え、安っぽい苦しみに覆われる。
この街で、その日を待ち侘びる。
主のもとに、悔い改めよ。
帰ることは、叶うのだろうか。
聖なる、約束の地。








「田舎に小さな白い家を買うの。」

レプリカントのプラチナブロンド。
プラスチックみてえな、口紅が囁く。

「暖炉の側で寄り添って暮らすの。」

作り物めいた体のライン。
迫り出した乳房に顔を埋め、息を止める。


この街一のショー・ガール。
毎日毎晩風邪をひく。
けばけばしい衣装から、溢れる肌を男達に晒す。
嘘くせえ愛を歌い、安い酒に悪酔いさせる。
差し伸べる手に、軽くキスをする。
陳腐な幕引きに、拍手喝采する。


母親って、知らねぇんだ。


そんな冗談を真に受ける、気のいい陽気な俺の女。
俺に惚れてるお前に、惚れてる。
俺に口付けるお前に、口付ける。
止処無く愛を語る唇を塞ぐ。
止処無く夢を見る瞳を塞ぐ。
お前のショーみたいさ、明日から目を背ける。


そして、ショーは続けられる。


小汚い街のアパートで、いつものようにベッドに入る。
14年前の婚約指輪に、優しく指を絡める。
剥げた化粧から覗くしみに、柔らかく唇を這わせる。
疲れた喘ぎ声を聞きながら、馴染んだ乳首を舌で転がす。

手の届く筈もない幻想の過去に、俺はお前を送り出す。
パッチワークのカーテンに、嬉し気に目を細める。
黄ばんだアルバムの田舎娘が、精一杯の笑みを投げる。

ロードアイランドから逃れられない女。
遠ざかる未来を信じ続け、通り過ぎた過去を待ち侘びる。


「かあさんから、手紙が来たの。」


玉蜀黍畑を渡る風に、俺の肺は腐るだろう。
夜空に瞬く星の音に、俺の耳は潰れるだろう。
土の匂いの大地に、俺は脚を掬われる。
穏やかな柔らかい日々は、俺の気を狂わせる。



約束の地は、どこだ。



排気ガスの饐えた空気で、俺は呼吸する。
昼よりも眩しいネオン管は、俺を眠りに誘う。
アスファルトに埋め尽くされた街路で、俺は風を切る。
息苦しい人々の群れに紛れ、俺は安らぎの時を漂う。

「かあさんに、手紙を書いたの。」


俺はこのショーが気に入ってる。
スターのお前、道化の俺。
台詞は疾うに入ってる。
だから、幾らでも云ってやる。

「愛してるぜ、キューティー・パイ。」









そんな目を向けるな。
蹴り殺される、野良犬じゃあるまいし。
分かりたくねぇんだよ。
愛し合ってるふりが、サマになってない。
ダービーの騎手よりも、危ういバランス。
首を折りそうなスリルだけに、乗っかって。

「女は、嫌いか。」
「欲しい時に、あればいい。」

白い膝から内股に、駒はじわりと進む。
研ぎ澄ました爪のように、言葉を交しあう。
ギリギリの感触に晒されて、そして又爪を研ぐ。
お互いの心臓を晒しながら、息を殺して狙いを定める。


「1000ドルでいいんだ。」
「この、文無しが。」

切れる声は、ただ欲情を呼ぶ。
俺達は、ただ捕食しあうだけ。
まるで、聖餐の宴のように。
骨まで喰い尽くす、そんな明日は真っ平だ。

「ヤキが回ったな。」
「あんた程じゃ、ねえよ。」

溺れるお前に、しがみつく俺。
大観衆の喚声の中、大きく馬が揺らぐ。
背骨を駆け上がる戦慄は、エクスタシーの波となる。
迫る大地は、俺を絶頂に押し上げる。

「お前も、来るか。」

うねる波に、引きずりこまれる。
喰いつくように、歯を立てる。
まるで、お前に焦がれるように。
薄く笑って、思い切りお前を沈める。

「勝手にしな。」







こんな街の夜明けに、クラクションは重く沈む。
薄明かりのこの部屋は、俺を苛立たせる。
プラチナブロンドの片隅に、昔の赤毛が僅かに覗く。
剥げた化粧から、少女のそばかすが浮き上がる。
葉巻が無性に懐かしい。


寝呆け眼の女を抱き寄せ、柔らかな太腿をさする。
何かを思い出しながら、俺は深く入りこむ。
欲望ならば、吐き出せばいい。
吐き出せぬほど根深く残る、もう忘れてしまった問いかけ。




俺と、来るか。




忘れてしまった答え。

約束の地は、どこにある。
 


目の無いダイスの、クラップ・ゲイム。








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