『クラップ・ゲイム ××』
光も無く、彼らは闇に手探りし
酔い痴れたかのように、彷徨う。
――― ヨブ記 12:25
神がサタンと賭けをする。
選ばれた生贄の街。
ネオン管に絶望だけがぬめり続ける。
伸ばす手すらも諦めてヨブ達は葉巻を燻らす。
紳士に淑女に浮浪者に娼婦。
狭間を泳いで、俺は生きてゆく。
街の老舗のテラ銭稼ぎ。
顔役と煽て上げる男達。
一つだけ確かなのは、つまんねえこと。
ダイスと一緒に日々は転がる。
客を騙して金を巻き上げる。
女を騙して夢を巻き上げる。
懐に札が溜まるほど、
背中に夢が溜まるほど、
なぜだか、咽喉が締め上げられる。
夜に慣れた俺の目に、ネオンはもう眩しさを失い。
N.Yに潰れた俺の瞳に、街は鈍く無彩色に沈む。
奴等の息遣いが、もう耳に届かない。
街は色を失い、俺は言葉を無くす。
都の底の漆黒の賭場に、導かれたように奴が迷い込む。
空気も操る、天性のギャンブラー。
女神も惚れこむ、粋な博打打ち。
巻き上げるだけ、巻き上げてやる。
骨までしゃぶろうと、舌が疼く。
「クラップやろうぜ。」
「何を賭ける。」
髭に隠れて俺は呟く。
全てを。
お前の瞳に、同じ翳が過る。
安ホテルに俺達は縺れこみ。
毟る様にソフトを捨てる。
慈愛を込めた両手で、お前を包む。
投げる様に服を脱ぐ。
この上も無い優しさで、お前に口付ける。
慈悲を施す様にタイを解く。
愛しさを込めて、胸に手を這わせる。
もっと悦べよ。
そんな、つまんねえ顔すんじゃねえよ。
夜更けの街路に、過ぎ行く車が霧を掻く。
スチームの熱に、凍った硝子が剥がれ落ちる。
俺達の体温に、薄いカーテンが揺れてざわめく。
お互いを掻き抱き、夜から脚を滑らせる。
奴を咥えながら、俺は気付いてしまう。
絶望的な、エピキュリアン。
髪に絡む指がこそばゆい。
舌を巡らせながら、俺は感じてしまう。
始末に追えない、二重写し。
背を滑る掌が温かい。
背骨を一節ずつ味わって、思う。
陽気で悲惨な、ペシミスト。
睫がまどろむよう伏せられる。
両脚を思い切り割って、入る。
反吐が出るほどの、大嘘吐き。
柔らかい唇が空気を求め開く。
それは、俺。
繋がり転がり落ちてゆく。
裏腹に身体が昇り詰める。
俺の目を開かせるな。
俺はお前に向き合いたくない。
だから、背中に縋りつく。
緩やかに、耳朶に舌を伸ばす。
そして、お前に流れ込み。
祈るよう、耳元に問いかける。
「俺のこと、愛してる?」
微かな震えが下肢を走り、
頷きは、裏腹に苛立ちを誘う。
追い詰められたように突き上げながら、
喘ぎに、唐突に思いが吹き上がる。
いきなり言葉が、口をつく。
「愛してるぜ、りか。」
つまんねえ事だけは、確か。
利かぬ目で、手を伸ばす。
擦れ違い、掠め、重なる筈は無い。
酔い痴れて、言葉を交わす。
問いかけも、答えも、伝わる事は無い。
それでも眠りは、俺に天国を垣間見せる。
お前も、来るか。
冷え切って薄汚れたリネンの隙間、いつまでも耳に残る。
行っちまえ。
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