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『クラップ・ゲイム 00』
主はソドムとゴモラの上に天から、
主のもとから硫黄の火を降らせ、
------- 創世記 19:24
埃が埋もれる街角に、奴の肩が風を切る。
瘴気の吹き上げる淫売宿に、奴の葉巻が漂い流れる。
腐った夜が澱んだ倉庫に、奴のダイスが転がり落ちる。
昨日も今日も見えぬまま、俺はこの街をやり過ごし。
明日も明後日もその次も、俺の運をやり過ごす。
日々は虚ろな偽りに、面白おかしく過ぎてゆく。
罅の入った鏡のように、いつしか世界が歪み出す。
都の底の漆黒の賭場に、いつしか俺は誘い込まれる。
奈落の果ての下水道、饐えた匂いが鼻につく。
ダイスは転がり、操られ。
女神は、俺に入れあげる。
俺は全てを、巻き上げる。
ただ一つを除いては。
そして肩に手がかかる。
細い爪の向こう、柔らかい笑窪が呟いた。
「クラップやろうぜ。」
「何を賭ける。」
そして俺は拒めない。
細い指を離れ、巧みにダイスが弧を描く。
纏わりつく翳のように、奴の足音が絡みつく。
引き下げたソフトの翳から、流れる葉巻が俺を縛りつける。
薄汚いフロントで、錆色の鍵を受取る。
エレベーターの軋みは、緩やかに俺達を狂わせてゆく。
この街のざわめきは、既に言葉の意味を消す。
スチームの蒸気が、凍りついた窓を揺らす。
俺達の吐息が、狭いベッドで揺れる。
指輪が愛おしむように、俺を弄び。
髭が嘲笑うように、俺を咥え込む。
上目が酷薄な色を帯びる。
唇が嘲りを形づくる。
俺は限界まで、押し開かれ。
奴隷のように、嬲られる。
螺旋を描く舌は、俺に巻きつき、絞り上げ。
楽園に忍び込んだ蛇に、俺は跪き、頭を垂れる。
蛇に吸い上げられ、俺は抜け殻となり。
蛇に貫かれ、俺は埋め尽くされる。
そして、肩越しに奴が囁く。
「俺のこと、愛してる?」
悦楽と断末の喘ぎで、俺は答える。
そして、疼きが背骨を上がる。
「愛してるぜ、りか。」
それは、意味を持たない、
明日には女に投げつけられる、記号でしかない。
罪人だけが、息付く時間に俺は煙草に火をつける。
この寝顔が埋め尽くす前に。
この身体に飢え渇える前に。
この街を発ち、ヴェガスへ逃れる。
炎上する都を後にした、ロトのように。
そして、俺は振返り、塩の柱となる。
ゲイムの幕は、上がったばかり。
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