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「あっ・・・・あ・・あっ・・」
「せ・・・せんぱ・・い・・っ!」
「俺・っ・・・!
・・・・もう・・・・・」
――きゅ・・・
――きゅ、きゅ ~~~~~~~~~
「・・・・・・紫吹先輩・・・なんか食べる?」
「・・・・おう。」
人間の三大欲求は、食欲、性欲、睡眠欲だとか。
でもって、そいつらは俺の中ではしっかり両立しているらしい。
ゆうがは真っ裸のまま布団を抜け出して、冷蔵庫を探しにゆく。
「・・・・おい。」
「ん?」
「何があんだよ?」
「バナナっ!」
すがすがしいまでに、即答される。
「だーかーらー!
昨日も今日もず―――――――――――― とバナナじゃねえかよおおお!!!!」
痛々しいまでに、絶叫する。
「せんぱーい、そんな声だしちゃ近所迷惑だよう。」
分かってる・・・そんなこたあ、分かってる。
これ以上無いほどの安普請のアパートだ。
壁なんか紙でできてんじゃねーか?と思うくらい薄いのもわかってる。
でもな、いくら俺がウエストラインに細心の注意を払っているといってもな・・・・
「なんで、そんなにバナナが好きなんだよお!!」
「だ、だって、月末で・・・金ないし・・・
それにっ!バナナはすごく栄養価の高い優れモノなんだよっ!!」
そういってゆうがはどん!っと枕元にバナナの束を置く。
ゆうがと大学の先輩後輩だったりする。
そして、目下一緒に暮らしてる。
いわゆる、同棲、ってやつだ。
大学一のいい男である俺、と大学一のアイドルであるゆうががとりあえずこういう関係であることはトップシークレットなわけだが、幸い男同士のルームシェアだろうと世間様は思ってくれている。
そして、今現在は築三十年の木造アパート、断じてマンションではない、なんかに住んでいる。
2K風呂無し。
そして今は月末。
絶望的に金がない時期なのだ。
結局のところ、布団にひっくりかえったまま俺たちはバナナを喰っている。
「あのひゃあ~、へんぱい~~」
「・・・・いいから、喰ってから話せ。」
「俺さあ~、なんかまだ夢みたいなんだけど。」
「なにが?」
「こんなふうに、先輩とずうっと一緒に暮らせるなんて。」
バナナで頬をぷっくりふくらませ、実に愛らしいことをゆうがは言う。
ふ、確かに俺くらいのいい男と暮らせるならば当然といえば当然の気持ちだろう。
その瞳に映っているのは、賞賛以外のなにものでもないところも可愛いじゃないか。
「でもな、おかげで貧乏だぞ。」
「そんなことっ!そんなこと、俺たちの前には瑣末なことだよっ!!」
片眉がきゅっと上がって、真剣に俺に訴える。
「俺はっ!先輩と一緒の方がっ・・・・」
「あー、わかった。わかったから喰っちまえ。」
ふわふわに乱れた頭を、くしゃくしゃと撫でてやる。
安心したように微笑んで、ゆうがは又バナナに戻る。
天使のような微笑を浮かべ、ゆうがはうまそうにバナナを喰っている。
おかげで俺たちの月末はこのところバナナ攻めだ。
ああ、ポテチが喰いたい。
せめてコーラ飲みたい・・・・・・
俺はしばし意識を飛ばす。
うぐっ、とバナナを飲みこんで。
「先輩っ!今、身体に悪いもの考えてたね?」
びしっ!とゆうががこっちを見る。
「・・・考えるくらい、いいだろ・・・」
俺はぶすっとして答えた。
見る見るくりくりした瞳に涙が溢れる。
「お・・・おい・・・」
「先輩・・・・俺なんかとこうしてること・・・
嫌気がさしてんだ・・・・」
えっくえっくしゃくりあげ始める。
「な、なんでそうなるんだよ・・・」
「だって・・・もっとちゃんと仕送りある奴と一緒なら・・・一緒なら・・」
ぽろぽろ涙がこぼれ始める。
「もっといい物・・・喰えるし――――――――っ!!!」
「い・・いや・・・俺、食い物だけにそんなにこだわってねえ・・・」
「風呂付マンションにだって・・・・住めたし――――――――――っ!!!」
「い・・・いや・・・徒歩三分に銭湯ある・・・」
「洗濯機だって・・・・・屋内に置けるし――――――――――っ!!!」
「い・・・いや・・・洗えれば、問題ない・・・・」
「ツギのあたってないパジャマ・・・・買えるし―――――――――――――――――っ!!!」
「い・・・いや・・・ソレ、着て出てくわけじゃ・・・」
「でもっ・・・!でもっ!!」
布団につっぷして肩を震わせる姿は可愛い・・・・実に可愛い。
いや、そんなこと考えている場合じゃないような気もするが。
だけど、やっぱりこの可愛らしさは犯罪級だ。
たとえツギだらけのパジャマを着ていても。
たとえせんべい布団の中ででも。
たとえフローリングじゃなくっても。
そんなことは、何の障害にもなりゃしない。
「でもな・・お前といるのが、俺は好きだぜ。」
後ろから抱きしめて、首筋に口を這わせる。
腹がなんとかなった途端、我ながら現金ではあるが。
震えていた体が、びくんっ!と止まる。
「・・・・・先輩、ずるい。」
「なにが?」
「身体・・・目当てなんだ。」
「ばーか。」
まだ成長期かよ、というすんなりした背中。
滑らかな身体に手を回す。
「まあ、身体も目当てだけど。」
耳を緩く噛むと、律儀に反応を返す。
「続き・・・・するか・・・?」
「うんっ。」
くるんっ!と向き直り嬉しそうなキスを返される。
俺もとっておきのキスを返す。
ともかく、俺たちは貧乏で。
ともかく、俺たちは幸せだ
なんたって、ふたりでいられるのだから。
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